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振り返った先にいたのは、栞と同い年くらいの男。

特にセットされている様子のない、限りなく黒に近い茶色の髪。
長めの前髪が僅かに彼の目を隠すが、気だるそうな瞳はしっかりと栞を見据えている。

すっと通った鼻に、薄い唇。
思わず息を飲む程、彼は眉目秀麗というに相応しい顔立ちであった。

『…そこ、俺ん家。邪魔なんだけど』

「え?あっ、ご、ごめんなさい…!」

慌てて門の前から離れる栞を横目に、男は彼女を素通りしていく。
門を開いて中へ入る彼の姿を眺め、ハッと栞は我に返った。

「あ、あのっ…!私、成瀬壱くんに用があって来たんですけど…!」

『……なに、アンタ誰?』

「え、えっと…壱くんと同じクラスの佐倉栞です。い、壱くんはご在宅でしょうか…?」

織愛の言葉に男はじろりと彼女を見つめ、見定めるような視線を向けた。
上から下まで見られている事に、栞の躰は緊張で強張る。

『……成瀬壱は俺だけど』

「…え!?」

そう名乗る目の前の男に、栞は目を丸くした。

成瀬壱(ナルセ イチ)

彼の家に訪れる前に、栞は友人から彼についての情報を提供してもらっていた。

飲酒、喫煙、喧嘩は日常茶飯事。
一年の終わりに先輩と喧嘩して、相手を病院送り。
お陰で停学処分をくらった彼は、停学期間が終わった後も学校に来ず、今に至る。
その容姿はいかにも悪そうな顔立ちに、誰も近付けないオーラを放つ。
彼に近付いた女は即妊娠。
彼の性行為に、避妊という文字はない。

「成瀬壱には近付くなかれ」

…栞が友人から聞いていた噂は、そんな所である。


目先に存在する彼からは、噂で聞いていたような雰囲気は感じられない。
強面でがたいのいい男を想像していた栞にとって、一目見て彼が成瀬壱だと気付けなかったのだ。




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