諏訪隊との初めての合同任務は、正直言って、めちゃくちゃ大変だった。

私は今まで荒船隊としか合同任務をした事がない。理詰めで計画的な荒船隊と、直感!本能!ギャンブル!な諏訪隊は真逆すぎた。ならば私も直感で!と思ったら突然驚く程計算された連携を魅せてくる。待ってついていけない待って!!と何度か叫びそうになってしまった。

今日程自分のサイドエフェクトに感謝したことはない。本当に 私はとてもよくやった。
諏訪隊のみんなにも「初めてでここまで連携出来たのはマジですげぇ」と4方向から身体を撫でられた。だから多いんだって。くすぐったいんだってば!


「気が向いたら遊びに来い。なんなら諏訪隊に入ってもいいぜ」


作戦室から出る時に諏訪さんに言われた、最高の褒め言葉。嬉しすぎてつい抱きついたら「愛いの〜」とおサノに言われ、また4方向から撫で回された。だから多いんだって!嫌いじゃないけど!!
ふんふん、鼻歌を歌いながら歩く。師匠はいるだろうか。今日の事を話して褒めてもらいたい。


「おい」


なんて褒めてくれるかな。よくやった?さすが俺の弟子だ?加賀美先輩は凄いじゃない!と言ってくれるだろうしポカリ先輩もやるじゃない!と女性になって褒めてくれるだろう。半崎くんはアイスを分けてくれるかもしれない。荒船隊 いるかな。いてほしいな。


「おい」
「うぎゃあ!」


機嫌よく歩いていたら突然背後から肩を掴まれた。低い声、高いところから聞こえる、男の人だ。振動の数値からするに恐らく身長180cm越えの超大型巨人。怖い。怖すぎる。振り返りたくない。


「名字」
「…ふぁい、名字です…誰ですか」
「…なんでこっちを向かねぇ」
「し、知らない人に突然背後から肩を掴まれたらまず名前を聞けっておばあちゃんが言ってました」


嘘だ。そんな突然背後から肩を掴まれたらなんてピンポイントな注意を受けたことはない。私のおばあちゃんは床に零れたお茶を履いている靴下で拭くくらい大雑把で逞しいな女だ。
どうか私の肩を掴んだこの男が三輪くらい信じやすい馬鹿でありますように。それはないか。だって無言だもん。私のことを馬鹿だと思ってるに違いない。


「そうか。二宮匡貴だ。」


……… 馬鹿の人だった。

というか、え?


「今なんと?」
「二宮匡貴だ。こっち向け」


に、二宮匡貴と仰いましたか?嘘だろ?冷静沈着、クールでちょーイケメンでNo.1射手の二宮匡貴が、こんなテキトーな嘘を信じるとは思えない。なんてつまらない嘘をつく男なんだ。二宮匡貴に憧れているにしては顔面偏差値が低すぎますよ、と鼻で笑ってやろう。そう思って振り返る、と。


「ほ、んとに、二宮匡貴じゃん」
「だからそう言ってんだろうが」


本当に二宮匡貴だった。色々思うところはあるが待って、すっげえイケメンなんだけど…これは後光?あっ違うわ、背が高いから照明が逆光になってて…いや後光でいいわ。二宮匡貴の背後の逆光は後光と読むことにする。


「何してんだ」
「え、と、任務終わりで」
「どことだ」
「今日は、諏訪隊と、頑張った」
「そうか」


こ、怖い…。全然会話が続かない、そうかって何?何が言いたいの、なんの用があって私を引き止めたの?そう思っていると、ついてこい。と言われて二宮匡貴はスタスタと歩いていってしまった。え、ちょ、待って、歩くの早い!腹立つくらい足が長ぇ!


「飲め」
「はい」


駆け足で着いて行って辿り着いたのはラウンジ。自販機で買ったりんごジュースを渡されて強制的に飲まされる。とりあえず落ち着こう。私は今世紀最大にパニックだ。


「のんだ」
「座れよ」
「すわる」


貰ったりんごジュースを半分くらい一気に飲んで見せると次は椅子に座らされた。なんだ。私は何をさせられているんだ。一旦落ち着いたと思ったらその倍のパニックを押し付けられてしまう。多分私は今夜お布団の中に妖精さんがいても驚かない。


「ボーダーには慣れたか」
「なれてきた」
「師は」
「あらふねせんぱい」
「あいつか。悪くねえ判断だ。ポイントは」
「ごせんごひゃくいかないくらい」
「低いな」
「まだB級あがってひと月くらいしかたってないから」
「そうか」


とりあえず投げかけられた質問に全て答える。また そうか。で会話が途切れた。無言。時間にして3秒くらい。でも私的には80年くらいに感じた。耐えられない。会話をしなければこのまま寿命が尽きてしまう。


「…私から質問」
「好きにしろ」
「はじめまして?」
「本気で言ってんのか」
「ごめんなさい!!!」


ぎろり、目付きが怖すぎて思わず飛びあがるように立ち上がる。と、逃走経路!逃走経路を確保しなければ!


「…本屋で働いていただろ」
「え、あ、はい、ボーダーに入る前に」
「5月の終わり。22時半頃。喫煙所」
「ふぇ?」


5月の終わり、22時半頃、喫煙所。
会話の流れ的に元バイト先の喫煙所の事だろう。ビデオレンタルができる全国店の本屋さん。あそこは喫煙所、というか灰皿が一つだけ外に設置してあって。それは従業員専用の出入口の近くだった。
22時半頃っていったら、バイトが終わって帰る時間。22時半には建物から出ないと怒られていたから。
5月の終わり。私がバイトを辞めようと考えていた時くらいか?理由はボーダーに入隊しようとしていたか、ら


「あ」
「思い出したか」
「思い出した」




5月の終わり、店長にバイトを辞めることを伝えた。理由はボーダーに入りたいから。店長は危険だと止めてくれた。けど私は聞かなかった。店長は最終的に頑張れと応援してくれた。ただの仕事仲間なのに愛されていたのが分かってちょっとだけ泣いた。
時計を見たら22時29分。やばい。急いで建物から出なければ店長が捕まってしまう。店長に頭を下げて鞄を掴んで外に飛び出す。外に出りゃこっちのもんだ。かかってきやがれお巡りさん共め。

ズッ、と鼻を啜ると煙草の匂い。今は誰も休憩に入っていないはず。お客様だろうか。激しい音を立ててしまったのでびっくりしてしまったかもしれない。ごめんねお客様。全ては母のように優しい店長が悪いのです。
そろりそろり、音を立てないように歩く。お客様がどうかこっちを見ていませんように。そう思いながら、ちらりと煙草を吸っているお客様を見る。


「、」


いっっけめーん、すっげぇイケメンだ。

恐ろしい程に綺麗な横顔、背が高くて深い紺色のシャツが最強オブ最強に似合う。絵になる、イケメン過ぎてなんか引く。

イケメンはこっちを気にしていなかった様だけど流石に音は聞こえただろう。イケメンにこんな餓鬼があんなクソでかい音立てやがったのか。とか思われたくない。せめてちょっとだけでも身なりを整えなければ。
サササ、とスカートと髪の毛を整えてから一歩踏み出す。その時だった。
ぐわん、と 数字が揺れた。


「え?…ちょっ、え?!!」


イケメンがふらついている。どうした、貧血か?!!もしかして初めての煙草だったのか?!!気分が悪くなっちゃったのか?!!
とりあえず倒れるイケメンに全力で腕を伸ばして受け止める。背が高いから重い。一緒に倒れるように尻もちをついた。


「だ、大丈夫ですか?息してる?死んでる?」
「、うるせえ」
「あ、ごめんなさい生きてた良かった死んだかと思った」


腕の中で小さく唸る声がする。やばい、咄嗟のことで力加減を間違えて締め付けてしまったのかもしれない。腕の力を緩めて、イケメンの耳の当たりを撫でる。


「大丈夫?気分が悪い?」
「、平気だ」
「貧血かな、顔見てもいい?」


イケメンは素直に頭を上げてくれた。酷い顔色だ。それにくまが酷い。絶対に大丈夫なわけねえだろこんなん。


「とりあえず、立てるなら立ってほしい」


そう言うとイケメンは黙り込んでしまった。立てないのか。困った。私は今バイト先の喫煙所でイケメンを抱きしめて座っている。ラッキースケベだと思えば良いのだがイケメンからしたら騒音立ててたクソガキに抱きしめられている状況なんて、たまったもんじゃないだろう。

さあどうする、とりあえず、大人に、店長に電話をしなければ。


メーデー!メーデー!!


マエ モドル ツギ

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