名前の姿が、見当たらない。

コルネオの陰謀によって下水道に落とされた俺とティファとエアリスは何とか地上へと上がり、気味の悪い列車墓場をくぐり抜けて七番街へと戻ってきた。

しかし、時既に遅し、だった。

支柱では既に激戦の最中。

ウェッジとマリンはエアリスに任せたが、ビッグスとジェシーは・・・。

ティファと一緒に屋上へ到着すると、何とか持ちこたえてくれていたバレットと合流する。

辺りを見回しても、名前の姿はないようだ。


「バレット、名前はどこにいるんだ」

「俺も必死でな・・・セブンスヘブンで、この計画の話を聞かされた時に顔合わせたのが最後だ」


コルネオが落とし穴のレバーを下げようとした時、俺は咄嗟に名前を突き飛ばした。

考えるより先に体が反射的に動いていた。

今となっては、どうしてあんなことをしたのか、良く分からない。

俺が、傍に居て守ってやれば良かった・・・後悔すら感じる。


「お仕事だぞ、と!」


レノがヘリから飛び降り、システムのコンピューターを稼働させる。


『緊急コードの入力を確認、起動ボタンを押してください』


ボタンを押そうとするレノに飛びかかり阻止すると、金属音が鳴り響く。


「お前、名前に会えたの」


レノが唐突に名前の名を口にする。

どうして名前を知ってる、そう問いただしたかったが、今はそんなことを聞いている訳ではない、それがどうした、と返す。

こいつは何かを知っているのか。


「やっぱ俺が最期の男になれたか・・・嬉しいぞ、と」

「どういう意味だ」


思わず手に力が入り、いつもより剣を握る力が強くなる。

さいご?こいつは、何を言ってるんだ。


「俺が殺した」


思考が停止する。

今、こいつは何と言った?


「ちっと邪魔されたんでな・・・好きな女を殺すのには気が引けたが、うおっと!」


言い終わる前にレノに詰め寄り、攻撃を仕掛けていた。


「名前が・・・お前何かに殺されるはずが・・・!」


気が動転している、変な汗が出る、手が震えている。


「あらま、そんなに怒ってると・・・足元すくわれるぞ、と!」


黙れ、黙れ、黙れ。

俺は冷静さを失い、無心で戦った。

俺のせいだ、俺が傍にいなかったから。

気がつくと、戦闘不能になり地に這うレノに刀を向けていた。


「・・・仇討ちかぁ?お熱い・・・ねぇ」


そう言い意識を手放したレノを見て、辛うじて動ける状態だったルードが爆破システムを解除しようとシステムの前にいるティファの元へと走り出す。


「ティファ!」


その瞬間、見覚えのあるマントを被った亡霊のような敵が俺の行く手を阻む。

くそ、こんな時に。


『プレート解放システム起動完了、速やかに退避してください』


バレットが激昂する声と、銃を撃つ音が聞こえる。

もうどうしようもないのか、俺達が考えを模索していると、モニターに黒髪のタークスの姿が映り込み、システムの解除は、もはや不可能だ、と冷酷な言葉を告げる。


「マリンは、大丈夫だから!」


モニターにエアリスの姿が映る。

そこはどこだ、と質問する俺に答えようとすると、神羅兵に連れて行かれる。

何が、どうなっているんだ。


「君達の活動が巡り巡って我々に古代種をもたらしたというわけだ。その点に関しては礼を言おう。だが、申し訳ないが居場所は」


そう言い、人指し指を口元に当てる。

余裕な素振りに苛立ちを覚える。


「逃げて、早く逃げて!・・・名前はどこ!?」

「名前は、」


俺が言葉を続けるのに戸惑っていると、通信が切れたようで、最終警告のアナウンスが鳴り響く。


「名前・・・どこにいるの」

「・・・クソッ!」

「・・・みんな」


俺の声ではない、三人目の声の方へ振り返る。

・・・名前。


「・・・名前!」

「名前!」


ティファとバレットも名前の姿を見て、喜びの声を上げる。

何か言う前に俺は走り出し、名前の存在を確認するように強く、強く抱き締めた。

温かい、心臓の音が聞こえる。

・・・生きている。


「・・・ごめんなさい」


名前が消え入りそうな声で俺に言う。

抱き締めていた手を緩め、どうしたんだ、と聞いても、何も言わない。

顔を覗き込むと、顔は涙でグシャグシャになっている。

また、泣いている、名前が。


「私、知ってたのに・・・みんなを、助けられたかもしれないのに・・・!」


言い終わると、声を上げて泣き出してしまった。

どんな言葉をかけていいのか分からず、片腕は名前を抱き締めたまま、名前の指と指の間に俺の指を滑らせ、強く握る。

言葉をかけるよりも、今はこうしたかった。


「おい!こっちだ!このワイヤーで脱出だ!」


バレットの声に、急いでここから脱出しなければいけないことを思い出す。

行こう、と名前に声を掛けても、首を横に振ったまま動こうとしない。


「私が助かるなんて・・・そんなのできない。ここにいる。ビッグスとジェシーと一緒に、ここにいて、最後まで戦うの」

「ここは、もうすぐ爆発する。早く一緒に来るんだ」

「もう、大好きな人達がいなくなっちゃうの、見たくないの。だからもう、いっそここでみんなと一緒に・・・クラウドは脱出して、生きて」


どうしてそんなことを言うんだ。

俺は前言っただろう・・・自ら犠牲になるような真似はしないでくれ、と。

なんでいつも私なんて、と言うんだ。


「・・・俺には、名前が必要なんだ。生きていて欲しいんだ。だから一緒に助かりたい。それじゃ駄目か」


俺が、そう言うと名前は何も言わずに声を上げず、静かに涙を流した。

こんな時に綺麗だ、なんて思うなんて、不謹慎極まりないだろうか。

俺の気持ちは、届いているか。


「急げ急げ!」


どうやら残り時間が少ないらしい、俺は名前の手を取って走り出し、名前を抱え、ワイヤーに飛び乗る。

背後で、支柱が爆発し、真下には、崩れて行く街並み。

名前の鼻を啜る音だけが、何故だか鮮明に聞こえた。

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