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3

その次の日から、原口の周りで変化が起こり始めた。それは、決していい変化ではない。

今まで二人の中を黙認していたはずの学園の生徒の一部…、つまり伊集院の取り巻きの人間が、原口に嫌がらせを始めたのだ。

初めは小さなものだった。陰口から始まり、廊下を歩いていると足を引っかけられたり。
それは徐々に、ウイルスのように広がり蔓延していく。

ゴミを投げつけられる、机を荒らされる、靴箱に落書きをされるなど、どんどんとエスカレートしていく。

『伊集院様に忘れられていい気味』
『いい気になってるからだ』
『本当は忘れたふりをしているだけじゃないの』

原口に手を出しても伊集院から何のおとがめもないと分かった一部の生徒から、原口はいじめを受けるようになった。
原口はそれを誰にもばれない様に一人で処理する。
今日も原口は朝早く登校し、誰もいない教室で自分の机の中のボロボロにされた教科書を取り出し焼却炉に向かった。

その途中で、本当に偶然に伊集院に出会った。誰もいない廊下で、自分を見とめ伊集院が目を見開いたかと思うと眉をひそめる。
伊集院の顔を見るのは久しぶりだ。退院してきて、偶然にあったあの日以来伊集院と会うのはこれが初めてだ。伊集院が、自分を見ている。そう思うとたとえそれが嫌悪に歪められたものでも原口はとても嬉しかった。


噂では、伊集院はまた以前の俺様に戻ってから可愛らしい生徒をよく侍らせているらしい。そんな噂も、ご丁寧に原口に嫌がらせをする一団から聞いたものだ。


…元気そうだ。でも、心なしか顔色が悪い…?


歩いてくる姿を見てそう思うが、それでも、二度と関わるなと言われたからには声をかけるわけにはいかない。かといって踵を返すのもはばかられ、原口は仕方なしに伊集院から目をそらし俯いて歩く。

すれ違う一瞬、伊集院が自分をじっと見ていたなど原口は知る由もなかった。


焼却炉にボロボロの教科書を捨てて、原口は伸びを一つしてから鳥小屋へと向かう。
あそこには伊集院との思い出がたくさん詰まっていて、正直初めのうちは行くのが辛かった。どうしたって、幸せだったあの頃を思い出す。
それでも、最近はその思い出がとても大切で、逆に今まで以上に熱心に鳥小屋へと足を向けるようになった。慣れない手つきで、一生懸命一緒に掃除を手伝ってくれていた姿を思い出すと自然と口元が緩む。

だが、そんな笑みを浮かべていられたのも鳥小屋につくまでの間だった。



鳥小屋についた原口は、その光景に唖然として佇んでいた。

「あ、や、やばい!」
「なに、こんなはやくくるなんて…」

そこには、自分に対して嫌がらせをする生徒がいた。

「…なにやってんだ」

鳥小屋の床にばらまかれた煙草の吸殻や汚物、生ごみなどを見て九段の生徒たちを睨みつける。原口に睨まれ、少年たちは気まずそうな顔を一瞬したものの開き直ってフン、と鼻で笑った。

「なにさ、ちょ〜っと小屋を装飾してあげただけじゃん。」
「そうそう。平凡が出入りするにふさわしい、汚い鳥小屋にしてあげたんじゃん!」

悪びれることなくくすくすと笑いあう少年たちに、怒りが込み上げてくる。

床にばらまかれたものを、万が一にでも鳥たちが口にしてしまえばどうなるか。そんなことがわからないほど馬鹿でもあるまいに。

伊集院との大事な思い出の場所を汚されただけではなく、そこにある小さな大切な命までも踏みにじるような行為をされたことに原口は激しい怒りを感じた。

そして、気が付くと少年たちに殴りかかっていたのである。

「な、なにするんだよ!」
「ぼ、暴力ふるうなんて、最低…!」
「うるせえ!」

頬を殴られて尻もちをついた少年たちに、原口が怒鳴ると少年たちはひ、と体を竦ませた。


「俺に対しては、何をしても構わない…!だけど!だけどなあ、俺が嫌いだからって、何の罪もない鳥たちに何かするってのは間違ってるだろうが!てめえらはいつもそうだ!人の気持ちなんて考えず、自分の思うとおりにならないからって人の大事なものを簡単に平気で壊すような真似ばっかりしやがって…!ふざけんな!」

思わず相手に向かってもう一度振り上げたこぶしを、後ろから掴まれる。振り返ると、そこには無表情に自分を見つめる伊集院がいた。

「い、伊集院様!」
「伊集院様ぁ!た、助けてください!その平凡が…」
「だまれ」

助かった、とばかりに急にしおらしく伊集院に対して甘えた声を出して縋ろうとした少年たちを、伊集院がピシャリと切る。その低い声に、少年たちだけでなく原口も思わず息をのんだ。

原口の手を掴んだまま、伊集院は鳥小屋と倒れる少年たちを幾度も見比べる。

「…どうして」

ぽつりとつぶやき、掴んだ腕に徐々に力が入れられる。

「…たか、」
「いつもいつも…!どうして、なんだ!どうして、何も言ってくれない!どうして、頼ってくれない!どうして、気にも止めてくれない!そんなに、俺は頼りないか?お前にとって俺はその程度の人間だったのか!」

腕を掴んだまま、悲痛に顔を歪め叫びだす伊集院を不思議そうに見つめる。一体何を言ってるんだろうか。これでは、まるで

「あの、ときも…っ、俺は、言って欲しかった!ちゃんと、困った事や、嫌な事…っ!なんだって、相談して、欲しかったのに…!何も言ってくれないから、俺は役立たずなんだって…!必要ない人間なんだって…!」
「崇」
「…っ、こんな、こんなこと…っ、どうして、こんなひどいことができるんだ…!こんなことする人間しか寄り付かないような俺は、必要ない…っ!」

そう叫ぶと、原口の手を離して掃除道具を手に取り汚された鳥小屋の中に駆け込んだ。そして、涙を流しながら必死に掃除を始める。


一体どうしたって言うんだ。何が起こったんだ。


目の前で起きていることが一体どういうことなのかわからなくて、原口も少年たちも唖然として伊集院の動向を見守る。ふと我に返った原口が、慌てて同じく掃除道具を手に取り鳥小屋の中に入った。

「…ひ…っく、う…っ、」

静寂の中、伊集院の泣きじゃくる声が辺りに響き渡る。鳥小屋を汚した張本人である少年たちも、どうしていいのかわからずただその場で掃除をする二人を見つめる。

「どうしてなんだ…っ、俺、俺は、ただ、あいつが好きなだけ、なのに…っ、好きな人、と、いることが、そんなに…いけないこと、なのか…っ、好きな人さえ、自由に、選ぶ権利もないのか…っ」

泣きながら、虚ろに掃除をする伊集院を皆が見つめる。どこを見て、誰に対して言っているのか。まるで譫言のように放たれる言葉に、何よりも胸を痛めるのは原口だった。

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