チョコボ小屋のサムって言うのは、きっとチョコボ車のお偉いさんに違いない。
私達は、ひとまず来た道を戻ってチョコボ小屋へと向かうことにした。
と、チョコボ小屋の手前で項垂れる赤髪を発見。
「あんな誘いに乗っちまうなんて・・・裏にしておけば・・・」
推薦状を手に入れるのに失敗したのかブツブツ言っているジョニーを横目に運良くチョコボ小屋の前に立っているサムさんの元へ。
サムさんは私達を見つけ、やれやれと言う口調で手をヒラヒラさせた。
「なんだ・・・またお前らか。何度来ても同じだぞ。帰れ帰れ」
「違うの!私達をコルネオのオーディションに推薦してほしいの」
「ああ?」
「どうかな?」
「いいぞ」
エアリスのお願いに、あっさりと承諾するサムさん。
驚きつつ、すんなりいくわけではないだろうと少し身構えた。
「次があったら姉ちゃんを推薦してやるよ」
「それじゃ間に合わないんです。今回じゃないと・・・」
「今回?無理無理。ティファちゃんっていう逸材を送り込んでんだ」
私の要望を笑い飛ばすサムさんに、やっぱりなぁと落胆した。
悲しいけど、自分で自分の分析をしてみてもティファに勝てる所が一つも見つからない。
「でも、ティファじゃなくて私達が選ばれるかもしれないでしょ」
「そんなに推薦が欲しいのか」
「欲しい!」
「じゃあ勝負するか?」
エアリスの懇願に念押ししたサムさんは指でコインを垂直へ弾き飛ばし掌でコインをキャッチした。
コイントスで賭けようってことだろうか、さっきジョニーが裏とかなんだとか行ってたことにも合点がいく。
「さて、裏か表か。当たったら姉ちゃん達を推薦してやるよ。外れたら帰んな」
サムさんの手をじーっと見ながら、賭けるべきか、いや罠じゃないのか、と色々と考える。
「表だ」
クラウドが自信を持って答える。
相談なしで言っちゃうのね、と軽く突っ込みつつサムさんの答えをドキドキしながら待つ。
「残念、裏だ」
・・・駄目か。
「ま、正直言って姉ちゃん達は可愛いし綺麗だと思うけどコルネオさんの趣味じゃないと思うぜ。それでも諦めきれねぇなら他の奴を当たるんだな。そのために代理人が三人もいるんだ。じゃあな」
「待て」
私達に背を向けてチョコボ小屋に帰ろうとするサムさんをクラウドが引き止める。
まさか強引に推薦状を貰うつもりだろうか。
「そのコイン、見せてくれないか」
サムさんは薄く笑みを浮かべてコインをクラウドの元へひょいと投げる。
クラウドはコインの表と裏を確認する。
どっちも同じ絵柄のもの・・・やられた。
「やっぱりな、裏も表もない」
「ずるい!」
「ウォール・マーケットへようこそ、と言う訳か」
「負けないから!」
「人間不信になりそう・・・」
取り敢えずサムさんから推薦状を貰うのを諦めた私達は、手揉み屋のマダム・マムの元へ向かったが店に鍵がかかっていたので、ひとまず蜜蜂の館のアニヤン・クーニャンに会いに行くことに。
「す、すごいネオン・・・」
まばゆくピンクに光り輝く蜜蜂の館の看板に如何わしいことこの上がなさすぎて少し引いた。
「俺が話してくる。名前とエアリスはここで待て」
「どうして?私も行くよ」
「私も行くよ。クラウドにこんなとこ一人で行かせられません。何なら私が一人で行くよ。一番年上ですし?クラウドはここでエアリスと待ってて」
自分の言葉に私はお母さんか、と自らツッコミたくなったが、恐らく女性をあまり知らないであろうクラウドに、こんな所一人で行かせたくない。
勢いに呑まれて好きにされたらたまったもんじゃない・・・クラウドの貞操は私が守る。
「絶対、ダメだ」
そう言いながらクラウドにがしっと肩を掴まれた。
「何で?大丈夫だって」
「いや・・・何で・・・とにかく駄目だ」
「駄目な理由がよく分からない」
「上手く説明できない。とにかく俺が一人で行く」
ちょっと、この体勢顔が近くて恥ずかしい。
クラウドは、そう言って相変わらず私の両肩を掴んで離さない。
そんなクラウドにエアリスが一言。
「クラウド、交渉できないでしょ?」
おっしゃる通りのエアリスの言葉にクラウドは返す言葉もない様子。
エアリスに任せておけば問題はないだろうけど、店の外で一人で待つのは変な人に絡まれそうで面倒なので一緒に着いていくことにした。
三人一緒ならいいらしく、クラウドも文句は言ってこなかった。
店に足を踏み入れると、蜂のコスプレをしたお姉さんや、タキシードにハットを身を包んだボーイかと思われる男性の姿。
始めて見る光景に呆気に取られていると私達をお客さんと思ったのか受付の男性がこちらを見て声をかける。
「いらっしゃいませ・・・ウォール・マーケットが誇る最高のエンタテイメント、蜜蜂の館へようこそ。ハニーガールまたはハニーボーイのご指名はありますか?」
「アニヤン・クーニャンに会いたい」
「当店のナンバーワン、アニヤン・クーニャンですね。では・・・ご予約のお名前を頂戴してよろしいでしょうか?」
「いや、予約はしていない」
「それは・・・大変申し訳ございません。現在アニヤンはご予約のお客様で向こう三年間は埋まっておりまして」
「そんなに?」
流石に驚く私達。
ナンバーワンっていうのは、そんなに人気なのか。
またもや怪しくなる雲行きに流石に焦りを覚え始める。
「俺達は、ただ会って話したいだけだ」
「オーディションの推薦状が欲しいの」
「そういうことでしたか。しかし、どちらにしてもご予約がないことには・・・」
「そこをなんとか」
「ごく稀にアニヤンが気に入ったお客様をお呼びすることがございますが、お客様からはどうすることもできないかと・・・申し訳ありません」
「仕方ない・・・さっきは留守だったみたいだけどマダム・マムにどうにかして会いに行くしかないね」
心底申し訳なさそうに、丁寧に対応してくれる受付の男性にこれ以上何も言えなくなってしまった。
手揉み屋のドアノブに手をかけると、ガチャと言う音と同時にドアが開いた。
中に人が戻っているみたい、マダム・マムだろうか。
「いらっしゃいませ、三名様ですね。どうぞこちらに」
私達に声をかけたのは花魁のような格好をした、少し化粧は濃いが色気のある女性だった。
「本日はどういった揉みにいたしましょう」
「揉み?」
「あらご新規さんでしたか・・・うちは手揉み屋って言いましてね?人間手が疲れていると、ろくに金勘定もできやしないでしょ?そんなお客様の疲れを、もみもみと。手と手の濃厚なスキンシップで解消させていただきます。と言う訳で本日はどういった揉みにいたしましょう」
「俺達は客じゃない」
「と言いますと?」
「私達をコルネオさんのオーディションに推薦してもらいたく「待った待った。ちょっと黙りな!勝手に口開くんじゃないよ!」
客じゃないと分かった途端、口調が荒くなり持っていた扇子をエアリスへ突き出すマムさん。
とんでもなく怖い。
もうこんな街早く出たいです。
「ったく、また変なの来たわ〜。ちょっとばかし若いからって許されるとでも思ってるのかね。で、何だって、頼み?あのね、御三方。うちは手揉み屋。揉んでなんぼの店なの!客として来た訳じゃないだぁ?・・・てめぇら!頼み事があるなら、まず客として揉まれるのが筋じゃねぇのか?あぁん?」
マムさんが激昂しながらクラウドに詰め寄った後、少し距離をとって持っていた扇子でクラウドの顎をクイと上げる。
「あんた、名前は」
「クラウド・ストライフ」
「手を出しな」
「え?」
「早くしな!」
なんでだ、とでも言いたげなクラウドは取り敢えずマムさんに手を差し出す。
マムさんはその手を親指で力強く押していく。
「戦う男の力強い・・・それでいて、しなやかな手」
マムさんは艶目かしい口調でそう言った後、クラウドの手をするりと撫でた。
なんか、厭らしいんですけど。
「いいわ、クラウド。あんたが誠意を見せなさい。話は・・・それから。さぁどのコースにするんだい?コースは、まず極上の揉みが3000ギル、普通の揉みが1000ギル、ごぶごぶ揉みが100ギルだよ」
「・・・極上の揉みで頼む」
プライドなのか一番高いコースを頼むクラウドに所持金が心配になったけど、まぁクラウドにはいつも頼りっぱなしなので癒されてもらおう。
「じゃあ奥の部屋までいらっしゃい」
高いコースで上機嫌になったマムさんがクラウドを奥の部屋へ連れて行く。
「やっと、名前と二人きりになれた。ずっと聞きたいこと、話したいこと、あったの」
そう言ってエアリスは一息ついて椅子に腰を下ろした。
「話したいことって、何?」
「単刀直入に、聞くね。名前はクラウドのこと、好き?」
「え」
エアリスが突然、そして本当に単刀直入に聞いてしまうので、うろたえてしまう。
「その反応が、答えだね」
「す、好きじゃないよ。クラウドは弟みたいな感じだから、そんなんじゃない」
「どうしてそんなに否定、するの?隠さなくたっていいのに。誰かに言おう、って訳じゃないよ?」
私の否定もお見通しなのか、エアリスは、話してくれたっていいのに、と少し悲しそうな顔をする。
私はエアリスのこの顔に弱いのか、観念したように本心を告げる。
「ごめん、でもね・・・好きだけど、無理なんだ」
「なんで無理なの?告白したわけじゃ、ないんだよね?」
「クラウドには、ティファがいるからさ」
私は下を向いたまま話し続ける。
誓ったんだ、今以上を望んだりしないって。
我儘って分かっているけど、今以下にもなりたくないの。
「ティファはクラウドのことが好きなの?それとも、クラウドがティファのことが好きなの?」
「ティファの口からは聞いたことない。クラウドは・・・名前が言うならそうなのかもしれないなって言ってた」
「なーんだ」
割と真剣な話をしていた筈だったが、エアリスに一言で一蹴されてしまった。
「何も分かってないのに、悩んでるの?」
「でも、ティファがクラウドのことを大事にしているのは言わなくても分かるよ。ティファからクラウドを奪うなんて・・・そんなことできない」
「恋愛じゃない大事って感情だって、あるんじゃないかな。名前はどう?私の事、大事って思ってくれてる?」
「もちろん、大事だよ」
「うん、嬉しい!つまり恋愛感情だけじゃないってこと。名前は恋愛に囚われすぎだよ、昔何かあったの、かな?」
エアリスの言葉で嫌でも思い出してしまう、昔の恋人達。
『名前、好きだよ』
『一生一緒だよ』
口ではそう言っていたって、いつの間にか向こうから離れていく。
いつしか自信をなくしてしまった自分。
「名前って全然そう見えないのに、恋愛脳なんだね〜」
「エ、エアリス!」
「自分が幸せになろうとしたって、いいんじゃないかなぁ。私は名前に幸せになって欲しいよ」
恋愛脳なんてとんでもない、とエアリスと否定しようとして開いた口がエアリスの言葉で塞がってしまう。
「だったらティファに言えばいいのに。もしティファがクラウドのこと好きだとして、名前も好きって知ったら駄目になるような関係なの?名前とティファは」
「それは、ない・・・。大事な仲間だよ」
「じゃあ、そうしよう!うん、解決!」
エアリスはそう言って立ちあがり、何かあったら、すぐ相談してね〜と私に向かって微笑む。
明るくて前向きな彼女の言葉に、自分が幸せになったっていい、その言葉にとても救われた。
だからどうする、とかではないけれど。
私の気持ちを肯定してくれたような気がして、認めてくれた気がして、とても嬉しかったの。