状況が変わったとのツォンさんからの電話で神羅ビルに急ぐことになった私とザックス。招集が、かかったのはザックスだけかと思いきや、名前も一緒にいるんだろ、一緒に連れてこい、という驚きのお言葉。何で知っていたのか…正直タークスのことは心から信頼できていない。仕事っぷりは尊敬していながら裏で何をしているか分からないからだ。無事、花売りワゴンは完成したけれど、もう少し、あの時間を過ごしていたかった。エアリスと居る時間は私にとって数少ない息抜きの、安らぎの時間だから。

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「名前は、ここで待っててくれ」

ザックスの言い付けを不服ながらも守り、私はセフィロスと話をしているザックスをソルジャーフロアの壁にもたりかかりながら待つことにした。重要なお話は聞かせられないってことね。所詮一般兵、仕方のないことなんだけれど。セフィロスは英雄、と呼ばれている。戦っている姿を見たことがない私だけれど彼が凄い人だということぐらいは分かる。でも何かが違った。私が目指している英雄と英雄セフィロスは何かが…。

「名前もセフィロスとザックスと任務か?」

クラウドの声だった。久し振りに聞いたような気がする。病室で二人だったあの日クラウドが言った一言のせいで目を上手く見れない。自然と床を見つめてしまう。

「いや、まだ詳しくは聞かされてないけど。クラウドは、そう聞かされたんだ。私はザックスと一緒に呼ばれたから、そうなのかもね」
「またよろしく」

うん、と返すと床の四角い模様しかなかった私の視界に金色。心臓が、ひゅうっとなって、呼吸が止まる。

「な!!!に!!!」
「うわ、声大きい。ずっと下向いてるけど具合でも悪いのか?」
「別に何もないから。大丈夫だから。いちいち、そんなに近寄らないでよ」

横目でジトリと彼を見ると、悪い、とだけ呟いて今度はクラウドが床を見つめた。私が悪いことしたみたいじゃない。微妙な空気が流れる。待たせたな!と聞こえたザックスの明るい声が少しこの場を居心地の良いものに変えてくれた。

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私たちの任務先に告げられたのはニブルヘイムという地だった。驚いた表情をするクラウドを見て思い出す。たしかモデオヘイムでの任務で彼の故郷だと言っていたような、うろ覚えだけど。ニブルヘイムは、とても平凡な村だった。魔晄炉以外に目立つものはない。クラウド張本人も、そのように言っていたはずだ。

「久しぶりの故郷なんだろ?どんな気分がするものなんだ?俺には故郷がないから分からないんだ」

質素な村に似合わない銀色の髪をなびかせてセフィロスはクラウドに問いかける。故郷が、ない。少し悲しそうな表情をするセフィロスに気を使ってかザックスは両親について聞いた。横目で見ながら新たな地雷を踏んだのではと思い彼の言動に少し驚く。気を使って、なのだろうけど。

「母の名はジェノバ。俺を生んで、すぐに死んだ。父は…。俺は何を話してるんだ…。さあ、行こうか」

ほら、ね。言った通り。父の単語を出した後に自分を嘲るように笑ったセフィロスは再び私達へ背を向け、村へと足を進めていった。その一番後ろを歩いていると、同い年ぐらいの女の子。やたらとウエスタンな恰好をしている。黒髪のロング。へそ出しにミニスカートという、私が死んでも、しないような服装。その子はザックスに話しかけていた。ソルジャーのことを、やたらと気にしている。今回任務としてソルジャーがザックスとセフィロスだけということを知ると一気に興味をなくしたのか走り去っていった。誰かを、探してる?何か言いたげな表情がやけに頭に残った。

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魔晄炉の出発は明日の明朝ということで取り敢えず宿屋で休むことになった私達。セフィロスはクラウドに、家族や知り合いと会ってきても構わない、と告げたがクラウドは、その場から動かなかった。そんな彼を置いて私は宿の部屋へ入り、少し疲れを感じた体を休める。ふぅ、と一息つくと、まだマスクをしたままのクラウドが部屋へと入ってきた。って、また一緒の部屋?部屋の扉を閉めて、ようやくマスクを取ったクラウド。久し振りに故郷に帰ってきたような感じだったけれど、酷く疲弊しているように見えた。

「あの、さ」

口火をきったクラウド。この部屋には私しかいない。ん?と返すが、何も言ってこない。ねぇ、と声を掛けたところで重たそうな彼の口元が開き始めた。

「俺、ソルジャーになるって行って、この村を出たんだ」
「へぇ」
「だから、誰にも会いたくなくて…」

そういうことね。先程までのクラウドの態度と今の話が繋がった。夢を叶えられてない自分の姿を見られたくないと。意外に変なプライドあるんだ。

「家族、でしょ。自分の弱いところを見せられる数少ない人なんじゃないの」
「こんな狭い村だから一人に会えば、すぐに話が広まるし…」
「そんな小さいこと、ばっか気にしてるから駄目なんじゃないの」
「そうかもな…」
「そういえば、さっき同い年ぐらいの女の子見かけたんだけど、あんたの知り合い?」

張り合いのない返事ばかりだったクラウドの肩がビクリと動く。思っていたより過剰な反応だった。知られたくない一人の中に彼女もいるって訳か。

「へぇ」
「…なんだよ」
「その目。バラしちゃってもいいの?」

弱みを握ってやった。自分でも分かるほど意地悪な笑みを浮かべると、一瞬だけ感じたクラウドの反抗的な態度は音を立てるかのように萎んでいった。ちょっとやりすぎたかな。

「でもまぁ、ちょっと気持ち分かるよ。格好悪く思われたくないって人、私にだっているし」
「名前にも、そういう人がいるんだな」
「います。家族とか故郷の人には色んな意味で、どう思われたっていいけどね。隠すのもしんどいし」
「名前には俺の格好悪いところ、沢山見られてるから素でいられるんだけどな」
「へ、へぇ。逆に、あんたの格好良いところなんて見たことないけどね」

心臓が変な指揮を取り始めたような気がした。初めての感覚。明日、早いっていってたのに。じゃあ、これから沢山見せてやるよ!とクラウドが拳を握りしめていたけれど、その言葉を受け流して寝る準備を始めることにした。

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