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3

一人残された病室で、晴海はぼんやりと窓の外を見つめ考えていた。

先ほど、克也と入れ替わりに部屋に飛び込んできて自分の手を握りしめたあの男。あいつの顔を見た瞬間に自分に沸き上がった感情。

あの男のことを考えるとズキズキと頭が痛む。

窓の外を眺めていると、正面玄関のところからちょうど紫音が梨音と共に歩いて出てくるのが見えた。二人並び、梨音が紫音の背中に手を回したのを見て晴海は自分がひどく苛立つのがわかった。

じっと見つめていると自分の病室の扉が開き、克也がやってきた。

「晴海」
「…」

窓の外を見つめたまま微動だにしない晴海の傍に寄り、克也が椅子に腰かけて一つため息をつく。

「ほんとに…覚えてねえのか、その…あいつのこと」
「…」

返事のない晴海の背中を、じっと見つめる。こんなにも晴海に対して何と声をかけていいのかを迷うのは初めてだ。いつだって晴海は口下手な自分に代わりチームの皆や他人との間を上手くとりなしてくれていた。言葉で人を納得させることの上手い晴海に、自分の言葉で上手くいい募ることができるのだろうか。

「はる…」
「なあ、克也。あいつ、なんなんだろうなあ。あんななりして人の事泣きそうな目でみやがって、気持ちわりイ」

背中を向けたまま言い放つ晴海に克也は驚愕で目を見開く。あいつとは、間違いなく紫音の事なのだろう。

「なに言ってやがる!あいつ、あいつは…っ、そんなあいつがかわいいって散々言ってたのはてめえだろうが!」
「は?何言ってんの?」

思わず叫んでしまった言葉に、くるりと顔をこちらに向けた晴海の表情を見て克也は息をのんだ。
今まで、見た事も無いような冷たい目で自分を見ていたのだ。

「あんなデカブツ、誰がかわいいって?バカなこと言うんじゃねえよ。俺がまるであいつの事気に入ってたみたいじゃん。」
「晴海っ…」
「ああもう、いいよ。気持ち悪い。あは、あの隣の子はかわいかったよね。その子の事を気に入ってたの間違いじゃねえの?なんであんな奴の事…二度と言うなよ。」

完全に紫音の事を拒絶した晴海に、克也はそれ以上の事を言えなかった。



三日後、双子の記憶以外の外傷がないことから晴海は一時退院となった。学校に来てチームのメンバーに囲まれ笑顔で心配をかけたことを謝る晴海を克也が苦い顔で見る。正門から校舎へと向かう途中で、晴海と克也の前に梨音と紫音が立ちはだかった。
とは言っても、晴海を敵のように睨みつけているのは梨音ばかりで紫音は梨音に腕を掴まれて泣きそうな顔をしている。そして紫音は、梨音に連れられ晴海の前に現れたものの晴海と目を合わせることができず、じっと下を向いていた。

「あれえ?どうしたのかな?ウサギちゃん。俺になんか用?」

へらりとして梨音に話しかけると、梨音はさらにきつく晴海を睨みつける。

「秋田先輩…、本当に、忘れちゃったの?あんなに、あんなに大事って言ってたのに。」
「なんのこと?」
「しーちゃんのことに決まってるじゃん!」

紫音の腕を強く引き、ずいと晴海の前に差し出すようにすると紫音は目を見開いて一瞬顔を上げ、晴海を見た。その目に、顔に、晴海の胸がざわりと沸き立つ。


これは、なんだ。


すぐに目をそらした紫音を睨みつけ、自分の胸に沸いた感覚に困惑したのを必死に隠す。
この感覚は、知っている。どこかで味わったことのある感覚だ。だが、それがどういったものの類であるかが全く見当がつかない。晴海はざわつく胸を無視してその顔にへらりとした笑みを浮かべて梨音に近づいた。

「先輩?」
「…君、かわいいよね。もしかして、君が言う『大事』って言ってたの、君の事じゃないの?君なら喜んでお相手願いたいなあ?なんなら今晩どう?」
「…っ!だめだ!」

今までした事も無いような露骨なお誘いを梨音にかける晴海に梨音よりも早く反応したのは紫音で、気が付けば紫音は梨音を背に庇い晴海の前に躍り出ていた。

「…!」

梨音を守るかのような紫音を目にし、晴海の胸が一層大きくざわめきだす。


これは、この感覚は。


「…チッ」

その胸に生まれた感情を無きものにするがごとく、晴海は紫音をきつく睨みつけて双子の横をすり抜ける。
梨音が何か晴海の背中に向けて叫んでいたが当の晴海はそれに一切反応を示すことはなく一人振り返りもせずに校舎の中に入っていった。

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