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6

苛々する。

二人を見つけた晴海は、二人に対してその感情しかわかなかった。少し離れたところで何やら話し込んでいる二人を見ていると、壊してしまいたい衝動に駆られる。


どっちを?

なにを?


自分でも異常だとも思うほどの破壊衝動が、胸に渦巻いてじっとしていられない。これは何に対して向けられているのか。
ゆっくりと二人のいる方に歩を進めながら、晴海は病院で目覚めてすぐの事を思いだしていた。

あと少しで二人の前につく、というその時、ふいにこちらに背中を向けていた紫音が力なく俯いた。そして、名張が手を伸ばす。

その瞬間、晴海は自分でも制御ができないほどの感情に駆られ思い切り名張を殴り飛ばしていた。


目の前に、驚きのあまり大きく目を見開いて自分を凝視している紫音がいる。その顔を見て、晴海は自分の中の感情がさらに沸き立つのを感じた。

「…木村紫音」

低い声で、紫音の名を呼ぶと紫音はびくりと体を竦ませた。じり、と一歩近づくと怯えたように一歩下がる。

「俺さ…、思いだしたんだ。記憶をなくす前に、なにかをしようとしてたって。」

言いながら、じりじりと近づく晴海から一歩、また一歩と距離を取ってしまう。
思いだしたと言われて、本来ならば自分の事をかと思い喜んで問いただすべきなんだろう。だが、紫音はそんな晴海に恐怖を感じた。

その目が、まるでガラス玉のように何も写していなかったからだ。

「病室で目が覚めた時に、思ったんだよね。…俺は、誰かをぶん殴りたくてしょうがなかった。そう…、今、急にそれを思いだしたよ…。俺は階段から落ちる前、確かに誰かと喧嘩をしようとするところだった。」

確かに、晴海は名張のことを『殴りに行く』と屋上を出ようとした。そこだけ思いだして、今実行したのだろうか。それでは、なぜ晴海はこちらに向かって殺気を放っているのだろうか。
晴海のまとう空気が、臨戦態勢に入っている物だとわかる。紫音は、すっかり混乱してしまった。そんな紫音の混乱をよそに、晴海がまた一歩近づく。



「そして、俺が喧嘩をずっとしたかった相手…。それはきっとお前だ。木村紫音。」


…俺…?


晴海の口から放たれた思いもよらなかった一言に、紫音が呆然とする。
ぐっと前かがみになった晴海が勢いよく地面を蹴り、紫音に向かい拳を振りぬいた。

「せんぱ…!」
「っ、とお!ははっ、よく避けたなあ?おら、もっかい行くぜ!」
「先輩、やめて…!」

ビュン、と空気を切る音が耳元で幾度も唸る。自分に向かって繰り出される攻撃は、一切の手加減がない。


どうして。なぜ。
晴海は、自分に向かって喧嘩をしかけてくるのだろうか。

「先輩…!」

混乱しながらも必死に攻撃を避ける紫音に、晴海の目が嬉々とした色を浮かべだす。その目を見て、紫音は出会った当初の事を思いだした。


梨音を連れて初めて屋上に行ったあの時。梨音を背に庇った自分に対して、晴海が言った言葉。

『覚えてろよ』

その言葉通り、その次にトイレの前で会ったときに晴海は自分に対して明らかな攻撃態勢にいた。

いつか、晴海にその時の話をされたことがあった。晴海が、自分に対してその強さと手合せをしてみたかったと思っていたこと。自分に均衡する実力を持つ相手と戦ってみたかったのだと。あの時は笑い話で終わったけれども。


嬉々として自分に殴りかかってくる晴海を見て、紫音はずきりと胸が痛んだ。


それが、先輩の望みなら。


何回目かの晴海の攻撃を避け、紫音がだらりと力を抜いて立つ。

「ははっ、なに〜?諦めちゃった?けど、手加減しねえぜ!」

ダッと地面をけり、拳を握りしめ自分に向かってくる晴海。
自分と戦ってみたかったのが本能だったならば。


「あっはははあ!」


晴海が大きく笑い声をあげ、紫音に向かって握った拳を突き出す。



「先輩…、大好き。」



自分に向かって攻撃を仕掛ける晴海に、紫音は両手を広げて微笑んでそう言った。

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