早朝、宿を出た私達を待ち受けていたガイドはクラウドの幼馴染の女の子の姿だった。ティファ、と言うらしい。危なすぎる、巻き込む訳にはいかない、と喚くザックスを少し離れた位置から私達は眺めていた。どうやらセフィロスを交えて記念写真を撮るらしい。クラウドは自分の存在を消すかのように黙り空気に溶け込むことを徹していた。目的地へ向かう私達へと襲い掛かるモンスターの存在がティファに危険を及ぼさないか最初のうちは心配そうだったけれどザックスとセフィロスがいれば大丈夫だと確信したんだろう、私と並んで少し後ろを歩いた。やがて独特の雰囲気を持った魔晄炉が見え始める。こんな早い時間に朝日が差し込むほど高い高い場所にそびえ立っていた。セフィロスは魔晄炉を真っ直ぐに見つめ入口へと続く階段を上がっていく。興味津々とばかりに中に入りたがるティファをセフィロスは、一般人は立ち入り禁止だ、と一蹴した。そして、クラウドの方へ向き、お嬢さんを守ってやりな、と一言。それでも中へ入ろうとするティファの前へクラウドは歩み寄り、声は発さずに手だけで彼女の行き道を封じた。

**

魔晄炉ってこんな気味悪い雰囲気だったか?奥へ奥へと進んでいくと実験ポッドのようなものが陳列する間を通り抜けた階段の先でより厳重にロックされた扉を見つける。JENOVA…ジェノバ!?確かセフィロスの母さんの名前って…驚く俺をよそ目にセフィロスは、もう階段を降りきるところだった。実験ポッドの前に立ち、動作異常の原因を実験ポッドの故障だと即座に究明して俺にバルブを閉じるように命じた。俺に、中を見てみろ、とばかりに視線で合図を送るので、不思議に思いながら中を覗いた。

「っ、これは!?」

モンスターが、眠っていた。説明を求めるようにセフィロスへと視線を向ける俺にスラスラと説明を始める。

「お前達普通のソルジャーは魔晄を浴びた人間だ。一般人とは違うがそれでも人間なんだ。しかし、こいつらはなんだ?お前達とは比べ物にならないほど高密度の魔晄に浸されている」
「これが…モンスター?」
「そうだ…モンスターを生み出したのは神羅カンパニーの宝条だ。魔晄のエネルギーが創り出す異形の生物…それがモンスターの正体」
「普通のソルジャーって?あんたは違うのか?」

純粋な、疑問だった。俺の口が閉じて数秒、セフィロスは苦しそうに顔を覆いフラフラと歩きだす。心配する俺を振り払って、まるで何かにとりつかれたかのように。

「ま、まさか、俺も?俺は、こうして生み出されたのか?俺はモンスターと同じだというのか?子供の頃から俺は感じていた…俺は他の奴等とは違う…俺は特別な存在なんだと思っていた…しかし、それは…それは、こんな意味じゃない」

俺は、人間なのか?最後に自身の手を見つめながら、そう呟いたセフィロス。確かにセフィロスの力は…人間とは思えないほどだ。でも、そんなはずはない。あんたは感情を持った人間のはずだ。そう声を掛けようとしたところで、俺でもセフィロスでもない、別の声が聞こえた。

「残念だな、お前はモンスターだ」

片翼の黒い翼でどこからか舞い降りてきたのはジェネシスだった。そして告げる。セフィロスはジェノバ・プロジェクトが生み出した最高のモンスターだと。やっぱり、生きていたんだな、ジェネシス。ジェノバ・プロジェクト…それは、かつて行われたジェノバの細胞を使った実験の総称だとジェネシスは言う。

「母の、細胞を?」
「哀れなセフィロス…お前は母親に会ったことなどないはずだ。名前を聞かされていただけだろう?どんな姿を思い描いていたんだか知らないが…」
「ジェネシス!やめろ!」

人の肉親を嘲るかのような態度のジェネシス。声を荒げてしまう俺。しかし耳に入っていないのか、口を閉じようとしなかった。

「ジェノバは2000年前の地層から発見された、モンスターだ」

モンスター、その単語にセフィロスは動揺を隠しきれない様子だ。そんな弱みに付け込むかのようにジェネシスは言う、セフィロス、力を貸してくれ、と。

「俺の劣化が止まらないんだ…ソルジャー・クラス1st…セフィロス!ジェノバ・プロジェクト・Gはアンジールを生み…俺のようなモンスターを作り出した。ジェノバ・プロジェクト・Sは…失敗した数多のプロジェクトを踏み台に作り出された完璧なるモンスター…」
「俺に…何ができる」
「お前には他者へのコピー能力がない。情報が拡散しない。つまり劣化が起こらないということだ。お前の細胞を分けてくれ」

ジェネシスの一番の目的は、それだ。また訳の分からないポエムを呟きながらセフィロスへと紫色の果実を差し伸べる。あれは、バノーラホワイト、アンジールとジェネシスの故郷で取れる果実…別名バカリンゴ、だ。

「お前の言葉が俺を惑わせるための戯言か…それとも俺が探し求めた真実なのか…どちらにせよ…朽ち果てろ」

バカリンゴを薙ぎ払い言い捨てたセフィロスはジェネシスに背を向けて部屋を後にしようとする。ジェネシスは何故か満足したかのような様子でブツブツと独り言を言いながら俺の、待て!という声を無視し、姿を消した。

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ザックスとセフィロスの帰りを待つ私達の前に現れたのは道中で現れたモンスターとは明らかに格の違う敵だった。様子を見ながら攻撃を仕掛けようとするもタイミングが掴めず防戦一方。もう一度周りをぐるりと見渡すと何故かファイティングポーズのティファが目に入り、驚いてしまう。

「ティファ!貴女は私たちの後ろに隠れてて!」
「えっ…貴女、女の子だったの!?私は大丈夫!普通の女の子みたいに弱くないわよ!」
「でも怪我一つ負わせる訳にはいかないの!お願い!」

一瞬だった。しまった、そう思った時には、もう遅くて。モンスターが一気に距離を詰め、ティファに襲い掛かろうとしている。私が彼女の前に出るより早くクラウドがティファの前に立つ。でも上手く取れずに割とまともに攻撃をくらい、吹っ飛んでしまった。

「クラ…!」

叫びそうになって、ぐっと堪えた。駄目だ。クラウドだと言ってはいけない。彼女を守りつつ、クラウドが無事かを確認しないと。でも、どうする?また隙をつかれたら…必死に考えていると、背後から走ってくる足音。ザックスが一瞬で敵を蹴散らした。セフィロスの姿が見えない。動かなくなったことを確認してクラウドに駆け寄ろうとするけど、ティファの方が早かった。行き場を無くした私の体は、ただそこに根を張る。

「この人、私をかばって…」
「分かってる。ティファ、俺から離れるなよ。名前も、行くぞ」

クラウドを支えながら進もうとするティファに、私が、と手を貸そうとするも、私は大丈夫だからザックスの後ろについてあげて、と返される。貴女は、この人が誰なのかも知らないのにね、私の脳内に、そんな言葉が流れていった。この名付けようのない感情は一体なんなんだろうか。ティファには、じゃあ頼むね、と短い返事だけを返した。マスクをつけてるから、どんな顔をしていても気持ちを読まれることはない、大丈夫。と自分に言い聞かせながら。

**

ようやく村の中心へ戻ってきた私達。ザックスはセフィロスの姿を探しているのかキョロキョロと辺りを見渡すが彼の気配は感じられなかったようだった。何があったの?と問いかけるティファにも、ごめん、言えない。と返すだけで。ティファは、でしょうね、とだけ一言呟きクラウドを壁にもたれかからせて、村の人にも聞いてくる、と走って去っていった。その姿を見送り私はクラウドの隣に背中を預ける。下を向いて、苦しそうにしている。

「クラウドって叫びそうになったけど踏みとどまった。私に感謝してよね」
「…ごめん」
「でもまあ、初めてクラウドの格好良いところ見れたかも、守れたじゃん」

え、とクラウドの声が聞こえたけど、それ以上の反応を待つことなく私は自分の体重を背中から足へと移動させた。そういえば昨日もこんな感じだった。何で私はクラウドからの言葉を待つことができないんだろうか。どう思われるかなんて気にする私ではないのに。

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