『・・・俺には、名前が必要なんだ。生きていて欲しいんだ。だから一緒に助かりたい。それじゃ駄目か』


貴方と生きたいと思いながら、それでも、と諦めた気持ちを一言で呼び戻されてしまった。

貴方には私が必要・・・?

私は、貴方に何かしてあげただろうか。

私は、クラウドからもらってるよ・・・沢山。


「名前」


クラウドが、私の名前を呼ぶ声が遠くで聞こえる。

脳に目を開けるという信号を送ると、目の前が真っ白になり、目を細める。

段々開けていく視界に映るクラウドに、ああ生きているんだと実感する。

ワイヤーに飛び乗り脱出した後、着地する際に、どこかをぶつけたんだろうか、体が少し痛くて、重い。

クラウドに大丈夫か、と声を掛けられ、自分の体を見て見ると特に大きい怪我をしていないみたい。

どこまで強運なんだ、私は。


「名前、立てるか、一緒に、来れるか」

「うん、大丈夫、行くよ」

「これからは、俺の傍を離れないでくれ」


状況にそぐわない甘い言葉、クラウドが私の頬を優しく撫でる。

グローブの感触がこそばゆい。


「名前を一人にしたら、いなくなってしまうそうな気がするんだ。だから」

「大丈夫だよ・・・もう自暴自棄になったりしない、だって」


あんなこと言われたら、死ぬに死ねないよ。


「だって、何だ?」


クラウドの問いに私は、ううん、なんでもないと返して立ち上がった。

ティファとバレットの姿が見えないので心配をしたけど、ティファが先にバレットを探しに行ったらしい。

街は、潰れてしまったんだろうか。

他の、みんなは・・・?


「おーい!誰か、いねぇのか!」


周りに響き渡る、バレットの大声。

声のする方へ私達は歩みを進めると、瓦礫に向かって叫びを上げるバレットと、横で俯くティファの姿。


「マリン!ビッグス!ウェッジ!ジェシー!ちくしょう・・・!」


大柄のバレットの何倍あるだろうか、そびえ立つ瓦礫の山。

燃え上がる炎。

私の知らない七番街の姿がそこにはあった。

バレットは生身の左手で瓦礫をグーで殴り続けている。


「ちくしょう、マリン・・・!」


横に居たティファがバレットの背中に触れ、私達のせいだね、と呟く。

こんなつもりじゃなかった、では済まされないところまで、いつのまにか来てしまった。

犠牲になった人達は何人いるのだろうか、考えるだけで心臓が痛くなる。


「違う、違うぜ、ティファ・・・。何もかも神羅の奴らが、やったことじゃねぇか・・・!そうだろ!?」


バレットの言葉に、ティファはうん、と理解を示しながら拳を固く握りしめている。

バレットはティファの拳を解いて、この怒りは絶対忘れねぇ、いいな、と言いながら左腕でティファの肩を抱いた。


「・・・名前」


バレットの声に、びくっ、と肩が上がる。

何で、あいつらを助けられなかったんだ、って言われたら、どうしよう。


「お前が生きてて良かった・・・一人で責任を感じるんじゃねぇぞ」


バレットの言葉に目が熱くなり、視界が歪み、下を向く。

そんな私を見たティファが、私に駆け寄り、強く抱き締めてくれる。


「名前までいなくなったら、どうしよう、って、私・・・」


震えているティファの声と体に、また涙腺を刺激される。

小さくごめんね、と言うと、ううん、と返される。

私は、一人で背負ったつもりで、悲劇のヒロインになってしまっていた。

皆だって辛いはずなのに、ごめんね、と、もう口には出さずに心の中で呟いた。


「バレット、マリンは無事だ。エアリスが言ってた」

「エアリス?あの捕まってた女か?」


マリンは無事・・・良かった。

でも、エアリスが、捕まってる?

驚きの事実に、私はクラウドの方を見る。

神羅に掴まっている映像を支柱で見せられた、と教えられる。

場所のことは当然教えられなかったようで、不安が募る。

ここまで巻き込んでしまうなんて。

エアリスはマリンは大丈夫、とモニターの中で言ってくれていたと、ティファが言う。

バレットは信じるぞ、いいかとクラウドに詰め寄るが、クラウドは何も言わず、歩みを進める。

バレットは、おい、どこに行くんだよとクラウドを追った。

私達も二人についていく。

進んでも、進んでも鉄骨がむき出しの瓦礫の山を進んでいくと、助かったであろう人達の姿も見えて、少し安心した。

クラウドは、他にあてがないとエアリスの家へ向かっている。

決して、マリンは無事だ、とは言わないクラウドにバレットは痺れを切らしてクラウドの前に立ちはだかり、いるって言えよ、希望持たせろよ・・・と、いつもより覇気がない声で言う。


「いなくても、お前を責めたりしねぇ・・・そりゃ、ちっとは文句言うだろうけどよ・・・」


クラウドは優しいから、逆に傷つけてしまうことに、なるかもしれない安易な言葉を口に出来ないんだろう、と思う。

どちらの気持ちも分かる私が何も言えずにいると、クラウドに古代種って知ってるか?と聞かれる。

ティファも私も、聞いたことがある程度、と答えると、バレットがすらすらと知識を話し始めた。


「星命学の本を読めば出てくるぜ。大昔星を開拓したって一族だ。星と語るとか、そういうのだろ?」


クラウドが、それがタークスに狙われていた理由か、とポツリと呟く。

え、それじゃ、エアリスは、とクラウドを問い詰めようとすると、頭を抑えて苦しそうにするクラウド、また、これだ。

苦しむ様子がなくなったかと思えば、とても悲しそう顔をして立ち尽くすクラウドに、大丈夫?と声を掛けるも、何でもない、急ごう、と先に見えるウォール・マーケットに歩みを進めたので、それ以上は聞けなかった。

ウォール・マーケットも騒然とした雰囲気になっていた。

神羅兵もうろついているが、気付かれないように回り道しながら、進む。

お世話になった人達は無事みたいで、ほっとする。

どうやら、被害も及んではいないらしく、安心してウォール・マーケットを後にして伍番街のエアリスの家へ急いだ。






エルミナさんに合わせる顔がない。

扉を開けてすぐにバレットが必死に、マリンはどこにいる、と余裕のない表情でエルミナさんに詰め寄る。

クラウドが制したところで、あまり効果はなかったのか、次は挙動不審でマリンの特徴を伝えると、エルミナさんは二階で眠ってるよとバレットを落ち着かせた。

良かった・・・マリン。

マリンの顔を見て安心した私はエルミナさんに、あの、と声を掛けるとエルミナさんは分かっているとでも言うように首をゆっくり横に振り、エアリスは神羅に行ったよ、と返す。


「あんたたちのせいじゃない・・・遅かれ早かれ、こうなる運命だったのさ」

「古代種だから・・・だな?」

「あの子から聞いたのかい?」


私の中で疑惑が確信に変わる。

クラウドの質問に、そう答えたエルミナさんの言葉は肯定と、とっていいものだった。

エルミナさんがエアリスの話をしてくれた。

エアリスは古代種の生き残りで、実の娘ではないこと。

エルミナさんの旦那さんは最前線に送り出された兵士だった。

休暇で帰るという手紙を受け取ったエルミナさんは約束の日に駅まで迎えに行ったが、そこに旦那さんの姿はなかった。

毎日のように駅へ向かっていたある日、苦しそうに壁にもたれかかる女性に、心配そうに声を掛ける少女。

少女の母親であるだろうその女性は、エアリスを安全なところに、と告げて息を引き取ったそうだ。

旦那さんが帰って来ず、寂しかったエルミナさんはエアリスを連れて帰り、一緒に暮らしていた。

エアリスはエルミナさんに言った。

どこかの施設から母親と逃げ出したこと、お母さんは星に帰っただけだから寂しくなんかないと。

するとある日エアリスが突然、エルミナさんの大切な人が死んじゃったよ、と告げる。

エルミナさんは信じなかったが、翌日後に旦那さんの戦死を知らせる手紙が届いた。

色々ありながら幸せに暮らしていた二人の元へ、神羅のタークスが訪れ、そこでエアリスが古代種であることを聞かされた・・・。

古代種は至上の幸福が約束された地へ我々を導いてくれる・・・タークスはエルミナさんにそう告げたそうだ。

居場所を知っているのに誘拐しないなんて、タークスらしくないと言うクラウドに、エルミナさんはエアリスの自発的な協力が必要なんだとさ、と。

用が済んだら、すぐに返してくれるだろう、と・・・。

どうかな、と出て行こうとするクラウドをエルミナさんが、何をしようってんだい?事を荒立てないでおくれ、と制止する。


「エアリスまで失うことになったら、私はもう・・・頼むよ」


確かに、エルミナさんの言う通りかもしれない。

でも、アバランチを排除するためにプレートを落とすような神羅がエアリスを大人しく返してくれるんだろうか?

けれど、エアリスが危ない目にあっているのならば、一刻も早く助けにいかなければならない・・・ただ逆にエアリスを危険な目に合わすことになるんじゃないか?

何も口には出来ず、頭の中で堂々巡り。

誰も言葉を発さない中、バレットはセブンスヘブンも確認したいからと、七番街へ一度戻ることを提案し、ひとまずは、それに賛成する。

みんなを守るなんて、大層なことを言ってたけれど、何もできない自分の弱さに苛立ちを覚える。

どうか、みんな、無事でいて、生きていて。

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