「クラウド?」
「・・・うん?」
「・・・大丈夫?」
エアリスの声かけにも心ここにあらずという感じで壁にもたれかかる。
「・・・ふぅ」
何、その聞いたことのない色っぽい溜息。
「クラウド・・・本当に手をマッサージされただけなんだよね?」
「あ?あぁ・・・名前」
「何か、クラウド変なんだけど、他に何かされてないよね?」
「・・・何も」
いや絶対おかしい。
「さてと、誠意は・・・しかと見せてもらったよ。頼みってやつを聞こうじゃないか」
マムさんが扇子で自身を仰ぎながら満足気に私達の元へ戻ってくる。
「私達を・・・オーディションに推薦してもらえますか」
「そりゃ随分と物好きだね・・・ふ〜ん、ま!いいだろう」
「本当ですか!」
「ただし二人とも、その格好のままじゃ駄目だよ。そんな貧乏臭くて地味な格好をしちゃ女を連れてったとあっちゃあ代理人としての信用に傷がついちまうからね」
マムさんの言葉に自分の格好を改めて見る。
黒の半袖Tシャツと動きやすくするためにスリットは入れているが黒のロングスカート。
お世辞でも華やかとは言えない格好の上に銃まで背負っている。
確かにティファはセクシーなドレスを着ていた。
元が違うとはいえ明らかに雲泥の差。
「ねぇクラウド・・・名前の服装そんなに悪くないよね?」
唐突にクラウドがエアリスに私の話題を振るので驚いた。
こ、これで否定されたら立ち直れない。
ドキドキしながらクラウドを返答を待つ。
「俺は嫌いじゃない・・・でも明るい色も似合うんじゃないか」
「え」
クラウドの性格からすると嫌いじゃない、というのは割と気に入ってるという部類に入ると思うので安心したけれど、まさかの提案まで。
とはいえもうずっと明るい服なんて着てないし、これでいきなり服変えたりしたら何か意識してるみたいで、めちゃくちゃ恥ずかしいし、
「へぇ・・・そっちとデキてるのかい。兎に角イチャつくなら店の外でやっとくれ」
一人で頭の中でブツブツ言っているとマムさんは呆れ顔で溜息をつく。
「イ・・・イチャついてないです。でも服はどうすれば」
「心配しなさんな?あたしがコルネオのハートを射抜く服を身繕ってやるよ。払うもんさえ払えばね」
「いくらですか」
「ざっと100万」
桁違いの金額に気が遠くなりそうになる。
100万なんて持っている訳がない。
体売れとか言われないよねと焦っているとマムさんは私の心情を察したかのように補足をし始める。
「と、言ったところで、あんたらが払えないってことは百も承知さ。だから提案があるんだよ。この街には地下闘技場があってね・・・クラウド、あんた・・・あたしの推薦で出場しな。そこで優勝できたらこの子達をとびきりの美女に仕上げてやるよ」
「賞金が出るのか」
「推薦人のあたしにね・・・どうだい、乗るかい?」
「私も一緒に出れますか」
「何人いても問題ないよ・・・優勝できるのならね」
ルールは特にないのか、私が出ても問題は特にないらしい。
どんな強敵が出るのか見当もつかないけど、もうやるしかない。
「分かった」
「いい返事だ・・・コルネオ杯出場券を渡すから、これを受付で出しな。急いで闘技場へ向かうんだよ」
「受付はこちらでーす!お急ぎくださーい!」
闘技場に足を踏み入れると、案内人が大声を張り上げていた。
観客もかなりの人数がいるのだろうか、賑わっている様子。
「受付、お願いします」
「ギリギリだぞ・・・三人で出るのか?」
「いや、名前と俺の二人で・・・」
「三人でお願いします」
エアリスがクラウドの言葉を遮る。
確かに居てくれたら心強いけれど、エルミナさんのこともあるし・・・これ以上巻き込みたくない。
「エアリス、ここは私とクラウドで出るよ。いくらなんでも」
「私も推薦してもらうんでしょ?だったら私も出る権利、あるよね」
「そ、そう言われると何も言えない」
クラウドを横目で見ると、仕方ないという表情。
結局エアリスの押しに負けた私達は三人で出場することになった。
地下の控室へ迎えと言われたので、エレベーターで地下へ到着。
急げと案内人に呼ばれたので足早に向かおうとすると。控室の扉とは別の闘技場へと続くであろう大きな扉が開き、いかにも胡散臭そうな男達がアナウンスをし始める。
「眠らない都市、ミッドガル!」
「中でもひときわ輝く綺羅星、ウォール・マーケット!」
「あなたの欲望を受け入れ叶える街、ウォール・マーケット!」
「数多の誘惑に目移りすることなく集いし皆様、ようこそお越しいただきました!」
「ご安心ください。今宵、世界で最も熱い場所はウォール・マーケットのまさに今、ここ!」
ド派手なアナウンス、盛り上がる観客。
想像は、していたけれど思ったより見世物にされる雰囲気。
「・・・まともに戦えるのかな」
控室に入って戦いの準備をしている途中でポツリと本音が口から漏れる。
見た感じ、ルールなんてあってないような感じに違いない。
「勝てばいい話だ。負けるつもりはない。名前がそれなりに強いことは俺が一番よく知っている」
「それなりでも光栄です」
今の一言で、ちょっとやる気出たしね。
「名前、頑張ろうねっ!」
エアリス何か私以上にやる気マンマンですごく楽しそう。
ティファを助けるためには、ここを勝ち抜くしかないんだ。
弾をリロードしていると、出番だ、と声を掛けられて大きな扉の前に立つ。
せいぜい死なねぇようにな、と皮肉をふっかけられて、誰がここで死ぬかと横目で睨むと、扉の向こうでアナウンスが聞こえ始める。
「さて、次はなんと男一人に女二人で両手に花の三人組が出場だ!」
「なんたる場違い!」
「しかも初参戦!」
「いけすかない!」
「観光気分の三人組は果たして無事に帰れるのか!」
「一体どういう関係なんだ!」
「クラウド&名前&エアリスの入場です!」
「お前等どういう関係だよ!」
「おい男!一人よこせ!」
扉が開き、取り敢えず歩みを進めると聞こえてくる野次の言葉。
「名前!何か・・・燃えてきた!」
「・・・そうだね」
「名前、目、怖いよ」
静かに闘志を燃やしているとエアリスに怖いとツッコまれてしまった。
馬鹿にされると燃えて来る性分なのである。
何やら相手は猛獣使いで猛獣も参加者に含まれるらしく、やっぱりこうなるのか、と思いながら対して強い奴でもなかったので数分で片付いた。
まさかの結果に盛り上がる観客達。
それからも、どこかで見たことある盗賊達八人組、まさかの大型の戦闘機械二体も難なく倒し、あっさりと優勝。
段々と白熱する観客達の歓声は私達に対して肯定的な物へと変わっていき、終いには、俺のハートを撃ち抜いてくれとか言われた。
もちろんクラウドやエアリスへも向けられる黄色い声援。
私達が盛大に盛り上げてしまったおかげで賭け金が膨れ上がり、もう一試合やることになったと告げられ、マムさんに文句の一つでも言おうとしたが放送禁止用語を連発しながらコルネオに激怒するマムさんに私達は何も言えず・・・怖すぎた。
次は、どんなとんでもない敵が出て来るんだ・・・と構えていると地下闘技場の更に地下から出て来たのは家。
・・・家?
「家!?」
「ただの家じゃなさそうだ」
確かに、ただの家ではなかった。
爆弾は飛ばしてくるし、攻撃が一切効かない時もあったけれど、最後はクラウドの一撃で何とか倒すことに成功。
「勝った・・・」
「やったね」
「あぁ」
私達は三人で両手で輪を作るようにハイタッチ。
エアリスは、きゃっきゃとはしゃいでいる。
クラウドに視線をやると、目が合った。
「私も・・・結構頼れる存在になってきた?」
「・・・それなりにな」
またそれ?とは思ったけれど、そう言って穏やかに微笑むクラウドは、とても格好良かった。
惚れ直しちゃうなぁなんて思っていたら、ふと気付いた。
クラウド君、ハイタッチ自然にできたね。