何があったのか、とザックスに聞いても彼が口を開くことはなかった。セフィロスは何処へ行ったのか、中で何が起こったのか…。もちろん気になるけれど、これ以上聞いたところで教えてくれそうにないと悟った私は、もう追及することをやめた。部屋は静寂。それを切り裂くかのように少し苦しそうにクラウドが目を覚ました。起き上がり、自分の不甲斐なさを嘆いているのか膝を立てて少し俯く。

「ティファは無事だ、安心しろ」
「俺もソルジャーだったらな…」

悔しそうに、また下を向いたクラウド。ザックスの表情が何故か少し曇る。それを感じ取ってか声を掛けるクラウドにザックスは、いつもとは違った声色で口を開いた。

「ソルジャーはモンスターみたいなもんだ。やめとけ」
「…ねぇザックス、もう聞くのはこれで最後にする。本当に何があったの」
「…分かんね」

分かってたつもりだったけど、と付け足して少し楽な体勢をとった彼は、やっぱり私の質問に、はっきりと答えるつもりはない様子だった。少し沈黙が流れた後、あーあ、とザックスは、そのままベッドに仰向けになった。心なしか、いつもの声色に戻ったような気がする。

「そういやお前ティファとは知り合い?」

二人の関係を単純に知らない彼がクラウドに投げかけた質問。まぁね、とクラウドはザックスに背を向けて、また俯く。ニブルヘイムに来てからというもの、その仕草ばかり見ているような気がした。

「話したのか?」
「…いや」
「何か訳があるんだろうけど、それでいいのか?」

返事はせずに膝を抱え込むクラウド。私は何も言わない方がいいような気がして口を閉じている。

「俺なんかさ…俺はソルジャーだから戦っていればいいんだ。面倒なこと考えるのは誰かに任せておけばいいんだ。何が起こってる?敵は誰だ?んなこたぁどうでもいいんだよ!」
「何言ってんの…どうしたの、って、ちょっと!」

ゆっくりと自らの大剣を手に取り、目に見えない何かを叩き斬ろうとするザックス。でも、それは振り下ろされることはなくて、いつか見たように自分の額に、その大剣をピタリと、くっつけただけだった。そして大きな溜息を一つ…驚かせないでよ。

「なぁ、ザックス。その剣使ってるところ見たことないぞ」

少し様子が違うザックスに動じず、全く違う質問を投げかけるクラウド。でも確かにそうだった。ザックスのが戦っているところ、もう何回も見たはずなのに、その剣の役目は、なかったように思う。クラウドの唐突な質問にザックスは何かを思い出すかのように、大剣をじいっと見つめる。

「これは夢と誇りの象徴なんだ。いや…そのものだ。俺、見失うところだった。ありがとな、クラウド」

何に対して礼を言ったのか私には理解ができなかった。それはクラウドも同じだったようで、え?と不思議そうな表情を見せる。おっし!と謎の気合を入れてベッドの横でスクワットを何度か繰り返し、寝る!と、またベッドに仰向けになった。何か良く分からないけど元気になったらしい。そんな彼に、使わないなら、その立派な剣、私に頂戴よ。と半分本気で言ったら、お前には百万年早ェよ、と即答された。見てなさいよ、いつか、そんな大剣が似合うようなソルジャーになって、あっと言わせてやるから。

**

もう少し休ませてくれ、というクラウドを部屋に残して宿を出ようとするザックス。やることがなくただ暇だったので後を追う。扉へと続く階段を降りたところでティファが勢いよく宿へと入ってきた。

「セフィロスは神羅屋敷に、いるみたいよ」
「あのデカイ屋敷のこと?」
「そう。昔から神羅のものよ」
「聞いて回ってくれたんだね。ありがとう」
「いいの。守ってくれて助かったわ」

ふわりと笑ったティファに釣られて私も笑顔になる。ただ気が強い女の子かと思っていたけれど、それは私の思い違いだったみたい。じゃあ、また、と別れを告げて神羅屋敷へ向かう私たちの間に流れる携帯の着信音。ザックスの携帯からだった。

「エアリス!?」
「え、エアリス!?」

思いがけない彼女の登場に、つい大きな声を出してしまう。私も話したい、と言わんばかりに、じいっとザックスを見つめるけど電話に夢中なのか完全に無視。

「エアリス!私もいるよ!」
『名前!…元気、かな?』
「まぁ、うん、元気だよ。早くエアリスに会いに行く」
「ちょ、それ俺のセリフ…」
「あ、ごめんね?」
「…はぁ。俺も会いに行く」
『待ってる』
「うん、約束な」

ピッと押される通話終了のボタン。もうちょっと話したかったのに。ザックスは独り言のように、エアリス、もう少し待ってろよ、と呟く。また前を向くとクラウドの姿があった。もう、大丈夫なんだ。

「神羅屋敷は、この先階段を登って左に行ったところだ。ついてこい!」

やけに張り切った様子のクラウド。少し鼻で笑ってしまいそうになりながらも、その背中を追った。

**

「う、わ」

神羅屋敷の中に足を踏み入れると想像以上の埃っぽさ。ヘルメットをしていても漂う不快さに思わず眉をしかめる。セフィロスは二階の右の部屋に行ったらしいというクラウドの情報を頼りに向かう。

「セフィロスさんの様子が変なんだ。地下通路への鍵が開いていて、どうやら中へ入ったらしいんだけど」

クラウドが呟いて地下通路への入口へと顔を向けた。私達は、ただひたすらに下へ下へと向かう。ようやく辿りついた扉。中ではセフィロスが書籍を手に取りブツブツと呟きながら部屋をウロウロする姿があった。無条件に感じた不気味さに思わず鳥肌が立つ。

「…二千年前の地層から見つかった仮死状態の生物。その生物をガスト博士はジェノバと命名した…。X年X月X日。ジェノバを古代種と確認…X年X月X日。ジェノバ・プロジェクト承認。魔晄炉一号機使用許可…俺の母の名はジェノバ…ジェノバ・プロジェクト…これは偶然なのか?ガスト博士…どうして教えてくれなかった?…どうして死んだ?」

最後に、そう呟くと、ただただ床の絨毯に視線を落としたセフィロスは心配して声を掛けるザックスを見ようともせず、一人にしてくれ、とだけ告げた。そう言われては、と何も言えなくなる彼と同じように私とクラウドもセフィロスに声を掛けることはなかった。何を言っているのか、何に落胆しているのか分からなかった。私がそう感じたようにクラウドもきっと同じだったんだろうと思う。それ以降セフィロスは神羅屋敷に籠りきりになった。まるで何かにとりつかれたかのように書物を読み漁り、地下室の灯りは決して消えることはなかった。そんな日が続いていたある日、私達はミッドガルに戻れる訳もなく、ただただ村に現れるモンスターを退治するという言い訳のような名目でニブルヘイムに滞在し続けていた。宿の部屋の灯りを消して全員が眠りについた深夜、変に目が覚めてしまった私は彼等を起こさないように宿を出て宿や家が並んだ中心にある給水塔に腰を下ろす。空気は、とても澄んでいて星が電気がついていない村を照らすかのようにキラキラと輝いている。

「私は、何してるんだろ」

こんなところで足踏みしている時間は、ないのに。早く強くなりたいのに。そう思いながら最近の任務で思い知らされたソルジャーとの力の差。どれだけ鍛えても同じ努力では男には勝てるはずはない。並べるはずがない。でも何となく思った。努力云々の話ではないんじゃないかと。センス、才能…それらもソルジャーになるための大きな条件の一つなのだと。一人で色々考えこんでも聞いてくれる相手は、いない。自分の耳に入ってくるのは自身が息を吐く音だけだった。

「珍しい、溜息なんて」

聞こえるはずがない声に驚き俯いていた顔を上げる。星の光が視界いっぱいに入ってきたと思ったのも束の間それが彼の、クラウドの髪だと気付いた。

「びっ、くりした」
「眠れない?俺も」

そう言いながら笑って、私と少し距離をとって腰を下ろす。溜息、聞かれたくなかった。

「何か、あった?」
「別に、何もない。同じ毎日の繰り返しに疲れただけ」

私の不安を、迷いを気付かれないようにと慎重に言葉を紡ぐ。

「俺も疲れた。自分を偽り続けるの。だから名前とこうやって話せるの、何か落ち着く」
「何それ。意味分かんない」
「え?そのままの意味だけど」
「そうじゃなくて!…はぁ、もういい」

星空へと視線を戻すと、また溜息、とクラウドに突っ込まれる。今のはアンタに対してなんだけど。絶対分かってない。あぁ、もうなんでもいいか、諦めた私は、すぅと酸素を吸い込んでから口を開いた。

「こういう変わらない毎日ばかりで不安になるの」
「…うん」
「自分も変わってない、成長してない気がして」
「…分かる」
「早く追いつかないと、追い越さないとって焦ってばかりなの」

タガが外れたように弱音を吐く私。クラウドはただ頷いて、同調だけしていた。でも、それが楽だった。そんなことないって気休めの言葉をかけられるよりは幾分マシに思えて。

「名前も、そんなこと思うんだって少し安心した。俺と同じところも、あるんだって」
「…アンタと一緒にしないでよ」
「うん、そういうのが名前らしい」

静かな夜に似合わない笑顔だった。私にはできない笑顔。何故か気が緩んで、肌寒さにくしゃみが出る。ネックウォーマー、忘れたからだ。少し身震いをしたと同時に、ふわりと頭から私のものではないネックウォーマーが被せられる。クラウドの、それだった。

「俺はもう戻るから。風邪ひかないうちに早く戻りなよ」

ありがとう、と言う間もなく私に背を向けて宿へと歩き出す。首元に感じる暖かさは自分がいつもつけているものより感じる、ような気がした。他人の匂い、ってこんなに落ち着くものだったかな。

**

「名前!起きろ!」

ザックスの、いつも以上に大きい声で目を覚ます。深い眠りに落ちていたみたい。声を掛けられないと目が覚めないなんて。はいはい、と思いながら体を起こして目を覚ますと、ニブルヘイムの村が、赤く、バチバチと音を立てて、

「燃えて、る…」
「いいから早く!クラウドがいないんだよ!」

彼が寝ていたはずのベッドは、空だった。燃え盛る炎、それに相対して私の体温は急速に冷えていった。同時に脳裏に浮かんだのは、昨日のクラウドの笑顔だった。

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