ウォール・マーケットに足を踏み入れるとチョコボが引いていた馬車のような乗り物が真っ先に目に入った。

これはさっきティファが乗っていたものだろうか、と眺めているとカウボーイ風の男性がチョコボを撫でている・・・運転してた人、かもしれない。

ティファの小さな情報でも欲しかった私は、すぐさまその男性に話しかけた。


「あの・・・すみません」

「いらっしゃい、チョコボかい?」

「その馬車?に乗ってたと思うんですけど、黒髪の綺麗な女性・・・知らないですか?」

「これはチョコボ車ってんだ。というより、客じゃないなら帰ってくれ・・・悪いが暇じゃないんでね」


私の問いかけをバッサリと斬られてしまう。


「俺達も暇じゃない」


クラウドが喧嘩腰で男性を引き止める。

普段ならちょっと、と制止に入るところかもしれないが、クラウドの言う通り時間がない。


「なんだ、やんのか」

「何騒いでやがる」


私達の声を聞きつけて、扉から同じ格好をした男性が扉を両手で勢いよく開けて出てきた。

雰囲気を見るからに、さっきの男性よりお偉いさん、だろうか。

そのお偉いさんは私達の顔をジロジロと観察するように見る。


「なんだ、見ねぇ顔だな」

「そのチョコボ車に乗ってた黒髪の女性を探してるんですけど」

「探してどうするつもりだ」

「ええと・・・」


助ける、とも言えず私が口籠ってしまう。

この人達もウォール・マーケットの住人なのであれば私達の目的を迂闊に話すわけにもいかない。


「この人がその子がタイプなんだって!だから・・・」


エアリスがクラウドを前にやり私に助け舟を出してくれる。

タイプというか、好きなんだけどね・・・と思ったが何も言わず相手の反応を伺う。


「兄ちゃんも好きだね〜・・・黒髪の・・・つったら、もしかしてティファちゃんか?」

「その子です!」


エアリス、ファインプレー。


「兄ちゃんも撃ち抜かれちまった口か・・・でも残念だったな。あの子は当分出てこれねぇよ」

「どういうことだ」

「あの子は特別よ・・・コルネオさんの屋敷に入ってオーディションを受けることになってる。コルネオさんが嫁を選ぶオーディションさ。ティファちゃんはコルネオさんの好みにドンピシャ!長年代理人をやってきた俺が言うんだから間違いないね。だから当分は屋敷から出られないってわけだ。もしかしたら一生出られないかもな」


お偉いさんの言葉に背筋が凍る。

ティファは強いし何か作戦があるだろうから大人しくお嫁さんになるなんて考えられないけど、振りだけでもありえない話・・・コルネオなんて。


「ドン・コルネオの居場所を知らないか」


クラウドはお偉いさんの言葉にも臆せず強気の姿勢を崩さない。

そりゃそうだ、あんな奴に仮にでもティファをやれるわけがない。


「おい、なんだ?やっぱり面倒を起こそうってハラか?起こすなら勝手にやってくれ・・・俺を巻き込むな、帰れ帰れ」


お偉いさんは手をヒラヒラさせながら扉の向こうへと戻っていってしまった。

これ以上の情報を得るのは難しいかもしれないけど、取り敢えず少しでも足取りを掴むことができた。


「とにかく街の中、探してみよ」


どうしようか、と考え込んでいるクラウドにエアリスが声をかけ、私達は歩き出す。


「いかなる者も拒まず数多の快楽が溢れる街ウォールマーケット!もちろんカップルも大歓迎!一緒に遊ぶもよし、別々に遊ぶもよし、働くもよし!さてさて、お客さんは〜?」

「あの、コルネオがいる所ってどこか知ってますか」


私は案内人の説明を完全に無視して質問をぶつけた。


「ん?お客さん、この街始めて?コルネオさんならお屋敷にいるはずだよ〜!石の階段を登った奥にある。でも立ち入り禁止だから入っちゃだめだよ〜!」


案内人が指差す先にはスラムに似つかない豪勢なお屋敷。


「コルネオさんに、何か用?」

「いや・・・どんな凄い所に住んでるのかな〜って思っただけです。ありがとうございました」


これ以上話し込んだら変な店を紹介されかねないので、そそくさとその場を離れてコルネオの屋敷を目指した。






「こ・る・ね・お。あそこだね」


エアリスの目線の先にある看板には漢字で『古留根尾』と書かれているお屋敷。

なんともセンスのない当て字。

そびえ立つお屋敷の扉を開けると、コルネオの手下か、三人の男が立っていた。

取り敢えずは話を聞かないと始まらないので、男達へ足を進めると、銀色の髪で帽子を被った男は私達を制止する。


「おい、それ以上近づくな。男に用はない」

「人を探している」

「お前ウォール・マーケットは初めてか」

「だったら、なんだ」

「屋敷は立ち入り禁止なんだ・・・特に男はな」

「はいはい!じゃあ私と、この子!」


クラウドと銀髪の男の話にエアリスが私の腕を組みつつ、割り込む。


「女の場合は、もっと面倒だ」

「でも、レズリーさん、なかなか可愛いっすよ。横の子は大人っぽいし」

「なかなか?」

「なかなか程度じゃ難しい」


私はともかくエアリスを、なかなか呼ばわりとは何様かこの男。

というより大人っぽいってオバサンってこと?

失礼すぎる。


「どうにか、ならない?」

「ここが、どういう場所なのか知ってるのか」

「レズリーさん、やっぱり可愛いっすよ!スタイルはともかく・・・横の子は綺麗だしエロいっすよ!可愛さはないけど・・・」

「クラウド、私、暴れていいかな」

「クラウド、こいつ撃っちゃっていいかな」


セクハラ発言の上に貶されては黙っていられない、死刑だ、死刑。


「はぁ・・・代理人から推薦状をもらえ。そうすればオーディションに出られる」


先ほどレズリーと呼ばれた男は、引かない私達に呆れた様子。


「代理人って?」

「ウォール・マーケットにはコルネオさんの好みを熟知した三人の代理人がいる。まずチョコボ小屋のサム。そして手揉み屋のマダム・マム。最後が蜜蜂の館のアニヤン・クーニャンだ。全員一癖も二癖もある連中だ・・・推薦状はおそらく簡単じゃあない」

「そっか。でも、うん、分かった。ありがとう」


エアリスがレズリーにお礼を言う。

レズリーは、この街の中でも割とまともな人間に見える。

なぜ、こんな所にいるのだろうか、と不思議には思ったけれど、私には関係のないことだ。

私達は大きな扉を開けて、ひとまずコルネオの屋敷を後にした。


「エアリス、本気なのか?」

「他に、方法ある?名前も一緒に行くから何かあっても大丈夫、でしょ?」

「やっぱりそうなるよね・・・まぁエアリス一人じゃ行かせられないからもちろん行くけど」


取り敢えず、作戦会議。

推薦状をもらって中に入ることができればなんとかなるはず・・・コルネオの手下だって大した敵ではないだろうし。


「話は聞かせてもらったぜ!」


・・・何やら聞き覚えのある声、振り向くと、予想通りジョニーの姿があった。

ちょっと気の毒なことをしてしまったが、元気そうで少し安心した。


「って・・・名前さんじゃあねぇか!お久しぶり!元気そうでなにより!」

「久しぶり。ジョニーも元気そうで良かったよ」

「ティファはコルネオの屋敷にいるんだな?でもってコルネオの屋敷に入るには代理人の推薦状が必要ってわけだ。いいか、ティファを助け出すのは俺だ!よぉぉぉし・・・待ってろティファァァ!今行くからなぁぁぁ!」


ジョニーは言うだけ行って走ってどこかへ行ってしまった。

相変わらず、と言うべきか。

そういえば彼はティファが好きだったなぁと思いだす。


「話、ちゃんと聞かない人だね。でも先越されちゃったりしないかなぁ?」

「大丈夫。ジョニーには無理だと思う」


少し不安そうにしているエアリスに私は言い切った。

ただ、面倒なことになった、なぁ・・・。

恐らく行く先々で地味に邪魔になるであろうジョニーの想像をして軽く溜息をついた。

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