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9

…が、当たった物は平べったくやけに冷たいものだった。何事かと目を開けて、自分と紫音の唇の間に物差しが差し込まれていることに気が付く。伸びている先に視線を移すと、そこにはツンと口をとがらせて二人の間に物差しを差し込む梨音がいた。

「…あの、梨音ちゃん…」
「せ〜んぱい?ま・さ・か!しーちゃんと、ちゅうしようとしたんじゃあないよね?」
「え」

いや、そのまさかなんだけども。何を怒っているのだろうか。二人の前だというのにキスをしようとしたからだろうか?

梨音のご機嫌をうかがうように下から上目づかいで見る晴海の前にずずいと顔を寄せる。


「しーちゃんを忘れてる間、う・わ・き!したよね?ねえ、秋田先輩?」


梨音に言われて、晴海がさっと顔を青くする。
そうだ。記憶がない間、自分は片っ端から可愛い男の子に声をかけまくってた。それは平然と紫音の前でもしたし、止めようとする克也を威嚇して話を全く聞き入れなかった。

「あ、あの、あの…」

記憶がなかったとはいえ、これは立派に浮気に入るんじゃないだろうか。真っ青な顔でおどおどとする晴海に、紫音が悲しそうに首を傾げる。

「…先輩…、他の子と、ちゅう、したんだ…」
「ちがう!してない、断じてしてない!」

うるりと目を潤ませた紫音に必死になって言い訳をする。だが、肩をつかんだその手さえも梨音に物差しでぺしんと払われ晴海はしゅんとうなだれた。

「…信じてもらえるかどうかわかんないけど、ほんとに何もしてないんだよ。あれは…、確認のために一緒にいただけだから」
「確認?」
「うん。」

双子にそれぞれきょとりとした目で見つめられ思わずちらりと克也に助けを求めるような目を向けると克也もいぶかしげな眼をしていた。梨音の追及を止めないあたり克也は相当尻の下に敷かれてるのが見て取れる。とはいえ、克也にも何の説明もしないまま無視をしたりしていた自覚があるので晴海は大人しく項垂れて言い訳を口にした。

「…記憶がないとき、それでもここに…心の中に、ずっと『大事なかわいい子がいる』ってのは覚えてたんだよ。でも、その『かわいい』ってのがどういうことかわかんなかったんだ。もしかして、容姿の事かと思って片っ端から俗にいう『かわいい子』に声をかけてみたんだけど…どの子も、違うって思っちゃって。俺が唯一、ドキドキしたのは実は梨音ちゃん。でも、いざ目の前にするとそれも違うって。梨音ちゃんを見て、かわいくてドキドキしたのは確かだけど、俺、その梨音ちゃんの面影って言うか…なんだろう。空気が、誰かに似てるって思ってドキドキしてたんだ。」

『梨音を見てドキドキした』の言葉にわずかに傷ついた顔を見せた紫音の頬をそっと撫でる。

「…似てるはずだよね。双子なんだもん。顔や見た目は全然違っても、俺が求めるのはやっぱりどこまで行っても紫音ちゃんだったんだ。」
「先輩…」

嬉しい、と喜びを隠さず伝える瞳に引き寄せられるように顔を寄せる。今度は、梨音は晴海と紫音の間を遮るような真似はしなかった。



それから、晴海は紫音と二人で名張を呼び出した。殴られたことに怯えていた名張だが、紫音を見るとグッと居住まいを正すところを見ると卑怯ではあるが紫音の前で情けない姿をさらそうとしない態度に晴海は少し感心した。
晴海は、少し後ろに下がり、話は全て紫音に任せた。紫音は自分の気持ちを偽ることなく名張に話す。


晴海が好きだ。お手紙の意味をきちんと理解できなくてごめんなさい。お友達としてしか見られない。自分の恋人は、大好きなのは晴海ただ一人だから。


そう伝えると名張は一度視線を落とすとぎっと睨むような強い視線を晴海に向けた。
そして、そのまま何も言わずにただ一度紫音の肩をポンとたたいて去っていった。


二人残された中庭で、晴海が紫音の肩を抱く。


「紫音ちゃん…ありがとうね。」
「先輩…」

にこりと微笑むと、同じように笑みを返す紫音を心から愛しいと感じる。
紫音を見てそう思えることが、本当に嬉しい。紫音にかけられた魔法は、幸せの魔法なのだろうと思った。



魔法をかけてあげよう。どんなつらい事も、悲しい事も、一瞬で消し去る魔法の言葉で。
この先、たとえどんなことがあったとしてもその全てを乗り越えられる、魔法の言葉。



二度と解けない魔法が永遠に続きますように。


「大好き」


end

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