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4

その日から、晴海はタガが外れたかのようにいろんな子と遊び歩くようになった。校内でも、俗に言う可愛らしいタイプの男の子に自ら声をかけ遊びに誘う。

それを咎める克也に今まで見たこともないような恐ろしく冷淡な顔を向け、晴海は克也のそばにも寄らなくなった。

そして、梨音も怒りと悲しみに、晴海を責めようとした。だが、記憶がない晴海は自分の知る晴海ではなかった。腕を取られ、壁に押しつけられた。

「君さあ、ちゃあんと自分のこと理解してる〜?襲ってくださいって言ってるようなもんだよ?あは、俺さ、君は見るとすっげえドキドキすんだよね。…一回、ヤったら思い出すかなあ?」

見たこともないような目で見つめられ、梨音は恐怖のあまり動けなかった。
晴海の顔が近付いた時、そこに駆けつけたのは紫音で紫音は二人を引きはがし、無言で梨音を背に庇った。


そんな紫音を、晴海が人形のように見つめる。同じく紫音も、無表情に晴海を見つめた。



まるで、はじめの頃に戻ってしまったかのように。



「…チッ、」

しばらくにらみ合ううち、晴海が一つ忌々しげに舌打ちをして踵を返す。梨音は、紫音の服を震える手で握りしめた。

「しーちゃ…」

泣きそうになり、紫音を見上げ梨音ははっと息をのむ。

紫音は晴海の去っていく方をじっと見つめたまま、はらはらと静かに涙を流していた。



本当は、晴海に泣いてすがりたかった。

どうして忘れちゃったの。
どうして思い出してくれないの。

張り裂けてしまいそうなほどに苦しい胸の内を叫べない。目が覚めて飛び込んだ先で自分に向けた晴海の目と、言葉。

晴海が声をかける男の子たち。

『似合わねえあだ名』

病室で、冷めた目で見られ言われた一言が紫音を縛り付けた。


まだ晴海に『好き』と言われる前に、ずっと言われていた言葉の数々が甦る。そして、自分の見た夢も。鏡の中、ひどくゆがんで笑った晴海。梨音と比べられていたあの頃。


また、あの時のように言われたら。


優しく、甘やかしてくれる晴海を知った今、あの時の恐怖が甦り紫音はどうしても今の晴海に近づくことができなかった。

大好きなのに。

その大好きな晴海は、自分を忘れてしまった。
紫音はなすすべなく、ただ静かに涙を流すしかできなかった。



紫音たちから離れた後、晴海は可愛い男の子をナンパして中庭に来ていた。甘い言葉を紡ぎながら優しく頬にキスをすると、真っ赤になって恥ずかしそうに俯く。

そんな口説いた男の子を見て、ひどく苦い思いを胸に渦巻いていた。

それは病室で紫音を見てからずっと渦巻く思い。どうして、あの男はこんなにも自分をいらだたせるのか。どうして、かわいいはずのこの子を見ても本心から愛しいと思えないのか。

晴海はただやみくもに可愛い子を漁っていたわけではない。失くしてしまった大事な何かが、ここにある何なのかをずっとずっと探していた。
自分が心から望んでいたのは何なのか。ただただ、かわいいかわいいあの子、という思いだけが胸にあり片っ端から自分やその他一般でかわいいと言われるであろう子に声をかけていた。

それでも、どの子を相手にしても満たされない。

それどころか、かわいいはずのその子たちを見てもどうしても違和感をぬぐえなかった。


一体自分は何を求めているのだろうか。何をなくしてしまったのだろうか。

唯一、自分が見て胸が高鳴る人物がいる。それが、梨音。あの子が、自分の求める子ではないのか。だけど、いざ目の前に組み伏せると違うと感じる。だけど、梨音のまとうその空気を、気配を探る。そして、梨音を庇うあの男が現れると胸の高鳴りが苛立ちに変わる。

肩を抱き、抱き寄せた男の子越しにふと視線を中庭の奥にやる。

「…う…」
「あ、秋田さん?」

ゆらり、と残像のようなものが揺れて、晴海はひどくめまいを起こした。
心配そうに自分を見つめる男の子に、にこりと微笑みを向けると頬に手をやる。

「大丈夫。ちょっと頭が…」

そこまで言って、その後ろにある人影を見て晴海はピタリと動きを止めた。


自分たちのいるところから少し離れたところに、紫音がいたのだ。だが、紫音は一人ではなかった。誰かはわからないが、真面目そうな男子生徒と共にいた。

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