相変わらず私達はガレキの中を進んでいく。

ボロボロの扉を見つけて、恐る恐る開く。


「こんばんは〜」


人が誰かいてもおかしくないような空間。

エアリスが声をかけるが声が帰ってくる様子はない。

誰もいないのか、と安心した矢先に割と新しい焚火の後を見つけた。

・・・隠れてる?


「私達もキャンプしていく?」

「あ〜いいね・・・バーベキューとかしたいなぁ」

「それいい〜!名前、名案!」


楽しそうに会話する私達をクラウドに何言ってるんだこいつら、とも言わんばかりの目で見られた。


「そんな時間はない、それに・・・」

「おい、見ろよ!泥棒がいるぞ」


その声に振り向くと明らかに盗賊ですと言わんばかりの格好をした三人組の姿。

こんな分かりやすい盗賊、いるんだ。


「あーあー人ん家を荒らしやがって!」

「こりゃあ弁償してもらわねぇとな!」

「ひひひ!弁償、弁償・・・?弁償ってなんだ!」

「馬〜鹿!お前は本当何にも知らねぇなぁ」

「弁償ってのはな!その・・・あれだ・・・なあ!」

「えっ!・・・おお!弁償ってのは、その、あれだ!」


コントみたいだったので、しばらく黙って見ていようかなと思ったけど、見ていられなくなったのかクラウドが口を挟む。


「俺達は何もしていない」

「うん、通ろうとしただけ」

「何も盗るつもりないから、先に進ませてくれない?」


続いてエアリスと私も口を挟む。

こんな、いかにも貧乏臭い盗賊から盗むものなんて何もない、と思ったけど、これを言うとまた話が長くなりそうなので言わないでおくことにした。


「あぁん?信じられねぇな」

「じゃあ、どうすればいいの?」



エアリスは首をかしげた。


「身ぐるみ全部置いていってもらおうか!」

「ひひひ!身ぐるみ?身ぐるみ?身ぐるみってなんだ?」

「馬鹿、身ぐるみってのはな、その、あれだよ・・・」

「あの、もういいから通してください」


私が耐えられずに言うと、クラウドが大剣に手をかけた。

うるさいから黙らせるってことで、ごめんなさい。


「ぎゃあ!」

「ぐえっ!」

「やられたぁ!」


三対三の公平な勝負。

強さはお手の物かと思って挑んだが、私達が一発ずつ攻撃をしかけた後、全員倒れ込んだ。

・・・予想通り。

そのまま放置すると聞こえてくる、ひそひそ声。


「いいか、お前ら動くなよ」

「死んだふり、死んだふり」

「バレてない、バレてない」


聞こえてるけどなぁ・・・と思いつつ、構っている暇はないので私達は歩みを進めた。


「・・・エアリス、今時あんなのいるんだね」

「ウォールマーケットが近いからね、その影響かなぁ」

「恐るべし、無法地帯・・・」

「やっぱり行かなくてよかった、あ、そういえばクラウドって、どうしてソルジャーやめたの?」


唐突すぎるエアリスの質問。

私が気になってはいたけど、聞けなかったこと。


「いきなりだな」


クラウドは質問に驚きながらも前を見て進んだまま返事をした。


「言いたくないならいいけど・・・ソルジャーの時、仲良い人とかいた?」

「いや、いなかった」

「そっか」


エアリスは少し残念そうに、呟いた。

やっぱり、エアリスは何か過去にソルジャーと関わりがあったのだろうか。


「あ!あれ、見て」


いつか聞かせてくれればいいなぁ、と考えていた矢先に、エアリスが指差す先にある、またもや引き上げられている梯子。


「どうして意地悪するかなぁ・・・また腕の見せ所だね」


呆れて溜息を吐いたエアリスはクラウドの方へ振り向き、言った。


「人使いが荒い」


クラウドは、口でそう言っても頼られてるのが嬉しいのか、アームの操作をしてくれた。

私達は無事梯子を下に降ろして、三人合流成功。


「うまくいったね!」


エアリスの言葉にクラウドはハイタッチをしようと思ったのか、腕を動かすが、両手でグーを作って、よしと言うポーズをするエアリス。

クラウド・・・残念。


「あっ・・・」


クラウドはそう言って、きまずそうに顔を反対側に向け、行き場をなくしたように手を降ろした。


「うん?クラウド、今・・・」

「やろうとした、よね?」

「・・・急ぐぞ」


詰め寄る私とエアリスを軽く無視して、歩き始めたクラウド。

私達は顔を見合わせて笑ってから、クラウドを更に詰める。


「クラウド、次は合わせるからね!」

「クラウド君、かわいいね〜」

「何の話だ」

「ごめん〜」

「怒らないでね〜」


かわいいなぁ〜母性くすぐられるなぁ〜。と思っていながら、しゃがみながら木の壁をくぐり抜けると、ようやく空が見えた。

エアリスは小走りをして私達の前に立つと、片手を上げる。


「じゃあ、はい!」


ハイタッチを求めるエアリス。

どうする?どうする?と横目でクラウドを見ていると、一度迷ったように下を向いたが、ゆっくり、ゆっくり手を上げた。

パンッとエアリスとクラウドの手袋をした手が合わせる音が聞こえた。


「名前も!名前も!」

「もちろん!」


私とエアリスもハイタッチ。

エアリスは満足した表情をしながら、私とクラウドを交互に見た。


「名前とクラウドも、ハイタッチ、だよ」

「え?あ、うん」


エアリスの言葉に私は片手を上げてからクラウドを見て、驚いた。

クラウドの顔が赤い。


「クラウド、何そんな顔、赤いの?やっぱり昨日何か、あったでしょ!」


エアリスの言葉に昨日クラウドと抱き締めあったことを思い出して、顔が熱くなるのを感じた。


「ク・・・クラウド、ほら早くっ」

「あ・・・あぁ」


赤くなっているのに気付かれないよう、クラウドを急かしてハイタッチ。

なんだか、触れ合った手も熱い、ような気がする。


「あっ!公園」


私は、話をすり替えようと目の前の光景を話題にしながら歩き出す。


「うん。向こうに見えるのが七番街スラムへ抜けるゲート」


厳重にされているのか、かなり大きく分厚いゲートが目に入った。


「閉まってるな、開くのか?」

「・・・ね、少し座って話さない?」


クラウドの質問をスルーし言うエアリス。


時間を気にするクラウドの言葉も華麗にスルーして、こっち、と滑り台の上にエアリスは座った。


「はぁ」

「まぁまぁクラウド。もう少しぐらい、ゆっくりしよう」

「仕方ない」


私達は遊具を登り、座る。

遊具で遊んだなのなんて10年以上ぶりだなぁ。


「昔、ここでお花を売ったこと、あるんだ。クラウドって・・・クラス1st、だったんだよね?」

「あぁ。それがどうかしたのか?」

「ううん。同じだと思って」

「同じ?・・・誰と」

「初めて、好きになった人」

「聞きたいなぁ、その話」


エアリスの好きな人はソルジャーだったんだ。

だからか・・・と今まで不思議に思っていたことも納得がいった。

でも、それだけでエルミナさんがエアリスからソルジャーを遠ざける理由にはならない。

エアリスは、その彼に傷つけられてしまったんだろうか。

ただ単純にエアリスの恋愛話を聞きたかった私の質問に、エアリスは微笑んだ。


「やっぱり女の子のは恋愛話、好きだよね、私もだけど」

「名前は?多分、知ってる」

「・・・ザックス」


そう言うと同時にクラウドが頭に手を当てて苦しそうに目を閉じた。


「クラウド?」

「・・・大丈夫?やっぱり綺麗だね、クラウドの瞳」


クラウドは落ち着きを取り戻した様子でエアリスに答える。


「あぁ・・・魔晄を浴びた者の瞳、ソルジャーの証だ」

「・・・うん、知ってる。ごめんね、こんな話」


ザックス・・・どこかで、聞いたことのある名前。

でも、なんだったっけ?思い、出せない。

でもエアリスが、余りにも寂しそうな、悲しそうな顔をするから、深く突っ込もうとした自分に後悔して、もうそれ以上は何も聞かなかった。


「ごめんね、こんな話。もう、行こっか・・・前、見なくちゃね」


そう言って遊具から降りたエアリスは違う遊具の前に立って私達を手招きしている。


「ここ!」

「ここが、どうしたの?エアリス」

「ふふ、ちょっと待ってて」


私の言葉にエアリスは遊具の下に潜り込んでいった。


「見て!隠し通路!七番街スラムまで繋がってるの」


遊具から出てきた、スカートについた汚れをパンパンと払うエアリス。

ここで、お別れかぁ・・・寂しい。

でも、これ以上エアリスを危険な目に合わせる訳にはいかないから、仕方ない・・・だから、


「「「じゃあ」」」


私達三人の声が重なった。

何だこれ、みんな同じこと考えたのかな?と笑ってしまう。


「ふふ、どうぞ」

「エアリス、帰りは・・・気をつけてね?」

「大丈夫じゃない、って言ったら?」

「家まで送ろう」


クラウドが来た道を戻ろうとする。

律義というか、変に真面目なクラウド。

それじゃあ一生行ったりきたりだよ。


「それって変じゃない?ふふ、大丈夫。実は、もっと安全な近道があったりして!それじゃあ・・・もう行く?」

「あぁ」


クラウドが返事をすると音を立ててゲートが開き始め、チョコボが連れた馬車が目に入る。

乗っているのは、黒髪のロングヘアーの女性、もしかして・・・。


「クラウド!ティファが乗ってる」

「・・・行くぞ」


私とクラウドは急いで馬車に駆け寄る。

ティファは、いつもとは違った格好、露出の多いパープルのドレスを着ている。

こんな格好で、どこに・・・?


「ティファ!」

「名前、クラウド!良かった・・・無事だったんだ」

「ティファも本当に無事で、良かった・・・」


バレットに任せていたし、大丈夫だとは思っていたけれど、大事な仲間の安否を確認できて、ほっと胸を撫で下ろした。


「どうなってる?」

「・・・しっ!」


ティファは気付かれないで、と人差し指を口元に当てて、先ほどより少し小声で話を続ける。


「事情は、後で説明するね。私これからコルネオの所に行くから、名前とクラウドはアジトに戻ってバレットと合流して」

「コルネオ・・・?ティファ、危険すぎるよ!」


ウォール・マーケットのドンであるコルネオに、こんな格好で行くなんて放っておける訳がない。


「こっちは大丈夫。私の蹴り、見たでしょ?」

「で・・・でも・・・」


ティファは私を安心させるために優しく宥めてくれるけど、なかなか後に引けない。


「気付かれちゃう。名前まで犠牲にする必要ないよ、ね」


ティファはそう言いながら微笑んでカーテンを閉めた。

助けたいけど、これが大事な作戦だとしたら・・・返って邪魔をしてしまうかもしれない。

うじうじ悩んでいると、いつの間にか横で腰に手を当てているエアリスがいた。


「ダメ!ティファが最優先!」

「・・・ティファはその辺りの男よりずっと強い」

「コルネオはヘビみたいな男・・・どんなに強い女の子でもジワジワと締め付けて心をポキンと折っちゃうの!ティファが行ったのは、そんな人と大勢の手下がいる場所・・・ね、クラウド、名前。仲間なんでしょ?助けてあげなくちゃ!」

「エアリス・・・私、行く!」


同じ女としてもティファを見捨てることなんてできない。


「そうこなくっちゃ」


エアリスは私にウインクしてからクラウドの手を引っ張りつつ、急ごうと走り出す。

欲望渦巻く夜の街へ、いざ。

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