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紙切れに書かれた手書きの線。
道筋を示すその線は、行きたくもない目的地へ誘う苦痛の線。
「成瀬…、ここでいいんだよね?」
“成瀬”と書かれた表札の前で、栞は松本から渡された地図を片手に立ち尽くす。
「…大きな家…」
呆気に取られて見つめた先には、4、50坪の大きな家。
一般家庭が30坪だと想定すると、なかなかの豪邸である。
「成瀬くん家って…お金持ちなのかな」
そう呟いて、思わず中を覗き込む。
目的は、数学のプリントを渡す事。
…を、口実に学校に来るよう説得する事である。
「普通こういうの、教師の仕事じゃないのかな…」
文句を言いつつも、来てしまっては後には退けない。
栞は恐る恐る表札の脇にあるインターホンを押した。
機械音が室内に響き渡るのを耳にし、ドキドキと緊張した面持ちで反応を待つ。
「あれ…?」
しかしいくら待っても応答の無い沈黙した家を見つめ、栞は再びインターホンを鳴らした。
「出ない…誰もいないのかな…」
「うーん」と悩みうろうろと家の前を行ったり来たりする彼女は、一歩間違えれば不審者である。
『―…おい、何やってんの』
突如低く唸るような声が背後から響き、栞は肩をビクリと弾ませた。
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