「ここからは歩きで。夜遅いし、もうそこ市街地だから・・・」


静かな街にジェシーの声が響く。


「キッツキツで痛いッス」

「ハムみたいだぞ」


ビッグスがウェッジのお腹をぽよんと叩く。


「中身スカスカのハムッス」


ウェッジはかなりお腹空いてる様子。

そんなウェッジにジェシーは笑いながら話し始める。


「はいはい。お腹空いたよね。ほら行こう」


階段を上っていくと7番街の市街地についた。

やっぱりプレートの上というだけあって綺麗な住宅が並んでいて、光もいたるところで灯っていてすごく綺麗。


「七番街の社宅地区。うちの親・・・神羅の人間なの」


ジェシーが少しバツが悪そうに話し始める。

以前、軽く聞いたことがあったけどあまり深入りしようとしなかった話だ。


「私、魔晄炉のおかげで大きくなったんだよね」


そう言うとジェシーは駈け出した。


「ジェシー・・・本当は上に行く理由、家族に会いたいからじゃなかったッス」


ジェシーの姿が見えなくなったと同時にウェッジが口を開く。


「・・・ウェッジ、どういうこと?」

「会いたいって気持ちもあったと思うッスけど・・・名前は知らないけど、壱番魔晄炉の爆発が予想してたより遥かに大きいものだったッス」

「魔晄が誘爆した・・・ジェシーはそう言っていた」


一番魔晄炉の爆発を知っているクラウドも口を挟む。


「あの爆発をジェシーは自分の責任だと思ってるッス。設計図の指定よりも強力な火薬ユニットを乗せてしまって、原因はそれだとジェシーは考えてるッス」


でも、ジェシーがそんなミスをするなんて考えられない。


「それで、ジェシーはここに来てどうするつもりなの?」

「次に使う爆弾の火薬ユニットを差し替えるつもりなんだとよ」


ビッグスもジェシーの真意を伝えるべく、口を開いた。


「どうしても売人と連絡がつかないから神羅の倉庫からいただいちゃおうってわけだ」


神羅の倉庫から火薬ユニットを盗む・・・。

どう考えてもかなり難しそうな話。

でも、ここまで来たらもう・・・


「やるしかない、な」


私の頭の中の言葉とクラウドの言葉が重なる。


「俺らは勝手についてきた身だけどよ、クラウドと名前には話したいけど話しにくかったんだろうぜ。だから俺達から伝えとく」

「そっか・・・ありがとうねビッグス」


ジェシーを追いかけながら街を見渡してみると、バスケットのコートがあったりスラムでは見ないものが沢山。

・・・スラムの子ども達にこんな安全な場所で遊ばせてあげたいなぁ。

そう思いながら歩いているとジェシーの姿が見えた。


「見て・・・。たまーにしか帰ってこない娘のために、いつもああして灯りをつけてる・・・ママは典型的ミッドガル住人」

「いい家族じゃない、ジェシー」

「へへっ。まぁね」


ジェシーは得意気に歯を見せて笑った


「ピザ出るかなミッドガル・スペシャル!」

「ジェシーのおふくろさん・・・どんな夜中に訪ねても、うまい飯作ってくれるんだ」


ジェシーのお母さんの料理の味を思い出すようにウェッジとビッグスがそう言う。

私はご馳走になるのはじめてだな・・・楽しみ。


「よく食べる人とお客が大好きだから・・・じゃあ、行こうか・・・クラウドはとりあえず家の裏手で待ってて」


「ああ・・・分かった」


クラウドを残して私達はジェシーの家に入る。


「「「お邪魔します!」」」

「あら・・・名前ちゃん!久しぶりじゃない!」

「ご無沙汰してます!お元気そうで何よりです」

「ごめんねママ。こんな夜中に」

「自分の家でしょ。それで、お稽古大変なの?」

「・・・まぁね」

「ミッドガル・スペシャル用意するわね!」

「やったッス!俺ここんちの子になる!」

「ますます育っちまうな」


会話を絶やさないように、絶やさないように。

ジェシー曰く、クラウドはジェシーのお父さんの部屋に侵入して神羅の社員が持ってるIDカードを探すという重大な任務がある。

話さなきゃ話さなきゃと思っていたのは最初だけで、途中からはこの時間を純粋に楽しんでいる自分がいた。


「あのねママ・・・私達そろそろ行かなくちゃ」

「もう?」

「本当は寄るつもりなかったんだよね・・・ウェッジがピザ食べたいって言うから!」

「ごちそうさまッした!」

「ウェッジ、足りたの?」

「後、2枚は行けそッス!」

「「ウェッジ!」」


ジェシーとビッグスは立ちあがってウェッジに厳しい眼差しを向けた。


「ピザは作戦のうちッス!」

「でも本当に美味しいです。また食べに来ますね」

「名前ちゃんありがとね。また作るからいつでも来てちょうだい」

「はい、また来ます!・・・お邪魔しました」


久々に暖かい気持ちになってジェシーの家を後にすると、クラウドが腕を組んで立っていた。


「これでいいか」


クラウドは神羅のIDカードをジェシーに手渡した。


「・・・ここからが本番」


ジェシーはIDカードに一瞬目を向け、決意を固めるように話し始めた。


「これで七六分室の倉庫に侵入できる」

「じゃあ行くか」

ビッグスも気合いを入れ歩き始めようとしたけど、ジェシーが構わずに話し続ける。


「私が一人で行く・・・どこから何を持ちかえればいいのか知ってるのは私だけだから」

「んじゃ俺らピザ食いに来ただけかよ?」

「タダで帰すと思う?腹ごなしに私を手伝って!・・・ほら、さっき私達でママの注意をひきつけたでしょ?何て言うんだっけ、ああいうの、ほら」

「陽動だな」


クラウドが口を挟む。


「それそれ!流石ソルジャー!」

「え・・・じゃあ今度は神羅の人達とピザを食べるッスか!?」

「食ったぶん動けってことだよ!」


ビッグスがウェッジのお腹を殴り、そのまま話し始める。


「お前が中にいる間、警備の目を俺達に向ければいいんだな?」

「そうそう、さすがビッグス!合図の照明弾が上がったら、みんなは倉庫前の広場を正面突破。思いっきり暴れて、できるだけ時間を稼いで」

「ソルジャー頼みの力業だな」


ビッグスはそう言ってクラウドの肩を叩いた。


「ジェシー、作戦の所用時間はどれぐらい?」

「流石名前、いい質問。でもまぁそれほど長くはかからないと思う。終わったらもう一度照明弾を使うから、この先の空き地で落ち合おう」

「待てよ、どうやってスラムに戻る始発に紛れ込むか?」


進もうとするジェシーをビッグスが呼び止めた。


「ダメ、今夜のうちに戻らなくちゃ。方法は考えてあるから大丈夫・・・じゃ、また後で」


ジェシーはそう言って走って行った。


「じゃあ陽動部隊も行きますか」

「うん、そうだねビッグス」

「ジェシーの親父さん、いたろ」


ビッグスが少し真剣な面持ちで話を始める。


「あぁ」

「名前も知らないと思うけど、魔晄中毒ってやつさ・・・ジェシーがゴールドソーサーのショーでずっと役者志望で努力して努力してショーの主役を勝ち取った。両親も大喜びさ。ところがだ、公演の直前に・・・」

「お父さんが倒れちゃったッス」

「・・・過労だ。しかも倒れた場所が悪くて魔晄だまり近くの通路で半日以上、放置されていた・・・そのせいで発見されてから、あの状態だ。そんな時に星命学や本家のアバランチと出会って、今に至るってわけだ」

「ジェシーは信じているッス。お父さんの命は、こっちと星の中を行ったり来たりしてるんじゃないかって・・・だから早く魔晄炉を止めないと」

「親父さんの命が消えてしまう」


ビッグスとウェッジの話にクラウドはフッと笑みを浮かべた。


「今、笑ったか?」

「星の命がどうこうより、ずっと共感できる」

「・・・そういう意味か」


私はただただその話を聞いていた。

ジェシーがゴールドソーサーにいたことは知っていたけど、深い理由は知らなかった。


「その話、知らなかったよ」

「暗くなっちまうからなぁ、ジェシーも雰囲気が悪くなることを望んでない」

「うん・・・それはいいんだ。でもさ、不謹慎かもしれないけど、会話ができなくても姿が見れるだけで・・・羨ましいと思っちゃう。私は両親に夢でもいいから会いたいよ。ジェシーが辛いのはもちろんだけどね。私には縋りつけるものもない。死んだ人間が生き返るなんて絶対ないことだから」

「・・・名前」


クラウドの目が私を捉える。


「ごめんね、クラウドも同じなのに」

「俺がいる」

「えっ」


私は地面に向けていた顔を上げてクラウドを見た。


「俺がいて、ティファがいて・・・。名前にはアバランチの仲間がいる。名前も、もっと頼ってもいいんじゃないか。なんでも一人で抱え込もうとする。昔から」

「・・・ありがとう。あと俺がいるからってそういうことね」

「どういうことだ?」

「こっちの話。じゃあこれからはもう少し頼ってもいいかな。もちろんビッグス、ウェッジ・・・もちろんジェシーもね」

「おうよ」

「お安い御用ッス!」


心が軽くなったような気がした。

しんみりするどころか勇気づけられちゃったな。

前を歩く三人の背中を見つめて、笑みが零れた。


07


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