ザックスと二人、急いで宿を出ると村は火に包まれていた。思わず目を閉じたくなるような光景が目の前に広がっている。人はいないかと辺りを捜すと、倒れている神羅兵の姿。反射的に私は声を上げていた。

「クラウド!」
「セフィロス…」

喋っている。生きている。でも安心していられる状況ではなかった。クラウドは何かを知っているのだろうか?セフィロスと呟いた理由は?思考を巡らせていると背中に嫌な気配を感じて、振り返ると炎の中に立つセフィロスの姿。まるでこうなることが当然とでも言うような表情をして、そこにいた。

「今…迎えに行くよ」

そう呟いたセフィロスは私達を相手にすることもなく炎の中へと消えて行く。追い掛けないといけない。そんな気が、する。ひとまずクラウドを安全な場所に避難させる。灰を吸い込まないようヘルメットは外さないでいたけれど、きっとまた悔しそうな表情をして俯いているんだろう、そんな気がした。

「待ってて、ここで」

私の声は届いているのか分からない。でも伝えたくて、小さな声で告げる。返事はなかった。その場を離れようとすると、腕を掴まれる。クラウドの腕が弱々しい力で私を繋ぎ止めていた。どうしたの、と言っても返事はなくて、数秒間そのままでいたけれどクラウドは何も言わない。彼の心が読めないままだったけれど、行くね、と呟いてザックスと共にセフィロスを追った。

**

「ねぇ、セフィロスが、やったんだよね」

足を動かす速度はそのままザックスへと問う。けれど彼は何も言わなかった。ということは、きっとザックスもセフィロスの仕業だ、と信じたくはないけれど思っているんだろう。やがて見えてきた魔晄炉は最初に訪れた時より淀んだ空気に包まれているように思えた。早くしないと、気持ちは焦っているのに入口へと続く階段を上る足が重くなる。何怖がってるんだ、私は。中に入ると沢山ある実験ポッドの前、倒れているティファを見つける。急いで駆け寄り肌に触れる。あたたか、い。良かった。

「セフィロスにやられたんだな?」

ティファは一瞬ザックスの顔を見た後、塞ぎ込むように私達に背を向けた。無理もない。あくまでセフィロスは私達神羅側の、人間だから。これ以上かける言葉が見つからず立ち尽くす私。ザックスもそうだったのか、取り敢えず今の目的を果たすためにティファに背を向ける。私も後に続こうとすると、ティファの声が響き渡った。

「嫌いよ、神羅もソルジャーも、あなた達も、みんな嫌いよ!」

ティファの言葉が頭を、ぐるぐると駆け巡る。別に好かれたいから守ったんじゃない、戦っているんじゃない。そうは思っていても辛かった。言い訳がしたかった。

「…名前はティファの傍に居てくれ。やばいと思ったら、すぐ逃げろ」

私は何も答えなかった。ザックスに最後までついていきたいと、そう思いながらも私はティファの傍に居ることを選んだ。私に背を向け縮こまる彼女を自分でも、よく分からない感情を含んだ瞳で見つめる。その後ろで声を上げてザックスが扉を破壊する音が聞こえた。

**

「母さん、一緒にこの星を取り戻そうよ。俺、いいことを考えたんだ。約束の地へ行こう…。母さん…」
「セフィロス!」

俺は叫んだ。どうしようもない怒りが悲しみが、その一言に込められていると自身で感じる。血が逆流しているような感覚だった。どうして、どうして。

「なぜ村人達を殺した?なぜティファを傷つけた?答えろセフィロス!」

セフィロスは俺を煩わしそうに一瞥してから喉をくつくつと鳴らして"母さん"と呼ぶ得体の知れない物へと語り掛ける。人の形はしているが完全に機械的であり、無機質な翼が生えている。ジェノバ、なのか。あれが。

「母さん。また奴等が来たよ。母さんは優れた能力と知識で、この星の支配者になるはずだった。けどアイツらが…。何の、とりえもないアイツらが…母さんから、この星を奪ったんだよね。でも、もう悲しまないで。俺と一緒に行こう」

まるで本当に母を、家族を、慰めるかのように両手で"母さん"を包み込んだセフィロスは無理やりに装置から引き剥がした。繋がれていた線がブチブチと千切れる音が狭い部屋の中に響き渡る。見ていられなくなった俺はセフィロスへ刃を向ける。訳が分からない。一体何を言っているのかサッパリだった。理解したくもない、そう思っている部分もあるが。

「セフィロス!お前どうしちまったんだよ!」

相変わらず俺に対して何も言わないセフィロスは返事の代わりに俺の大剣を自らのもつ剣ではじいた。ただ単純に悲しい。だって、俺は…

「セフィロス!信頼してたのに…!」

飛び掛かり大剣を振り下ろすとセフィロスの長く細い剣が、それをいとも簡単に受け止め、弾き返す。視界が反転している。俺は頭から落下しているのか。考える時間も与えてくれないセフィロスによる攻撃を何とか受け止めたが、受け止めるのに精一杯だった俺は、その反動により更に速度を上げて真っ逆さまに落ちていく。何とか足から着地し、辺りを見回すと、ゆっくり、翼でも生えているかのように、降り立ったセフィロスは俺と距離を詰めようと駆け出す。やるしか、ないのか。

「いや、お前はもう俺の知ってるセフィロスじゃない!」
「俺は選ばれし者。この星の支配者として選ばれし存在だ」

**

どれぐらい時間が経っただろうか。あれからティファと会話もせず、私は立ち尽くしていた。あの夜、給水塔で溶かされた感情が、また固まって冷たくなる。やっぱり成長なんて、していない。無音の空間の中、苦しそうな彼の声が、ザックスの声が私に一直線に届いたのは、その時だった。

「ザックス!」
「ぐっ…」

開け放たれた部屋の中、セフィロスの姿が見える。どうしよう、私は、どうすれば。体が動かない。動け!動け…!自分で自分の足をグーで殴る。痛みは感じるのに、どうしても一歩が踏み出せない。そんな私の横を誰かが通り過ぎる。私と同じ服を着ている。それは確かにクラウドだった。そこからの出来事はスローモーションのように、ゆっくりと流れていった。私は、この場に存在していないかのようで。クラウドは突き刺さったままのザックスの大剣を手に取りセフィロスを貫いた。苦しむセフィロスをよそにクラウドはティファの横へ歩み寄り愛おしそうに頬を撫でた。よろめきながら階段を降りるセフィロスを見かねたザックスは叫ぶ、クラウド、セフィロスにとどめを、と。クラウドは、こくりと頷いてセフィロスの行く道を塞ぐように立つ。

「セフィロス!」

普段の彼からは想像もつかないような大声で叫んだ彼は高々と跳躍しセフィロスへと飛び掛かる。その姿は、英雄、そのものだった。私以外の人が否定したとしても私には、確かにそう見えた。その瞬間、私の世界は一気に元の速度へと戻る。刀が交わり合う特有の金属音が耳に響く。もしかしたら、クラウドは今セフィロスを越える力を、一筋の希望は、あっさりと打ち砕かれる。クラウドはセフィロスによって、いとも簡単に吹き飛ばされたからだ。

「クラウド!」

私は駆け出していた。さっきまで足、びくともしなかったのにな。ザックスが何やら私を制止する声が聞こえたような気がしたけれど、無視をした。

「図に…乗るな!」

聞こえるのはセフィロスの声。私の視界に広がるのは、セフィロスの、特徴的な長くて細い剣が、クラウドの体を、突き刺して、刺して…刺して、いる

「ああああああ!!!!!!」

私は走った。武器も何も持たず。ただセフィロスへと。ただすぐに脇腹に走った衝撃でセフィロスに殴られたのだと理解する。刀を持たない、空いた手で。私はこいつに触れることすらもできないのか。プツリ、私の意識はそこで途切れた。

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