「るいちゃんよォ。そろそろ機嫌治しなさいよ」
「…別にー」
「別にって顔じゃないですよ」
「別にって顔だしー」
「美人が勿体ないぞ」
「可愛いの方が嬉しいし」


昨日からおサノの機嫌がすこぶる悪い。どうやら名字とくだらないことで喧嘩をしたらしい。
さっさと仲直りをすればいいものを、お互い意地になってるようで状況は昨日から一切変わらず。なんならそのせいでおサノの機嫌は急降下。ったく、世話の焼ける奴らだな。


「因みになんで喧嘩したんだよ」
「…なまえがわるいもん」
「ぅおお?!泣かなくたっていーだろ?!」
「ちょっと諏訪さん!おサノ先輩泣かさないでくださいよ!」
「すわさんのばかぁあ」
「俺が悪いのかよ?!」


何があったか聞いただけでこのザマだ。もうお手上げ。俺に出来ることは何もありません。
ティッシュを数枚抜き取って、ぐずぐずとうるせぇおサノの鼻に押し付ける。潤んだ瞳で生意気にもこちらを睨んできたが 大人しく鼻をかんだのでまあ許してやろう。はーめんどくせえ


「諏訪さん、顔なんとかしてくださいよ」
「あ?なんとかってなんだよ」
「泣いてる女子高生の鼻水含んだティッシュ持って、お父さんみたいな顔しないでください」
「はぁ?!!」


違ぇだろ!鼻水ティッシュ持ってんのはおサノが鼻をかんだからで!俺はそういう趣味なんか塵ほど持ってねぇわ!つーかお父さんってなんだお父さんって!俺まだ21だぞ!


「まあ、おサノに喧嘩できるような友達がいることを嬉しいと思う気持ちは分かりますけどね」


オレ達も歳ですねぇ。と困ったように、それでも嬉しそうに溜息をひとつ吐いた堤の言葉は図星すぎて。何も言い返せないせめてもの抵抗に咥えていた煙草のフィルターを噛み潰した。


面がいい人間ってのは、いい意味でも悪い意味でも人目を引く。特に女の世界はめんどくせぇから僻みとか妬みとか、そういうのもあるんだろう。

おサノは美人だ。しかもただの美人じゃねぇ、とびきり美人だ。そんでもってこいつは可哀想なことに、賢い女だ。
自分が周りからどういう風に見られているか。自分の行いが周りにどういう影響を与えるか。それをよく分かってる。故におサノは人と壁を作るくせがあった。

そんなおサノが、友達と喧嘩をして、ぐずぐずに涙と鼻水を垂れ流している。

あぁ認めるよ。嬉しいに決まってんだろ。俺の可愛い部下に心を開ける友達が出来たんだ。世話焼いてやりてぇに決まってんだろ。


「おいこらおサノ 」
「…なに」
「俺も一緒に謝りに行ってやる」
「……なまえ、許してくれる?」


不安そうに俺を見上げるおサノの顔は思った以上に不細工で、思わず大声で笑ってしまった。
オサノお前 そんな顔も出来たんだなぁ。大事にしろよ。友達ってのは口うるせーしウゼーし鬱陶しいしけど、一生モンだからな


「おう。絶対に大丈夫だ」


それが親友ってもんですよ。


マエ モドル ツギ

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