「・・・あぁ」
落ち着きを取り戻した私は、クラウドからゆっくり離れる。
「そろそろ、行かなきゃ・・・ゆっくり休めなくてごめんね」
「・・・いや」
クラウドの顔を見ることに少し恥ずかしさを感じながらも立ちあがり、部屋から出ていく準備を始める。
ゆっくりと扉を開けて物音を立てないように、クラウドとゆっくりと階段を下りていく。
「行くのかい」
椅子に腰掛けたエルミナさんが私達を見つめ、問う。
「はい。色々とお世話になりました」
「・・・気をつけるんだよ。エアリスと仲良くしてくれたのに悪いね」
「いえ・・・少しの間だけでも、楽しかったですから」
もうエアリスとは会えなくなってしまうんだろうか。
「七番街へ行くにはどうすればいい」
「六番街を抜ければいいのさ、簡単だろ。途中に危ないところもあるけど、ソルジャーなら問題ないよ」
「・・・元な」
「あの子にはもう、関わらないでくれるね」
「・・・わかった」
「ありがとう」
「エルミナさん、お世話になりました」
「・・・すまないね」
エルミナさんに最後言葉をかけると、眉を下げて謝罪の言葉を述べた。
私達は静かにドアを開けて夜の道を急いだ。
六番街へと向かおうとすると、洞窟の岩からヒラリと見えるピンク色のスカート。
私が声を発するより先に、聞き覚えのあるかわいらしい声が聞こえた。
「あれ?これは偶然ですなぁ」
エアリスが腰に手を当てて、私達の道を塞いだ。
「エアリス・・・!」
「どういうつもりだ」
「待ち伏せ?」
「どうして」
クラウドは少し諦めを含んだ口調で言った。
エルミナさんにごめんなさいと思いながらエアリスがここに居てくれることが嬉しかった。
「もっと、二人と一緒にいたいから」
「エアリス・・・」
「・・・道案内を頼む」
感動に包まれているとクラウドは完全に折れたご様子。
私は鼻歌を歌いながら進むエアリスの肩をポンと叩いた。
「エアリス・・・もう会えないと思ってたから嬉しい」
「そんなわけ、ない!名前に聞きたいこともあったしね。・・・クラウドとは仲直り、できた?」
エアリスはニヤニヤしながら片手を口元に当てて私を見る。
仲直り・・・昨日の晩。
思い出して顔から火が出そうになる感覚。
エアリスの質問に何も答えられない私。
「あれ、あれれ〜?何があったのかな〜?」
私の反応を見てより一層楽しそうに距離を詰めて来るエアリス。
好きになってしまった上に抱き締めてほしいってお願いしたなんて絶対、言えない・・・!
「な、仲直りできました」
「ふ〜ん?なら、いいけど!」
「・・・うっ」
仲直り?はできたから嘘はついてない、嘘はついてない。と自分に言いきかしていると少し後ろにいたクラウドから聞き覚えのある呻き声が聞こえた。
「クラウド!?」
クラウドはまた頭を押さえている。
最近、よくあるけどやはり心配せずにはいられず、クラウドのもとに駆け寄る。
顔を覗くと、クラウドの目から流れる一筋の涙。
・・・泣いてる?
驚いているとクラウドが目が覚ましたように顔を上げる。
「クラウド?」
エアリスは不思議に思ったのか、こちらを振り向き、声をかける。
「どうしたの?」
「・・・なんでもない」
クラウドは、何を思って泣いたの?
「空が見えるな」
道中、クラウドはそう言いながら空を見上げる。
「上、工事中だからね。すこし、怖いね。ミッドガルを建設してる時プレートが落ちたんだって。まだ人が住み始める前で大事にはならなかったんだけど」
「・・・星、綺麗だね」
「名前もそう思う?私も、好きなんだ」
犠牲の上に生まれた星空だけれど、とても綺麗だった。
空を見上げること自体、久しぶりな気がする。
「あれは?」
クラウドが見つめる先にはスラムの街並みにそぐわない光輝くウォール・マーケットの姿があった。
「ウォール・マーケット・・・六番街のスラムは特別な場所なの。クラウド、六番街のスラムのこと知ってる?」
「話さなかったか?故郷を出てそのまま新羅に入った。六番街どころかスラムはあまり知らない」
「名前は知ってる?よね」
「・・・うん。良いイメージはないけどね」
治安も悪いし、行きたいと思ったことはなかった。
まぁ行く用もないけれど。
エアリスは私の言葉に、そうだよねと返して話を続けた。
「昔、ミッドガルを作るため・・・人、大勢集まって。その人達あてにして宿泊所、お店、いっぱいできたの。そこで働く人も集まってきて、お金、いっぱい動くようになって、そしたら、そのお金狙って悪い人、集まって・・・」
「無法地帯か」
「そう。だから、いかがわしい場所広がらないように壁で囲んだの。それがウォール・マーケットの始まり。壁の中だけならルール違反は目をつぶる。そうやって治安守ったって」
「あの壁がそうだな?」
「うん。クラウド、寄ってみたい?」
「興味ないね」
興味あったらびっくりするけど・・・。
あそこ、抜けないと帰れないのかな、嫌だなぁと少し肩を落としているとエアリスが私とクラウドの腕を引っ張った。
「良かった。七番街への近道はこっちなの!普通はウォール・マーケット通って行くんだけど私のお勧めはこっち。子どもの頃から、こっそり使ってるんだ」
「はぁ・・・良かった。ウォール・マーケット苦手なんだよね」
私の言葉にエアリスはうんうんと腕を組みながら言う。
「普通の女の子はみんなそうだよ。こっちだから、行こ!」
トンネルを抜けながらガレキの下を進むと、陥没した道路に出た。
これは落ちてきたプレート、だろうか、そのまま放置されている。
エアリスのお勧めの道がこんな危ない道だなんて・・・エルミナさんも苦労人だ。
「ここを通るの?」
「楽しそうでしょ」
エアリスは探検に出かける子どもみたいな少しやんちゃそうな笑顔で私に笑いかけた。
「うそ、梯子、引き上げられてる!」
モンスターを倒しつつ進んでいると、次に進む道が閉ざされている様子。
エアリスが何かないかと辺りを見回し、行きついた視線の先には大きなアーム。
「この子、使えないかな?クラウド、アーム動かせる?」
「・・・やってみよう」
「名前は私と一緒、こっち。クラウドに動かしてもらったアームに乗って向こうまで行って、梯子降ろそう」
「その手があったか・・・」
エアリス、頭回る。
大きな音を立てながらクラウドがアームを私達の横まで持ってきて、よじ登る。
無事アームが向こうまで渡って、アームから降り私達は梯子を降ろしてクラウドが登ってくるのを待った。
「やったね!」
エアリスが両手を上げて私の方を向いたので、そのままハイタッチ。
満足気なエアリスは次はクラウドに向かってハイタッチのポーズ。
しかし、クラウドは少し戸惑いながら、両手は下に降りたまま。
「あれ?うん、よし!この調子で頑張ろう!」
エアリスは、あまり気にすることもなく先へ進んだ。
・・・ハイタッチぐらい、したらいいのに。
でも私はエアリスみたいに、クラウドにぐいぐい行きたいなぁと思いながらも無理な話なので、可愛いクラウドを代わりに見せてくれたエアリスに心の中で感謝した。
昨日あんなこと言った私にはきっと何かが乗り移ってたんだ。
うん、きっとそう。
あ、後、久々に感じた感情。
ちょっと格好悪いけど可愛いと思ってしまうこの感情。
これが惚れた弱み、ってやつ。