名前とエアリスはマムに任せておいた。

どうやら俺は何もしなくてもいいらしい。

この街で遊んで来いと言われたが特に興味はないので取り敢えず歩くことにする。

様々な店が立ち並んでいるが、重ねて言うが興味はない。

武器屋やアイテム屋を回った後、そろそろ終わった頃だろうかと手揉み屋のドアノブに手をかける。


「うおおおお〜!クラウドさん、ここでしたか!」


頭が痛くなりそうなほど大きな声に呼び止められる。

こいつは・・・確かジョニーだったか。

相当急いで来たのか、ゼエゼエ肩で息をしている。


「ティファが!ティファが!俺じゃ、もう・・・」


落ち着きがなく、話があまり進みそうになかったので取り敢えずはこいつに連れられてコルネオの屋敷へ急いで向かう。

兄貴って呼んでいいですか聞かれ、即答で断ったが構わず兄貴と呼んでくるので、もう何も言わなかった。

想像以上に人の話を聞かない奴らしい。

ひとしきり一人でベラベラと喋ったあげく足出まといになるからとコルネオの屋敷の前で帰ると言い出すので、マムの店にいる名前とエアリスに俺が戻るまで待つと伝えてくれと頼むと、了解です!と手揉み屋に走って行った。

コルネオの屋敷に入ると、またもや三人組が、その奥の扉を防ぐように立っていた。

推薦状を持った女しか中に入れないとのことで、力ずくで突破もできる意思を見せるべく剣を握るとレズリーは、やめておけ、と一言忠告してから戦うつもりはないようで話を続ける。


「あんたがここで暴れると誰かが責任を取らされる。それは、お前が助け出したい人間かもしれないし・・・或いは、まったく関係のない人間かもしれない」


その言葉に俺は剣を握る手を緩める。

ティファや、名前とエアリスが何か責任を取らされるということになると、全く意味がない。

俺の行き場の失くした手を見てからレズリーは、オーディションまでにはまだ時間があるから推薦状を持った女を連れてこいと俺に告げた。

そして、俺は勧めないけどな、と最後に付け足した。

取り敢えず名前とエアリスを連れて来ないと始まらないので屋敷を後にしてマムの店へ向かうしかない、か。

どうやって俺も中に入ろうかと思考錯誤しながら屋敷に架かる橋を歩いていると、耳に入るがやがやとした音、複数人の人の声だろうか。

その中でもひと際目立つジョニーの大きい声が、どけ、と人を掻き分けている。

・・・何やってるんだ、あいつは。

掻き分けた人の先から見える影。

赤のロングドレスを着たエアリスと、その後ろを隠れるようにして俺の元へと歩いてくる一人の影・・・名前、だろうか。


「エアリス・・・ジョニーの伝言は聞かなかったのか」

「待ってろってやつ?その話聞いたら名前が心配だなって言うから来ちゃった・・・ね、名前」


エアリスに話を振られた名前はようやく俺の前に姿を見せた。

やたらと胸元が開いている、かなり丈が短く体にピタリとくっついているようなタイトなドレスに、いつもとは違って上にまとめ上げられている髪。

いつもとは違う名前の姿に驚き、一瞬穴が空くほどに見つめてしまった後、どこを見たらいいのか分からなくなり、思わず視線を下にやった。

名前じゃ、ないみたいだ。


「・・・クラウド?」


何も言わない俺を不思議に思ったのか名前が俺の名前を呼ぶ。


「へ・・・変じゃないかな。クラウドに、明るい色も似合うんじゃないかって言われたから、白とか着てみちゃった」


名前がそう言った瞬間、体の中に巡っている血が急に熱を帯びる。

味わったことのない感覚に、戸惑っていると、エアリスに何か言って!と腕をバシンと叩かれた。

そう言われても、初めての感情に、どう言葉にしていいか分からない。


「思った通りだった・・・似合ってる」


何を言うのが正解か、散々迷ったあげく絞り出した言葉がこれだったが、嘘は言ってないつもりだ。

名前は少し笑って嬉しいと小さな声で呟いて下を向いた。

表情は見えないが、絞り出した答えは間違っていなかったらしい。

少し平常心に戻ったところで、そういえば、とジョニーやレズリーから聞いた話を簡潔に説明する。

二人で行かせる訳にはと言ったところでエアリスは二人で行く気、ないけどと何かやたらと楽しそうにしている。

何か嫌な予感がしたのでエアリスに説明を求めたが、俺の話を聞かずにこっち!と強引に道案内をする。

・・・俺の周りは話を聞かない奴が多い。

じゃあ名前に聞こうと思って横目で見やったが、その姿が目に入ると、どう話を切り出したらいいかすら分からない。

俺はどうしてしまったんだと首を捻りながら、答えを出せないまま道案内に従った。


---


クラウドに、似合ってるって言われた。

明るい色のドレスが着たいと言ったらマムさんとエアリスにへぇ〜とニヤニヤされたので穴があったら入りたいと思ったけど、勇気出して良かった。

しかし、何でこんな短いスカートなの。

もう少し長いのないんですか、とマムさんに行ったら武器は使わなきゃ損だよ!と威圧的に詰め寄られ、怖いので勧められたやつをそのまま着ることになった。

今まで履いたこともないような高いピンヒールに、よろけそうになりながらアニヤンさんの元へ向かう。

闘技場の戦いを見て、アニヤンさんがクラウドのことを気に行ったらしく、クラウドを推薦してもらえる、らしい。

当然の如く、そのままの格好では入れないので、クラウドを女の子にしてくれるけど・・・。

好きな人の女装姿を見るというのは、まぁ複雑な気分で、ある。

私からは上手く言えないので、エアリスにクラウドの説得を頼んだところ、今その真っ最中のご様子。


「いい?する、しないの話はこれで終わり。どうやっての話、しよう?」


エアリスの押せ押せな言葉に、いや、待て、と反論にもなってない言葉を口にしていたクラウドも、自分が行くにはこれしかないと思ったのか渋々と蜜蜂の館へ足を進めた。

私はクラウドの情けない背中に手を振って見送った。

さ、今からクラウドonステージを見なくてはいけないので、私達も中に入る。

慣れない格好や化粧に一度、身なりを整えたかったので、エアリスに先座っておいて、と一言告げてお手洗いへ向かう。


「お姉さん」


自分の背後から聞こえる声に、ふと振り返ると、赤髪でスーツを着た男・・・タークスのレノ、だ。

いやいや何でこんな所に・・・クラウドはいないし、こいつらにエアリスといることバレたらまずい。

振り向いたはいいが何も言えず、せめてバレないようにと顔を背ける。


「・・・聞こえてんのか?その綺麗なお顔、もっとちゃんと見たいぞ、と」


レノは突然私の顎を掴んで自分の顔へと向けさせる。

・・・近い。

整っている顔がこんな近くにあっては敵とは言えど流石に赤面してしまう。

クラウドとはまた違う色をした目に、吸い込まれそうになる。


「お姉さん・・・どこかで会ったことあるか?」


相も変わらず何も言わない私をレノがじろじろと見る。

何その誰にでも言ってそうな口説き文句、と思ったが実際に会っているので反論のしようもない。


「もしかして、元ソルジャーの助手か。こんなとこで何やってるんだ。しかもこんな綺麗な格好で、びっくりしたぞ、と」

「っ・・・。何もしないで」


武器も持ってないこの状態、ましてやこの格好では私一人でタークスに勝てるわけがない。

情けないのは分かっていながらもレノに縋るように懇願した。


「・・・誰かさんにさせられた怪我のせいで、俺は今日非番だ。癒しを求めて来てんだぞ、と。思わぬ収穫もあったけどな。二度も俺を一目惚れさせるとはなぁ」


どうやら手出しはしないでいてくれるらしい。

レノは指先で私の顔をするりと撫でる。

その感触がこそばゆくて身をよじるとレノは意地悪そうに口の端を上げて笑った。

半端無く女慣れしてそうだな、この人。


「じゃあ・・・代わりと言ってはなんだけど、名前教えてくれよ、助手さん。惚れた女の名前なんだから、知っておきたいぞ、と」

「・・・名前」

「名前、またな」


肩に手を置かれ、ふと頬に感じる熱。


「多分、これで俺が一歩リード。俺はもう満足したから帰るぞ、と。じゃな」


・・・頬にキスされた。

驚きすぎて声も出なかった。

いくらなんでも強引すぎる、私の気持ちは無視かと憤りを感じながら、クラウドにされたら嬉しいのにと妄想したら顔から火が出そうになった。

・・・ありえないか。

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