5 / 19
4
振り返った先にいたのは、栞と同い年くらいの男。
特にセットされている様子のない、限りなく黒に近い茶色の髪。
長めの前髪が僅かに彼の目を隠すが、気だるそうな瞳はしっかりと栞を見据えている。
すっと通った鼻に、薄い唇。
思わず息を飲む程、彼は眉目秀麗というに相応しい顔立ちであった。
『…そこ、俺ん家。邪魔なんだけど』
「え?あっ、ご、ごめんなさい…!」
慌てて門の前から離れる栞を横目に、男は彼女を素通りしていく。
門を開いて中へ入る彼の姿を眺め、ハッと栞は我に返った。
「あ、あのっ…!私、成瀬壱くんに用があって来たんですけど…!」
『……なに、アンタ誰?』
「え、えっと…壱くんと同じクラスの佐倉栞です。い、壱くんはご在宅でしょうか…?」
織愛の言葉に男はじろりと彼女を見つめ、見定めるような視線を向けた。
上から下まで見られている事に、栞の躰は緊張で強張る。
『……成瀬壱は俺だけど』
「…え!?」
そう名乗る目の前の男に、栞は目を丸くした。
成瀬壱(ナルセ イチ)
彼の家に訪れる前に、栞は友人から彼についての情報を提供してもらっていた。
飲酒、喫煙、喧嘩は日常茶飯事。
一年の終わりに先輩と喧嘩して、相手を病院送り。
お陰で停学処分をくらった彼は、停学期間が終わった後も学校に来ず、今に至る。
その容姿はいかにも悪そうな顔立ちに、誰も近付けないオーラを放つ。
彼に近付いた女は即妊娠。
彼の性行為に、避妊という文字はない。
「成瀬壱には近付くなかれ」
…栞が友人から聞いていた噂は、そんな所である。
目先に存在する彼からは、噂で聞いていたような雰囲気は感じられない。
強面でがたいのいい男を想像していた栞にとって、一目見て彼が成瀬壱だと気付けなかったのだ。
≪≪prev
<<<
ホームに戻る