コルネオに押し倒されてから1時間ぐらい経っているように感じるけど、実際3分ぐらいしか経ってないんだろうな。
ただただ早く助けに来てと、ただ神様にお願いをしていると、コルネオの手が太腿の内側を這いはじめ、ひっ、と無意識に小さな悲鳴が零れる。
「ほひ〜!声かわい〜!」
どう考えても喜んでる声じゃないから、と心の中で反論しながらも本当に気持ち悪くて涙腺が緩む、目に涙が溜まる。
こいつの目の前で泣きたくなんかない、自分自身と戦っていると勢い良く扉が開かれた。
「・・・クラウド」
そこにはドレスを脱ぎ、いつもの格好に戻ったクラウド。
助けに来てくれたけど、一番見られたくなかった人が来てしまった。
ちょっと鼻の奥がツーンとして目に溜まっていた涙が零れる。
私の姿を見て、名前に触るなゲス野郎と聞いたことのない低い声で呟いたクラウドは一瞬でコルネオを蹴り飛ばした。
後ろの龍の置物に勢い良くぶつかり、ベッドにうつ伏せの状態で倒れ込む。
クラウドの蹴りが頭に直撃して、意識を失っているらしい。
「名前・・・もう大丈夫だ」
天井を見上げたまま、さっきの状態から動かない私の体をそっと抱き起こすクラウド。
「ありがとう・・・クラウド」
「遅くなってすまない」
感謝を告げる私の声と体は小さく震えている。
察したクラウドはベッドに体重をかけている私の掌に掌を重ねる。
グローブ越しの手の温もりが心地良くて、ほっとした。
「・・・手は出されたのか」
「ちょっと・・・触られただけ」
どこだ、と言われたから、ここ、と自分の太腿の外側に手を添えた。
さっきの感触が気持ち悪いほど残ってて、自分で触れるのでさえ気持ち悪い、やっぱり殴ってでも抵抗した方が良かったのかも、と考えているとクラウドの手が私の太腿にある手をどけて、そこに手を当てた。
「クラウド・・・!何して・・・」
「・・・消毒だ」
そう早口で言ったクラウドは私の太腿から一度手を離し、さっきより下の方にもう一度触れる。
触れられている部分が二人分の体温で熱を持つ。
もう他は大丈夫か、と聞くクラウド。
何か流れで触れ合えてラッキー?なのか?何て邪な考えをして心ここにあらずだった私は馬鹿正直に、あ、ここもと自分の太腿の内側を指した後に、はっと気付く。
ここ触って、って言ってるようなもんじゃないか。
痴女みたいで死ぬほど恥ずかしくなり、大丈夫だから、と言う前にクラウドがそこに触れた。
いよいよ変な声が出そうになりそうなのを必死に堪える。
こんな私の目の前にいるクラウドは至って真剣な様子だし、まだコルネオに怒っているのか目が怖い。
数秒間手を置いたままだったクラウドの手は私から離れていく。
どうやら消毒は終了したようだけど、逆に何だかクラクラする。
年下に体を触らせてしまった罪悪感を拭うためにティファとエアリスのことを聞くと、もうすぐ来るとのこと。
もう少し早かったら、さっきの見られてたのかもしれないのか、と思うと恐怖すら感じる。
これ犯罪とかにならないよね?大丈夫?
「てめぇ!何者だ!おい・・・お前等、来い!」
あ、コルネオの存在をすっかり忘れてた。
クラウドは私を庇うように前に立ってくれる。
そうだ、私、武器持ってない。
開いた扉からコルネオの手下が入ってくると思い、ひとまず構えると目に映ったのはティファとエアリスの姿だった。
二人は必死に私の心配をしてくれたけど、さっきクラウドに消毒してもらったんで大丈夫です、なんて死んでも言えない私は大丈夫だよ、と一言だけ告げた。
「おいおい何がどうなってる!」
「おあいにくさま・・・あなたの子分は誰も来ないみたい」
「なにこれ?」
明らかに困惑し始めるコルネオはティファに手下に七番街のスラムで何を探らせていたのかを問い詰められると、すっとぼけはじめる。
言わないと切り落とすだの言わないと捻り切るだのすり潰すだの脅されたコルネオは新羅のハイデッカーに依頼されたと口を割った。
「へへへ・・・」
さっきまで怯えきっていたコルネオの笑い声・・・何企んでるの。
「仕方ねぇから教えてやるよ・・・神羅は魔晄炉を爆破したアバランチとか言う一味をアジトもろとも潰すつもりなのさ・・・文字通り潰しちまうんだ。プレートを支える柱を壊してよ」
・・・は?
コルネオの言葉に思考が停止する。
支柱を壊して、七番街を潰す?
なんで、そこまでして、ありえない。
正直信じられない。
戸惑う私達にコルネオは六番プレートの事故を例に更に私達を脅す。
ティファなんて顔が青ざめている。
七番街を、私達の店を、私とティファの第二の故郷を、潰す、なんてそんなこと、どんな理由が合っても許せない。
早く七番街に戻らなくちゃ、とコルネオに背を向けようとすると、ちょっと待った、と呼び止められ、すぐ終わるから聞いてくれと言い仕方なく耳を傾ける。
「俺達みたいな悪党が、こうやってべらべらと真相を喋るのは、どんな時でしょ〜うか?」
こんな馬鹿らしいクイズに付き合っている暇はない、私は口を固く結んで何も言わなかった。
他の三人も何も言わずに、ただコルネオに鋭い視線を向ける。
「残念!時間切れ!正解は・・・勝利を確信している時〜!」
コルネオは龍の置物に手を添え、レバーのように押し込もうと体重をかけ始める。
「名前!」
驚きの声を上げる前に、私以外の三人は地下へと落ちて行った。
「落とし、穴・・・」
「ほひ〜!また二人っきりになれたのう〜!」
「ふざけ・・・んなっ!」
ヒール靴でコルネオの頭に蹴りをお見舞い。
あまり人に蹴りを入れたことがない私だけど、怒りのパワーって言うのが後押しになったらしく、コルネオはまたベッドに倒れ込んで気を失った。
「・・・こっちに来い」
扉から聞こえて来るのはレズリーの声。
少し構えて部屋を出ると、レズリーは私の服と装備を返してくれた。
取り敢えず感謝の言葉を告げてから、どうして、と聞くと、とにかく急いでここを出ろ言って背中を押された。
レズリーの考えは読めないけれど、助け舟に乗らない理由はない。
そういえば、クラウドは何で私だけを助けようとした?んだろうか。
・・・・今考えるより先に動かないと。
頭をブンブンと横に振り、よし、と小声で呟く。
今、七番街にすぐ行けるのは私しかいない。
早く伝えないと、みんなが、街が、危ない。
でも、地下に落ちて行った三人も、大丈夫だろうか。
急に怖くなってくる。
そんな不安を拭い去るように、私はウォールマーケットの人混みを掻き分けて、ただただ走った。
私が、私が、やるしかないんだ。
責任の重さに怯えたのか、全速力で走っているからなのか、なんだかお腹が痛かった。