エアリスの家を出た私達は、七番街へ向かうために以前エアリスと訪れた陥没道路を進んでいく。

あの頃は楽しかったなぁと、思い出して、悲しくなる。

みどり公園の手前で、ハイタッチなんかしちゃったり、遊具に登って三人で話もしたなぁ。

そんな場所も今は避難をしている人達でいっぱいだ。

泣いている人も沢山いて、チクリと胸が痛くなる。

ワイマーさんの姿を発見して、無事が確認出来て胸を撫で下ろした。

他の人達はどうか、とバレットが尋ねるが、ワイマーさんはまだ分からないと俯く。

以前、元々進むつもりだった遊具の下にある梯子を下り、配電通路を通っていると、何度か轟音が鳴り響いた。

きっと、七番街が、崩れていく音。

音のする方に走って向かっていくうちに、そこには私の知らない七番街の姿があった。


「・・・っ」


目の前に広がる光景に何も言えず息を呑む。

こんな街、知らない、ここは七番街なんかじゃ、ない。


「もう少しだよ!頑張って!」


人の声が聞こえる、この声は、マーレさんだ。

私は急いで声のする方に向かうと、瓦礫の下に挟まっている女の子と、自警団の人の姿も見える。

私達も手を貸し、女の子を無事助け出すことができた。


「マーレさん、無事で良かった。あの時はありがとうございました。本当に、無事で・・・良かった」


私の言葉にマーレさんは、アンタたちが無事で良かったよ、と一言告げ、これからどうするのか、と尋ねる。


「俺達に出来ること、見つけるさ」


バレットの言葉に、うん、とだけ頷くと、マーレさんに別れを告げ、セブンスヘブンへと、向かう。

街は、この状態・・・決して無事では、ないと心では分かっていても、その光景を目の当たりにしてしまうと、もう戻れないような気がして怖かった。

足が重くなったような感覚。

瓦礫と炎の中に見つけたセブンスヘブンの看板は、もう字は読めなくなるほどボロボロになった状態だった。

茫然とする私とティファの前で、ちくしょう、と言いながらバレットが瓦礫を、どかしている。

無意味だなんてバレットも理解しているはず。

それでも、この現実を受け入れる余裕は、私達にはなかった。

故郷を失った私とティファには、ここが帰る場所だった。

バレットだって、ここでの思い出は沢山、ある。

また、失ってしまったんだ。


「みゃあ」


無音に、なったような感覚の中に聞こえた猫の鳴き声。

ウェッジの猫だ。

私達をチラッと見た後、こっちだよとでも言うように道案内をしてくれる。

ウェッジがいるのかもしれない、私達は希望に縋りつくように後を追った。

すると、地下へと続く穴が開いているのを見つける。

爆発か何かで、穴が開いたのだろうか、進んだ階段の先には、大きい神羅のロゴマーク。

地下に神羅の施設があったなんて、と辺りを警戒しながら進むと、猫が人の横で立ち止っている、あれは、ウェッジ、

その瞬間、崩れていく足場、落下していく体。

ここ最近、よく落とされるよなぁ、と思いながら、いずれ地面に叩きつけられるであろう体を必死に庇った。


---


目が、覚める。

どうやら命はあるようだ。

ふと、右肩に自分とは別の体温を感じて、右を向くと名前が、目を閉じていた。

俺の右肩は温かい、生きていることを実感して、ほっ、と息を吐き出す。

バレットとティファはいないし、声も聞こえない。

別の場所に、落ちたのだろうか、探して早くウェッジの所に行かないとな。

名前を起こそうと、肩を掴む。

伏せられた長い睫毛が目に入った。

再会してから、名前の涙を何回も見ている。

昔は、泣いている名前を見たことがなかったから、幼い単純な頭では、年上で、自分より幾分も大人びた女性なのだと、姉のように感じていたが、今は、どうだろう。

根本的な部分は変わっていない、あまり我が強くない部分はそのままだが、思っていたよりも、心が強い方ではない、そう感じることも多くなった。

今の俺なら、守ることができるだろうか。

俺が知らない間に何かあったのだろうか、知らない名前がいるのかもしれない、そう思うと、何故だか心臓を掴まれたような息苦しい感覚を覚える。

俺はきっと、名前の全部を知りたいんだ。

名前のつけられない感情に揺さぶられながら、名前の顔に触れる、まだ起きない。

もう少し近くで見たい、本能のまま自分の顔を、だんだん近づける。


「・・・うっ」


名前の口から声が聞こえ、慌てて自分の手を離す。

俺は、何をしようとしていたんだ。

名前の息がかかるほど近づいていた自分に驚き、顔に熱が集まるのを感じる、変な汗が止まらない。


「・・・クラウド?」


俺を呼ぶその声に、なるべく平常心で、目が覚めたのか、と答える。

バレットとティファがいないことを伝えると、じゃあ早く探してウェッジを迎えにいかなくちゃね、きっと生きてる、と立ち上がった。

さっきの俺の行動には気付いていないらしく、心の中で胸を撫で下ろした。

通れる道を進んでいると、銃痕を発見した。

こんなことするのはバレットぐらいしかいないだろうと、二人で銃痕を手掛かりに進む。


「ありがとう、クラウド」


突然感謝の言葉を口にした名前に、何がだ、と返す。

何を感謝されているのだろうか、思い当たる節が見つからない、名前は俺に向かって少し目を細めて微笑んだあと、次に続く言葉を口にしていく。


「支柱が爆発するってなった時ね、クラウドがいなかったら私あそこで死んじゃってたと思う」


その言葉に、あの時を思い出す。

名前が自暴自棄になり死のうとしていた時のことだ。


「生きて欲しい、一緒に助かりたい、って言われた時に、覚悟してた気持ちが、吹っ飛んじゃったの。私って意志弱いなぁ」

「そんな意志、弱くていい」

「あはは、辛くても生きていかなくちゃね。私、死ぬことで逃げようとしてたのかもしれない」


あの時の俺の言葉は届いていたらしい。

本心だが、なかなか恥ずかしいことを言ってしまったな、と思う。


「そんな逃げ方したら、あの世から引っ張り出して説教してやる」

「・・・死んでも、クラウドが会いに来てくれるなら悪くないかも」


名前がそう言って笑うと、また顔に熱が集まる。

なんだこれは。

ただ笑えないその冗談に、おい、とだけ返すと、嘘、嘘、とまた楽しそうに笑う。

こんな状況だが、名前が立ち直ってきているようで俺は安心した。

もう、あんな肝が冷えるような思いはしたくない。

それからは無事にティファとバレットを見つけ、気味の悪いモンスターに俺がトドメをさして、美味しいところを全部持って行ってやった。

道を作るため、バレットが銃で開けた穴の先には、大きいカプセルの中に人らしき影が見えた。

恐らく、この地下で人体実験をしている。

これが神羅の裏の顔、だ。

すると頭の中に、映像がフラッシュバックで流れ出す。

俺が、いる・・・?


「クラウド?」


心配そうな名前の声でハッと我に返った瞬間、顔のない、フードを被った、幽霊のような、今まで何度も見たあいつらが、俺達をどこかへ連れて行く。

こいつらの目的は一体なんだ、敵なのか、味方なのか。

そう思いながら、やはりエアリスを助けに行かなくてはいけないと、強く思った。

もう、誰かを守れなかった、って、そんな思いはしたくないんだ。

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