5
「いち、や…」
うずくまる男の先に、無表情で男を見下ろす一夜がいた。
「ねえ、おまえ、和也に何したの?」
男が、ひ、と息をのんだ。
「和也」
一夜が俺の前に立つ。
先ほどの無表情とは違い、優しい目で俺の名前を呼ぶ。
「和、大丈夫だよ」
「…い、ちや…っ、一夜あ…っ!」
優しく両手を広げる一夜に抱きつき、俺はぼろぼろと泣いてしまった。
「なになに、どーしたの?」
「うわっ、佐伯どうした!?」
俺を襲ったイケメンは、佐伯と言うのか。
騒ぎに、リビングにいたみんながかけつける。
みんなが見てるのに一夜は俺を胸に抱きしめたまま離さない。
俺も、見られてるというのに涙が止まらず、しゃくりあげて泣いてしまっていた。
「ってぇな、殴ることねえだろ!ちょっとからかっただけじゃん」
ちょっとだと?お前はちょっとで人を犯そうとするのか。
「え、なに、佐伯もしかして和也君に手え出そうとしたの?」
「うわ、さいてえ〜。つか相手選べよなあ」
「ていうかさ、佐伯いつものことじゃん、ちょっといたずらがエスカレートしたくらいだろ?和也君もそれくらいで泣いちゃうんだ?」
「そ、そうだろ?一夜ってば本気で殴りやがんの。俺だって本気で和也君みたいな地味男くん相手にしないっつの」
…酔ってるとはいえ、めちゃくちゃだ。こいつら、最悪。
悔しくて悔しくて、唇を噛み締める。
「いつものこととか、それくらいとか関係ない。お前ら人をバカにしてんのか。
和也が泣いた、それだけで俺がキレる理由は十分だ」
いつもの、ゆるゆるとしたしゃべり方なんかじゃない。
酷く冷たく、聞いてるだけで震えそうな恐ろしい声で一夜が言い放つ。
「―――帰れ、二度とくんな。つか、二度と俺と和也の前に面見せんな」
バタバタと、部屋を出て行く気配がした。
一夜は、なかなか涙の止まらない俺を抱きしめながら寝室に連れて行き、ゆっくりとベッドに座らせた。
「和也、何された?どこ触られた?」
よしよしと頭を撫でられる。
「和也」
言え、と無言の圧力を感じる。
「…うっ、く、、き、キスされそうになって、よ、避けたらほっぺたに、」
「それから?」
どうやら全部言わなきゃ許してもらえないらしい。
[ 19/283 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]トップへ戻る