「それ、もうバレてるだろ。間違いなく」
冷静な言葉と共に、紫郎は呆れたような視線を匠へと向けた。
学生にとって至福である昼休みに、匠は自分で作ったお弁当を机に広げた。
賑やかな教室内の窓際の席が、匠の定位置。
その前の席に座り、購買で買って来た焼きそばパンをかじる紫郎は、短く溜め息を吐き出した。
「女として見れるかって聞いたんなら、告ったようなもんじゃねーか。さすがの凌さんでもお前の気持ちに気付くだろ」
「やっぱり気付いたかな?でも、私のこと女の子だって。妹のような存在って言ってたよ」
「フラれてんじゃん」
「フラれてない!」
声を荒げてぶすっとタコの形をしたウインナーに箸を突き刺した匠は、それを口の中に放り込み、険しい顔でもぐもぐと咀嚼した。
「お前な、行儀悪いぞ」
「紫郎がムカつくこと言うから」
「事実を言っただけだろ。怒んなよ」
昨夜の凌とのやり取りを相談していた匠は、不機嫌そうな顔で紫郎を睨んだ。
凌にとって自分が恋愛の対象になるかという意味を含んだ昨日の質問は、果たして叔父である彼に伝わっていたのだろうか。
『妹みたいな存在』などと言われてはぐらかされた。
これは遠回しにフラれたということなのだろうか。
「やっぱり妹ってことは、私を女として見れないってことかな?」
「普通に考えてそうなんじゃねーの」
考える間もなくあっさりと言葉を返しながら、紫郎は食べ終わった焼きそばパンのゴミを袋に入れ、今度はカツサンドを取り出した。
購買でも人気があり競争率の高いパンを食べている紫郎を更に不機嫌な顔で睨んだ匠は、唇を尖らせる。
「ねぇ、もうちょっと真剣に答えてよ。このままじゃ私、しのくんにとってただの妹ポジションだよ!」
「……だから、そういうことだろ。いいじゃねーか、妹で」
「妹じゃ土俵にも上がれてないじゃん!私はしのくんに、女として見てほしいの」
「女ねぇ……」
そう呟くなり紫郎は視線を匠の顔から胸の付近まで下ろし、ふっと鼻で笑った。
「つっても、お前じゃ胸も色気も足りないだろ」
「はぁ?なにそれ!脱いだらすごいんだからね!」
「脱いだらって、見たまんまだろ。んなこと言うなら、一度確認してやろうか?」
「ばかっ!」
真っ赤な顔で怒る匠の姿に、紫郎は思わず吹き出して笑った。
学校では基本無表情で過ごし、クールビューティーなどと騒がれ男子に人気がある匠も、紫郎の前では本来の性格を曝け出して表情をころころ変える。
小中学時代に受けた執拗な嫌がらせが傷となり、学校では感情を面に出さないように努めているのだが、唯一の友人である紫郎に対しては別だ。
おかげで校内では紫郎と付き合っているという噂が流れている。
紫郎自身はまったく気にしていないようだが、モテる割には高校1年の時以来彼女を作っていないので、常に一緒にいる自分の存在が邪魔をしているのではないかと心配になるくらいだった。
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