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「何があったの。お前すげえ一年の間で噂されてるよ」
放課後、教室で居残りをしていたら野々宮が現れた。アキラの前の席に座り、椅子をまたいで体をこちらに向けている。野々宮の言葉に、アキラは眉間にしわを寄せた。
「…いや、俺にもよくわからん。」
「よかったら話してよ。だめ?」
だめってことはないが、話したところで言い訳じみて聞こえないか。一瞬躊躇するも、じっと自分を見つめ話し出すのを待っている野々宮にため息をつく。
…まあいいか。
「昨日、階段の踊り場で駆け上がってきた崎田とぶつかっただけ。俺はけがも何もなかったんだけど、あいつは足痛めたみたいで今日そのことで一年の教室の近くで話しただけなんだけど」
アキラの話に、野々宮が怪訝な顔をした。
「あ〜あ、やられちゃったね。大方いかにもお前が加害者です的な言い回ししたんじゃないの?だから言ったじゃん、あいつ計算高そうだって。」
野々宮に言われ、一瞬言葉に詰まる。…なんでわかるんだ。
「いや、でもわざとじゃないだろうし。たまたまそんな感じになっちまっただけだろ」
「そうかなあ。けがだってほんとにしてるか怪しいもんだよ。薬師寺もその場にいたんじゃないの?」
…なんでわかるんだ。
「ああいうやつは強かだからね。薬師寺の奴もお前じゃなくて崎田の方を心配したの?」
「いや、崎田が歩けなさそうだったから俺より崎田をちゃんと見てやれって言ったから。ていうか崎田と付き合ってんだからまず崎田を心配するだろ?普通」
野々宮は突然真剣な顔をして、アキラをじっと見つめてきた。
「…な、なんだよ。」
「…俺なら、お前を心配するけどね。」
「…の、のみや…?」
自分を見つめる野々宮の言ったことがよくわからなくて、アキラはなんと返せばいいのかわからなかった。
「な〜んてね。さ、帰るか。腹減った〜!」
にっと笑い、立ち上がる野々宮に先ほどの意味を問いただすことはできなかった。
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