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その翌日。学園で崎田を見かけた。足に包帯を巻いており、びっこを引いている。
…足、痛めたのか。
「唐津先輩!」
ふとこちらに気づいた崎田が、痛そうに足を引きずりながら自分のもとへやってきた。
「昨日はすみませんでした。」
「いや、こちらこそ。足、痛そうだな。悪い。」
「そんな、先輩のせいじゃありません!僕が、僕が悪いんです!」
軽く謝罪して終わるつもりが、突然崎田が大声で言い大げさに首を振る。崎田の様子にアキラはびっくりして固まってしまった。崎田の声に、周りにいた生徒たちが何事かと二人に注目する。
「僕、僕…、こんなことになるなんて思わなくて…、これからは、気を付けますから許してください!薬師寺君にも、もう迷惑はかけませんから…!先輩から僕が謝ってたって伝えておいてください!」
「い、いやいや、まてまて。太陽にって、自分で言えばいいじゃん。」
「僕、僕…」
崎田はうるうると涙を浮かべ、しゅんと俯いた。
いや、ちょっと待て!なにそれ!?
アキラは崎田の態度にすっかり混乱してしまった。確かに昨日のは完全に崎田の不注意で起きた事故だ。でもぶつかったのは事実だし、それで足を痛めてしまったのは同情するし申し訳なくも思う。だが、そのことでなぜ崎田がそこまで泣きそうになり太陽に自分から伝えなければいけないのかが全く分からなかった。付き合っているのは崎田だし、同じ学年なのだから、崎田の方が太陽に会う率も高いしいつだってすぐに言えるだろう。
怪訝な顔で崎田を見ていたアキラは、そこで初めて周りから注目されていることに気づいた。
「なに、あの人…崎田様になにかしたの?」
「確か唐津って、薬師寺様にいつも引っ付いてるカラスって呼ばれてる人だよね。」
「崎田様、さっきの話からだとあの足のけがカラス先輩にやられたんじゃないの?」
ひそひそと聞こえてくる中傷に、思わずぽかんとしてしまった。今の言い方じゃそう取られても仕方ない。崎田の言い方は実に巧妙だ。だがここで言い方を指摘するのも、昨日の出来事を細かに皆に言うのもどうだろう。
…めんどくせえ。別にいいか。
「わかった。太陽に会ったら言っとく。じゃあな、お大事に。」
「は、はい!ほんとにすみませんでした!」
背中を向けて去る自分に、深々と頭を下げる。アキラは振り返り、いつまでも頭を上げようとしない崎田の態度に言いようのないもやもやとした感情を抱いた。
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