お手洗いで少し身だしなみを整えてショーが行われる大きいステージと沢山の客席がある部屋に入る。


「名前!こっちこっちー!」


エアリスは既に座席についていて、私に手招き。

もうすぐ始まるよ、の言葉に私は急いで、いかにも高そうなソファに腰を下ろした。

その瞬間に真っ暗になる照明。

音楽が流れ始めると大きな花の蕾のようなセットから現れるハニーガールとハニーボーイ達。

軽快なダンスと非現実な雰囲気に私は圧倒されていた、凄い。

そして主役は遅れて登場だと言うようにセンターから姿を見せるアニヤンさん。

素人目線でも感じる、そのオーラに思わず拍手。


「まっ・・・待て」


通り過ぎていた声を目で追うとハニーガール達にグイグイとステージの方へ押しやられるクラウドの姿。

背中を向けて元いた場所に戻ろうとしたクラウドをハニーボーイ達が連れ戻す。

腹を括りなさい、クラウド。


「えー!すごいー!」

「ひゅーひゅー!」


クラウドが普通に踊りこなす姿に私とエアリスは大興奮。

最初はちょっと可笑しかったけど、段々とクラウドが格好良く見えてきた。

キレキレなクラウドの動きにソルジャーってダンスの訓練でもしてたのかと思ってしまう。

絶対ないけど。

ダンスのキメポーズと共に盛り上がる場内、そして止まない拍手。


「さぁ、お待ちかねのショータイムだ!」


アニヤンさんの掛け声でクラウド止んだ音楽が、また鳴り始める。

光のような速度でヘアメイクが施され、綺麗なドレスを着たクラウドが・・・。

え、あ、ク、クラウド?

薄い紫色がメインのフリルがたくさんついたお城にいるお姫様みたいなロングドレス。

頭にはティアラ。

髪の毛はエクステがつけられているのか、綺麗なブロンドのロングヘア。

ちょっと上半身はゴツめだけどお城にいるお姫様みたい。

ま・・・負けた。


「か・・・かわいい」

「きゃー!すごい!名前、惚れ直した!?」

「いや・・・敗北感を感じた」


名前も綺麗なのに〜とエアリスは言ってくれたけど、まず顔の造形が違いすぎてお話にならない。

あんなナチュラルメイクで、ここまでの完成度・・・。

ショーは完全に閉幕し、蜜蜂の館の外でクラウドを待つ。

絶賛をする観客達が、ぞくぞくと出て来る中、下を向きながら、いつもと比べて半分ぐらいの歩幅で歩みを進めるクラウドの姿が見えた。

名前、行っておいでとエアリスに背中をポンと押されて、クラウドと横並びの位置に立って歩きながらクラウドに声をかける。


「クラウド、凄かった!ダンス上手!」

「あれ、私だよ。名前だよ」

「お〜い」


何度声を掛けても振り向いてくれないクラウドは歩き続けて、そのまま壁際で立ち止った。


「名前にだけは・・・こんな姿見られたくなかった」

「何で?からかわれると思ったから?」

「いや・・・」

「からかわないよ。凄いもん。私より全然綺麗だから」
「そっ、それはない」


そう言ったクラウドは、ようやくこちらを振り向いた。

私が、やっと顔見せてくれたと言うとクラウドは恥ずかしそうに俯く。

かわいすぎて変な趣味に目覚めそう。

私と少し距離がある所で様子を伺っていたエアリスも我慢できなくなったのか、かわいい〜!と声を上げている。

クラウドが早くコルネオの屋敷へ向かうぞと言ってスタスタと歩みを進めてしまったので慌てて追いかける。

そろそろ、オーディションが始まる頃のはず。

コルネオの屋敷の扉を開け中に入った私達の姿を見たレズリーは少々引きつった顔をしていたが、どうなっても知らないぞと念押しをしつつ奥へと案内してくれた。

階段を上がって奥の部屋で待機しておけばいいらしい。

そこにティファもいるだろうか。

入ると、少し埃っぽい物置のような部屋。


「この甘い香り、何?」


ティファを探すのに必死になっていて気付かなかったけれど、言われてみれば鼻をくすぐる異様な香り。

もしかして、と思っていると、クラウドがガスだ、と察知し入ってきた扉を開けようとする、が鍵がかかっている。


「くそっ」


クラウドが悔しがる声も遠くで聞こえて来るような感覚。

立つのもやっと。

息が苦しい。

連れ出そうと腕を掴んでくるコルネオの手下に触らないでと声が出る前に意識が途切れた。






「感想はいらない他に方法が無かった」


やたらと早口なクラウドの声に私は意識を取り戻して目を開ける。


「う・・・」

「名前!大丈夫?」


体を起こそうとすると私の目が覚めたことに気付いたティファが急いで駆け寄る。


「名前、何回も声掛けたのに目覚めないから心配で・・・」

「ちょっとボーッとするけど大丈夫。ティファ、何もされてない・・・?」


うん、と頷くティファに間に会って良かった、と凄く安心した。

エアリスも目を覚ましたようでティファと初めましての挨拶をしている。

友達と友達が出会う瞬間って何かいいなぁ、と二人を微笑ましく眺めていると、ここは危険だから今すぐ出るぞ、とクラウドが立ちあがった。


「ダメ、まだ目的を果たしてない」


クラウドを引き止めたティファは何でこんな危険な所に足を踏み入れたか、という流れを一通り説明してくれた。

どうやら七番街をうろついていた怪しい男達がコルネオの手先だったらしく、アバランチに探りを入れている、と。

ただそれ以上のことは掴めずコルネオに直接聞くためにここまで来た・・・そういうことらしい。

オーディションに選ばれるとコルネオと二人きりになれる・・・ティファが選ばれて脅して聞き出せば成功、そういうこと、だったんだ。


「いけると思ったんだけど、候補者は四人いるんだって。つまりその中から選ばれないと・・・この計画も失敗」


・・・四人。

ティファの言葉を頭の中で反芻しながら、ここにいる人数を数える。

・・・四人いる。


「なら大丈夫。残りの三人が私達だよ」


と言う訳で、この作戦は成功に限りなく近づいた。

ティファがエアリスを巻き込む訳にはいかないと訴えている声が耳に入ったけれど、エアリスがここで引かないような子だということは私も分かっているので、口出ししないでおいた。

オーディションが始まるというコルネオの手下のアナウンスで階段を上がって来いと促される。

よし、行くぞ!というクラウドの謎の気合いにちょっとびっくりした。

・・・ティファに女装を見られて恥ずかしさでおかしくなった?

長い階段を上がると、手下に整列させられると、ほひ〜!という気持ち悪い声と共に、コルネオが姿を現した。

そ・・・想像してたより気持ち悪い!

ほひ〜!ほひ〜!と言いながら私達を舐めまわすように、じっくりを見定める。

視界に入れないように頑張っていても、拭えない気分の悪さ。


「ほひ〜!決めた決〜めた!・・・今日のお嫁ちゃんは・・・」


今日の、という言葉がひっかかっていると手下は努力次第で明日も明後日も嫁さんでいられるぞ、と口を挟む。

何の努力なの。


「・・・この美脚のおなごだ!」


コルネオが私の顔を見ながらニヤニヤしている。

び・・・美脚って・・・私?


「たまには乳じゃなくて足もいい!ほひ〜!ほひ〜!」


・・・確かにティファほど大きくないけど地味に失礼なこいつ。

でもここまで来たからには、失敗する訳にはいかない。


「・・・ありがとうございます。コルネオ様。早く二人きりに、なりませんか?」


必死に演技した私の一言にコルネオはたまら〜ん!と言いながら私を奥の部屋へと連れて行った。

・・・皆、早く助けに来てね・・・。






「さぁ子猫ちゃん!俺の胸へカモ〜ン!」

今、私は悪趣味なベッドの上にコルネオと向かい合わせで座らされている。


「あの、コルネオ様。先に聞きたいことがあるんですけど・・・」

「まずは、お楽しみが終わってから!ほひ〜!」


コルネオは、凄い勢いで私を押し倒して、太腿に手を這わせた。


「やっ・・・」


無理無理無理!!!と今にも悲鳴を上げたい気持ちはありながらもここで殴ってしまったら作戦が失敗に終わってしまうかもしれない・・・。


「いいの〜!いいの〜!」


ああ・・・もうある程度、自分が犠牲にならないといけないのか・・・と半ば諦めムードで天井のシミをぼーっと見つめた。

もう、お嫁に行けないかも。

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