59階にいるホログラムの受付嬢の前でカードキーをかざすと、見学パスツアーに更新された。
気持ち悪いぐらい上手くいく状況に逆に怖くなりながら進むと、プレジデント神羅の金の銅像が置いてあって、見てるだけで胸焼けしそうになる。
その先も神羅の部門についての事業の紹介を散々されながら案内され、コスモスシアターに足を踏み入れる。
こんなことしている場合じゃないとは思いつつも研究施設に近づくには仕方がない。
私達を緑色の光が包んだと思うと、目の前に広がる大草原。
自分が、そこにいるかのような錯覚に陥るような臨場感に思わず息を呑む。

『かつて、この星には古代種と呼ばれる種族が住んでいました。彼らは星の開拓者と呼ばれ、我々が魔晄を発見する何千年も前から地中に眠るエネルギーの存在に気が付いていたと考えられています。それだけではありません、驚くべきことに彼等は魔晄を独自の技術で加工し活用していました。その片鱗は一部のマテリアとして現在でも目にすることができます』

私の目には普通の女の子に映るエアリス。
エアリスが古代種の生き残りだなんて、この映像を見て更に信じられなくなる。

『こんな言葉が残されています。【我ら 星より生まれ 星と語り 星を開く そして 約束の地へ帰る 至上の幸福 星が与えし 定めの地】…しかし、そんな彼らも今はいません。約二千年前に星を襲った隕石により滅びてしまったのです。果たして彼らは約束の地に辿りつけたのでしょうか?それは誰にも分かりません』

…エアリスは知っているんだろうか、約束の地。
至上の幸福って、何?
いまいち理解できないでいると突然切り替わる映像。
隕石が落ちる街並みが広がったかと思うと、また目の前が切り替わり見覚えのある景色が映る。
ニブルヘイム…?
その真ん中に立つ銀色の長い髪をした、男。
クラウドの大剣とは間逆の、細くて長い剣。
この人は、こいつは。
声を出そうとしても、出ない。
いつの間にか私は炎に包まれていた、あつい、あつい、意識が、遠のく。
焼け死んでしまう、と思ったと同時に目の前の光景は消え去り、目に入るのはコスモスシアターの壁だけ。
今のは、何だったのだろう。
最近、魔晄を浴びすぎてしまったのだろうか、少し怖くなる。
あの隕石、なんだろうと言うティファに、他の皆は私と同じ映像を見たのではないのだと分かる。
隕石より印象に残る光景が、あったはず。
三人はそれぞれ感想を述べたていたけれど、私は、何も言えなかった。
先へ進もうとするクラウドが出口でカードキーをかざすと、乱れるナビゲーターの音声。
緊張の糸を張り巡らせた私達の目の前に現れたのは、ハットと名乗るドミノ市長の使いだった。
市長が俺達に何の用だ、と聞くクラウドに、それは直接お聞きください、と私達に背を向けて歩き出すハット。
付いてこい、と言わんばかりの、その行動に私達はひとまず従う。
図書館に案内され、辺りを見渡しているとハットが膨大な本棚の中の一つの前で立ち止り、一冊の本を奥へと押し込む。
その瞬間、本棚が引き戸のように横へスライドされ、新たに開かれる道。
先には小さな扉が見える。
ここに、ドミノ市長はいるのだろうか。
**
「市長、最高!」

ミッドガルの未来が更に心配になってくる市長の姿に私達は呆れムード。
とは思いつつも私達の潜入を必死に隠してくれたことに関しては頭が上がらない。
どうやら市長はアバランチと手を組んでおり、自分を冷遇している神羅に対して復讐をしたいらしい。
アバランチとは言えど分派に位置付けされる私達はその事実を知らなかった。
プレジデント神羅が目的ではないと言えど、神羅を引っかき回してくれるならなんでもいい、と私達に協力をしてくれるとのこと。
研究施設へ行くために、ひとまずカードキーを63階まで行けるようにしてくれた。
64階へ上がるためには63階の協力者に対して合言葉を伝えないといけない。
それがさっき市長が叫んだ「市長」「最高」。
つまり「市長」と言って「最高」と答えた者が協力者。
突っ込みたいことは多々あるけれど、まぁ分かりやすくて良いか。
**
無事協力者を見つけ、品定めとして神羅バトルシュミレーターで神羅の機械兵器と戦わされたけれど、無事勝利し64階へのカードキーを受け取る。
人が多いこの場所から早く離れて上へ向かおうとする私達の目の前に、神羅兵が二人。
まずい、こんな所で見つかったら…。

「クラウド?クラウドだよな?…クラウド!大丈夫、同期のクラウドだよ」

そう言った神羅兵は横で警戒している別の神羅兵に声を掛ける。
クラウドの神羅時代の知り合い、だろうか。

「よかった!生きてたんだな…。心配してたんだ。死んだって噂があったから…」

結構仲が良かった人なんだろうか?
すごく嬉しそうだなぁ、と思っていると急に痛み出す頭に、額を抑える。

「ちょっと待ってろ!カンセル達も呼んでくる。ここにいろよ!」

痛みに閉じた目の奥で何かが見えそうで、見えない。
とん、と誰かが私の肩を掴んだ。
驚いて顔を上げると、目の前には心配そうな顔をするティファがいた。

「名前、大丈夫?クラウドも…」

クラウドも?
視線をクラウドへ向けると私と同じように額を抑えて苦しむ後ろ姿が目に入った。
クラウドが時々こういう状態になっているのは今まで何度か見てきた。
魔晄を浴びたソルジャー特有のものなのかと勝手に思っていたけれど、私も、同じ?
たまに頭が痛くなるなんて生きていればあるものだけれど、クラウドと同じタイミングで起こる体への異常。
深まる疑問に考えを巡らせているとバレットがクラウドに、知り合いか?と声を掛けた。
痛みを振り払おうとしているのか、バレットの言葉を否定しようとしているのか首を横に振るクラウドは、心配ない、先を急ごう、と先程の神羅兵との会話をなかったことにし、進む。
クラウドには私の見えてない何かが、見えていたりするのだろうか。
**
宝条は重役会議に出席するはずだ、というクラウドの言葉で、まずはチャンスを待つことに。
64階の会議室に入って行くプレジデント神羅とハイデッカーを見送った後、協力者に教えてもらった通り、ダクトから会議室の状況を確認できるという男性用トイレに向かった。

「ねぇ、名前」
「うん、ティファ…言おうとしてることは何となく分かる」

男性用トイレに入るのを二人してためらっていると、クラウドに、中の方が安全だ、と声を掛けられる。
渋々中に入り、私とクラウドがダクトの中に忍び込んで聞いた話は、人間が考えたとは思えない恐ろしいものだった。
宝条は古代種を異種交配させることを考えている。
…つまり、エアリスと人間ではない生き物との間に、子どもを…。
あまりの嫌悪感に、胃液が上がってきそうになる。
新たな魔晄都市、ネオ・ミッドガルなるものを建設するなど、七番街への被害など何も気にしていないようなプレジデントの態度にも、怒りを覚えた。
今はとにかく、宝条を止めないと。
**
「動くな」

研究フロアの奥へ進もうとする宝条にバレットは右腕の銃を突きつける。
なんだね、とあまり驚きもしない宝条だったが私達の指示に従い奥へと案内する。

「君達はあれだろ?なんとかいう犯罪組織だろ?それなら、ここに用はないはずだ。プレジデントは上だ。ほら、行きたまえ」
「私達の狙いはプレジデントじゃない」
「目的を言いたまえ」

私の否定に宝条は一度傾げて問いかける。
バレットが仲間を解放してもらおうか、と告げると宝条はまた首を傾げた。

「仲間?」
「エアリスはどこだ!」
「ほう、彼女の知り合いか」

それは、それは、なるほど、ということは、つまり…と宝条はブツブツ言いながら何かを考えているような素振りを見せた。
バレットが痺れを切らせると、宝条は言った。

「いやね、君達が死んだら彼女は、どんな顔をするかなと思ってね」

宝条が隠し持っていたであろうリモコンのボタンを押すと、閉じ込められていた巨大なモンスターが目を覚まし、いつの間にか宝条はエレベーターへ乗り込み姿を消した。
早くしないと、逃げられてしまう。
急いでモンスターの息の根を止めた私達は宝条の後を追う。

「エアリス!」

先程のモンスターと同じように閉じ込められているエアリスを見つけた瞬間、思わず声を上げる。
宝条は、上の部屋から高みの見物。
先程の私達の戦闘から得たデータを元に、これで事足りるだろうと準備された神羅兵達は武器を構えるが、ものの数分で全て倒しきった私達。

「ふーむ。未知の要因があるのか?ん?その瞳…ソルジャーか?」
「ああ」
「思い出したぞ。私の記憶違いだったな。お前は…」

宝条の次の言葉が私に届くことはなかった。
また頭へと走る鈍い痛み。
どうして?

「何だ、これは!」

宝条の叫び声に顔を上げると、ローブを着た幽霊のような、またあの謎の物体。
私達の行く手を阻むのではなく、宝条をどこかへ連れ去り、消えていった。

「エアリス!下がって!」

まだ頭が混乱していたけど、このチャンスを逃す訳にはいかない。
エアリスが閉じ込められている大きい容器なような物にハンドガンを撃ち込むと、火花を散らしながら自動ドアが開いた。

「来てくれたんだ」
「エアリス、話したいことが沢山!」
「名前、何かなぁ、楽しみ」

何だか全て見透かしているようなエアリスの表情に、照れ臭くなる。
きっと、すごく喜んでくれるんだろうな。
名前が幸せになってくれて私も嬉しい、って言ってくれるかな。

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