目の前には、赤い毛色をした犬が私達の道を塞いでいる。
牙をむき出して威嚇する姿に武器に手をやるが攻撃してくる感じでは、ない。
様子を伺っていると走り出して高く飛び逃げて行く。

「行かなきゃ」

安心していたところで、赤い犬が逃げて行った方へエアリスが走り出した。
混乱しながらもエアリスを追いかけると、そこにはふらつきながらエレベーターに乗り込む宝条。
赤い犬は閉まっていくエレベーターの扉へと走って体当たりをしようとしたが、虚しくも間に合わず大きな音を立てて体だけを打ちつけた。
赤い犬は私達の方へと向かってくる。
宝条を襲おうとしていた?
敵ではないのかもしれないと思いながらも構えていると、エアリスは待って、と私達を制止した。

「この子は大丈夫」

警戒している赤い犬へとエアリスが近づき、そっと頭に触れた。
触れられた犬は牙をしまい、ゆっくりと目を閉じ穏やかな表情になる。

「なんなんだよ、こいつ」
「…興味深い問いだ」

バレットの言葉に返事をしたのは、なんと赤い犬だった。
まさかの状況に、驚く。
犬が、喋った。
驚く私達を気にもせず赤い犬は喋り続ける。

「私とは、何か…見ての通り、こういう生き物としか答えられない。あれこれ詮索せずに受け入れてもらえると助かる」

これが当たり前かのように淡々としている赤い犬の左前足の付け根部分に、数字か書かれているのが見えた。

「XIII?」
「レッドXIII…宝条がつけた型式番号だ」
「本当の名前じゃないよね?」

私の質問にレッドXIIIは答えてくれなかった。
取り敢えず型式番号で呼んでくれ、ということだろうか。
ひとまず付いてくるつもりなのか、その場を離れないレッドXIII。
宝条を追うことに話がまとまったところで、クラウドがゆっくりと宝条が乗り込んだエレベーターへと進んで行く。

「っう…」
「名前?」

まただ。
頭の痛みに立っていられなくなり、エアリスの声にも返事ができない。
ひどい耳鳴りで、鼓膜が破れそうになる。

『今から見せるのはお前の未来だ』

耳鳴りが止んだかと思うと、どこからか聞こえて来る人の声。
辺りを見回しても、その発信者であろう人物はいない。
それどころか、誰もいない、クラウドも、みんな。

『深く関わりすぎてしまった自分を恨め』

何のことを言っているのか分からない、目に見えない誰かに、そう言おうとすると目の前にうっすら私と、クラウドの姿が。
私が、二人?
混乱していくうちに、はっきり見えてくる、もう一人の私とクラウド。
もう一人の私は、足から血を流し座り込んでいる、動けないのだろうか。

「名前!」

少し離れた場所にいたクラウドは私の名前を叫び、私の元へと走り出し、庇うようにして前に立つ、その瞬間。

「クラ・・・」

私はこっちだよ、と言いたいのに続く言葉が出てこなかった。
クラウドの体を長くて細い剣が貫いている。
そしてスローモーションのように、ゆっくりと剣が体から抜かれ、もう一人の私は泣きながらクラウドのぐったりした体を、抱きとめた。

「クラウド!本当の私はこっちだよ!ねぇクラウド!ねぇってば!」
『お前の存在がクラウドの重荷になる』

私の目の前に黒い羽根がゆっくりと舞って、落ちていく。

『自分のせいで愛する男が死ぬのは、どういう気持ちだ』
「何を、言って」
『私は全てを知っている』

その言葉を最後に私は完全に意識を手放した。
**
「う…」

目が、覚めた。
勢いよく体を起こすと横のベッドでクラウドが横になっている。
すぐに体を確認しても、傷は見当たらない。
夢、だったんだろうか。
クラウドの無事を確認して安心したのち部屋を見渡す。
ここは、どこなんだろう。
たくさんの色で描かれた絵、無機質な壁に描かれているけれど、とても綺麗で幻想的なものだった。
皆が私達を安全なところまで運んでくれたのかな。
となると、私とクラウドは同じタイミングで倒れたってこと?
なんで、私にも同じ症状が出るようになったんだろうか。

『深く関わりすぎてしまった自分を恨め』

誰かに言われた言葉を思い出す。
怖い。
あれは、どういうことだったんだろう。

「…名前?」

クラウドが私の名前を呼び、起き上がる。

「…クラウド」

クラウドは生きてて、ここにいる。
存在を確かめるように私は起き上がったクラウドの寝ているベッドに腰を下ろして、強く抱きしめた。
いきなりどうした、と驚くクラウドの体を返事をする代わりに、もっと強く抱きしめる。
自分の腕が痛くなるくらい。
何も言わない私をクラウドも痛くないくらいの力加減で抱きしめてくれる。
お互いが腕を少し緩め、自然とキスをして、もう一度抱き合う。
クラウドの匂いを、めいいっぱい吸い込んだ。
名前、と言うクラウドの言葉に、ん?と首を傾げる。
何か言いたそうなんだけど、あー、えー、と唸っている。

「ご褒美、今欲しい」

非常階段を登っていた時にした約束。
ちゃっかり覚えてたんだなぁ、と思いつつ、いいよ、と返した瞬間、クラウドと私の唇が重なる。
クラウドは角度を変えつつ何度もキスの雨を降らせながら、私を抱き締めていた腕で髪の毛、首、肩、腕に触れてくる。
クラウドはいつのまにかグローブを外していて、直に感じる体温が温かい。
ぎこちない触れ方が、こそばゆくて少し身をよじる。

「…嫌じゃないか?」

唇を離したクラウドは私の肩に顎を置いて、私の耳に近い位置で話す。
きっと無意識なんだろうけど、耳元で響く低い声が理性を壊そうとしてくるのを感じる。
体の奥が疼く、こんなところで、でも、これくらいならいいよね。

「嫌じゃないよ…クラウド、ご褒美あげる」

私はクラウドに自分からキスをする。
一度離して唇を舌で舐めると私の行動に驚いて緩んだクラウドの唇を舌で割って、歯列をなぞり、口を開けて、と言わんばかりに舌先で歯をとんとん、と叩く。
私の思惑に気付いたのか、少し口を開けたクラウドに舌をねじ込んで、クラウドのそれを探し当て、舌を絡ませる。
ざらざらとした感触が気持ち良い。
クラウドの舌を欲望のまま絡めとると慣れてなさそうだけど必死に答えてくれる。
唾液の、くちゅ、くちゅ、という水音が耳に響いて、音に脳内を侵される。
クラウドが一度息苦しそうに、はぁ、と息を吸い込んだ、その仕草に興奮してしまう。
顔が見たくて、唇を離すと、クラウドの目がギラギラしていた。
あ、やばい、これ、男の目だ。
なんて思う暇もなく、クラウドの腕が私の肩を、ぐい、と押してベッドへと押し倒される形になる。
私の足の間にクラウドの膝が割って入ってきて、どこでそんなこと覚えたのか、多分これも無意識なんだろうけど。
皆が帰ってきたらどうしよう、そんな焦りさえ今は、ただの興奮材料。
だって、こんなことにベッドがあるのが悪い、なんて今の状況を正当化する。

「名前…名前…」

うわ言のように呟きながら、私の頬を撫でるクラウドに答えるように筋肉質な腕をゆっくりと撫でる。
クラウドの息が荒い。
少し顎をあげて唇を尖らせると、クラウドからのキス。
体をぴったりと密着させて、体を上下にゆっくり撫でるように動かすとクラウドの舌の動きが激しくなる。
唾液の音はさっきより激しく、ぐち、ぐち、と音を立てている。
激しすぎるキスに一度酸素をとりこもうと唇を離すと、唾液の糸がキラキラと私達を繋いでいた。
その光景に、また欲情してしまう。
たまらなくなって、舌先をちろ、とクラウドに見せると、はぁ、と息を吐いたクラウドの舌先と私のそれが、交わる。
お互い薄く目を開けたまま必死に自分の舌を伸ばして、息を荒げながら互いの舌を求め合う。
ああ、すごく、熱い。
さっきまでの不安なんて、とっくに溶けてなくなってしまっていた。

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