セブンスヘブンの扉を勢いよく開ける。
バレットは、ここにいるかなと踏んでいたけど、正解。
会えた安心感と同時に、どっと押し寄せる疲労感。
必死に肩で息をする私にバレットは、名前・・・無事だったんだな、と一言告げた。
「ここが・・・危ない・・・の・・・」
「どうしたよ、落ち着け」
消え入りそうな声で言葉を絞り出す私をバレットが支えてくれる。
伝えなきゃ、手遅れになる前に、早く。
「ティファに会って一緒にコルネオの所に行ったの・・・そしたら・・・神羅が七番街スラムの支柱を壊して・・・プレートを落と、して・・・街を潰すって」
「・・・それは本当か」
思ったより冷静に問うバレットに私は、うんとだけ頷く。
「マリン、ここから出るなよ、とうちゃんとの約束だ、守れるよな?」
「うん!早く帰ってきてね!」
バレットはマリンに笑いかけた後、私にビッグスとジェシーとウェッジにその話をしておくこと、街の人達に避難を呼びかけることを頼む、と伝えた。
その後は、全員支柱に集合。
そして、俺は先に支柱へ行く、と走り出した。
私は急いでビッグス、ジェシー、ウェッジの家に向かい、事のあらましを伝えた。
皆、驚いてはいたものの、私の真剣な顔を見て事の重大さを察知したのか、急いで支柱に向かってくれる。
人は多い方がいい、他のアバランチのメンバーにも支柱へ行くよう伝えておいた。
次は街の皆を避難させたいけれど・・・信じてもらえるだろうか。
私でさえ、今も信じられない、いくら神羅だからって本当にそんなことできてしまうの?
「・・・名前、どうしたんだい?そんなに慌てて」
「マーレ、さん!」
マーレさんの顔を見た瞬間、鼻の奥が少しツンとした。
不安な気持ちが少し和らぐ。
けれど、そんな余韻を断ち切ってマーレさんに全てを話した。
街の人達に話しても混乱するか、信じてもらえないだろうから、何かが、あった時のために避難経路を確保しておいてくれるとのこと。
あの支柱が簡単に壊れるはずはない、経路さえ確保しておけば、異変が起きた時に、すぐ対応できるはず。
名前は支柱に行きな、と背中を押してくれたので、ありがとうとお礼を告げ、支柱まで急ぐ。
「名前!こっちッス!」
「ウェッジ!」
支柱の階段のところに、ウェッジの姿が見えて、急いで駆け寄った。
「ウェッジ、みんなは?」
「各階で、ちらばって監視してるッス。まぁそんな直ぐには神羅も動かないと思うッス・・・け・・・ど・・・」
言葉に詰まるウェッジにどうしたの、と声をかける前に上空から聞こえるヘリの音。
音のした方を振り返ると、神羅のヘリが支柱へ向かってくるのが見える。
「・・・嘘・・・いくら何でも早すぎる」
誰ひとり傷つけたくない。
その一心で私は階段を急いで駆け上がる。
ウェッジの、名前!待つッス!って声が聞こえたような気がしたけれど、無視して走り出す。
この作戦を知っていたのは、この場では私だけなんだ。
主役になったつもりはないけれど、守らなきゃいけない。
全員、守らなきゃいけない・・・。
ある程度、上の階に来た所で、一度回りを見渡す。
・・・敵の姿はまだ見えないみたい。
『名前』
聞き覚えのある声が無線と通して私を呼ぶのが聞こえる。
『こんなとこで再会とは悲しいぞ、と』
「・・・レノ!」
ヘリコプターの中にはレノの姿。
私は鋭い視線を向ける。
蜜蜂の館で会った時、見逃してくれて、ちょっといい奴なのかもって思った私が馬鹿だった。
忘れてはいけない、こいつも、神羅の一人なんだ。
『悲しいけど、これも仕事だぞ、と。任務は絶対に成功させる』
「なんで・・・なんでこんなことができるの?目的は、いったいなんなの?」
握り締めた拳に力が入る。
レノのさぁな、という軽い返事に余計苛立ちが募る。
あんた達にとってはスラムの街一つ潰れ、沢山の人達が犠牲になることが、そんなに軽いことなのか。
『名前、好きだ』
「・・・こんな時に、何言ってんの?」
『悲しいけど俺が最期の男になりたかったんだぞ、と』
「こんなところで、死ぬわけないじゃない」
『名前って結構強気な女だったんだな。ますます気に入ったぞ、と』
ただ、もうさよならだ。
レノは一言そう告げ、こちらに手榴弾を投げる。
こんなので死ぬわけ、と軽く避けようとすると、足がもつれた。
やばい、ずっと走ってたから足が、
思う間もなく爆風で吹っ飛ばされるような感覚、遅れて頭に走る強い衝撃。
遠くで、お前がウォール・マーケットから走ってここまで来たことなんて、知ってるぞ、と。って、うっすら聞こえたような気がする。
私は、眠るように意識を手放した。
「・・・う」
けたたましく響く銃声。
脳に信号が巡り、ゆっくりと目を開ける。
死ぬ時って、あんな眠るように逝けるんだ・・・って思ってたのに、自分の体を見ると、血の一筋も流していない自分に、正直驚きながらも、みんなはどうなったのかと気になり、反射的に体を起こす。
どうやら私は、爆風で吹っ飛び、頭を打って気を失っていただけらしい。
物陰になる所で倒れていたようで、おそらく誰にも気付かれていない。
強運がすぎるなぁ、と、思わず苦笑いしながら物陰から辺りの状況を観察する。
倒れている神羅兵や、アバランチの皆。
・・・どれだけ、時間が経ったんだろう。
「・・・ビッグス!」
柱にもたれかかるように座り込んでいるビッグスの姿が目に入って急いで駆け寄る。
気を失っているのか、傷もひどい。
「ビッグス、どこが痛む?」
そう声を掛けても応答がない。
少し強引だけれど、意識を戻そうと肩に手を置く。
「・・・嘘」
嘘、冷たい、嘘、嘘。
「ビッグス・・・ビッグス!」
無我夢中でビッグスの肩を揺らしても、応答が、ない。
「ねぇ!嘘でしょ!起きて!」
泣きながら叫ぶ。
嘘でしょ、こんなことって。
ごめんなさい、私がもっとちゃんとできてたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
「ビッグス、ごめんね・・・」
もう少し、この場に居たかった。
でも、行かなきゃいけない、私は、私が。
ゆっくりと立ち上がる、頭が痛い、ぼーっとする。
足は、あの時、もつれただけで、問題なく動くみたいだ。
ふと通り過ぎようとした私の目の片隅に映る、見慣れたポニーテール姿に、心臓が止まるような感覚を感じた。
「ジェ、シー」
ゆっくりと、傍に腰を下ろす。
「作戦終わったら話すって言ったよね、作戦の前の日、何かクラウドが嫉妬してくれたような気がしてさ!ま、勘違いかもしれないんだけど・・・。後、最近気付いたんだけど、私、クラウドのこと好きみたい・・・。他にも沢山話したいことあるから、お酒でも飲みながら聞いてくれる?」
一方的にひとしきり話終わると、私はジェシーの手に自分の手を重ねた。
「うっ・・・っ・・・」
感じるのは冷たさだけ。
無意識に涙がひたすらと頬を伝って零れていく。
私のせいだ。
それなのに、何で私は生きてるの。
早く行かなきゃいけないなんて分かってる。
それでも、そこから動くことができなかった。