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2

目を覚ました時に、目に入ったのは白い天井。一体自分に何が起こったのか。

目を覚ました晴海はここは、と周りを見てどこもかしこも白い建物に独特のにおいがして病院か、と気が付いた。

だが、どうして自分が病院になどいるのか。病室には自分以外の誰もいなくて、とにかく看護師に話を聞こうとベッドから起き上がった。

「いっ…」

とたんに、ずきりと頭が痛んで手をやって包帯が巻いてあることに気が付く。

…頭を打ったのか…?

とにかく動くと痛むところを考えるとかなり激しく打ち付けたらしい。打った覚えが全くないんだが。
しばらくベッドの上でぼうっとしていると、がちゃりと病室の扉が開いて克也が現れた。

「!おい、目が覚めたのか!大丈夫か?」
「ああ、うん。頭かなり痛いけど。」
「ちょっと待ってろ」

そう言って克也は今来た道を戻り、看護師を呼びに行った。一人病室に残った晴海は、ベッドの上で痛む頭を押さえながら考える。

…ここに来る前、自分は何かをしようとしていたはずだ。とても大事なことだったはずなのに、どうしてもそれを思いだせない。
そして、大事な事、という文字にふとまた考える。

…自分には、とても大事な誰かがいたはずだ。一生、何があっても守ってやろうと決めた大事な大事な存在。

誰かの顔がおぼろげに浮かぶけれど、それがはっきりと輪郭を取ることはない。

離してはいけない、なくしてはいけないとても大事な何か。

「う…」

考え出すと、ひどく頭が痛みベッドの上で頭を押さえて蹲る。

「先輩…!」

克也が出て行った扉が開かれて、痛みに押さえていた頭を離して顔を上げる。そこに立ち、涙を流して自分を見つめる人物に、晴海はひどく胸がざわついた。

「先輩…!よかった…!」
「…!触るな!」

駆け寄ってこられ、その男に手を握られた時、ぞわりと全身に現しようのない感覚が湧きあがり思わず思い切り振り払ってしまった。その男は晴海の態度に驚愕に目を見開いて、固まっている。


切れ長の、きつく上がった目、薄い唇、いわゆる強面と呼ばれる部類に入るであろう目の前の男に怪訝な目を向ける。


「…誰だ、お前。うちのチームのやつか?」


晴海がまるで他人を見るような目で冷たい口調で話しかける男…、紫音はその事実にただただ顔を青くした。



「信じらんない!許せない!」

待合室をうろうろと歩き回りながら泣きそうな顔で怒る梨音。その向かいのソファですわりこんだままじっと下を向いて動かない紫音にどう声をかけてよいのかわからないまま克也も梨音と同じく眉を下げて頭を抱えていた。

克也が看護師を連れて晴海の病室に戻ると、晴海を目の前に固まり顔を青くしたまま動かない紫音と、紫音をきつく睨みつける晴海がいた。晴海は克也を見るなり、紫音を指さして舌打ちをした。

『克也、こいつ誰?チームに新しく入ったやつか?』

その言葉を聞いた時、克也は晴海が何か冗談を言っているのかと思った。だが、そうではなかったらしい。いくら尋ねても、晴海は首を傾げるばかり。看護師に言われ、晴海は診察と検査のために病室を出て行った。戻ってきたときに担当医から告げられた言葉は、
『記憶喪失』。
しかも、きれいさっぱり忘れているのは、紫音と梨音。木村兄弟の事だけだったのだ。

遅れてやってきた梨音を見るなり、晴海はへらりと甘い笑みを浮かべた。

『君かわいいね〜。君もチームに入ったの?』

梨音も、紫音と同じくその言葉にひどくショックを受けた。

『何言ってるの!?晴海先輩!僕、梨音だよ!隣にいるのはしーちゃん!わかんないの!?』
『…しーちゃん…?こいつのこと?あは、似合わねえあだ名』

梨音が紫音の腕を掴んで晴海に言うと、晴海はこともあろうかそれを聞いて考えようともしないで紫音を見て鼻で笑った。それに憤慨して晴海に食って掛かろうとする梨音を抱き上げて阻止したのは克也で、そのまま一時三人で待合室までやってきたのだが。

「…木村紫音」

克也に呼ばれ、紫音はピクリと体を反応させて顔を上げた。その切れ長の目にうっすらと浮かぶ涙に、克也はひどく胸が痛んだ。

「今の状態で、晴海に思いだせと迫っても無理だろう。さっき目覚めたばかりで、ああ見えても本人もかなり混乱していると思う。…一時、学校に帰れ。あいつと話してみるから。梨音、お前もだ。…こいつを今支えてやれるのはお前だけだ。そうだろう?」

克也に言われ、一人怒りを口にしていた梨音ははっとした。そうだ。なによりも、紫音を支えてやらなければいけないのに。

ソファに座る紫音に前に立ち、ゆっくりと頭を撫でると克也に向き直って頷く。

「…克也先輩、お願いね。しーちゃんは…、僕が守るから。」

梨音の言葉に、克也もこくんと頷くとそのまま三人はそれぞれ歩き出した。

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