小さい頃から、しのくんは私にとって特別な存在だった。
『叔父』『家族』『妹』
突き放すように敢えて口にされた言葉は、これ以上の関係を拒むしのくんからの線引きだ。

ただの姪でしかないことぐらい分かっていたのに。
いちいち傷付いているのが、ばかみたい。





「しのくん、起きて!朝だよ!」

シャッとカーテンを開き、朝の光を室内に入れる。
窓から差し込んだ日差しに眉を寄せる凌の顔を覗き込み、匠は「しのくん!」と二度目の呼びかけをした。

「あれ……匠……」

「おはよう。起きた?早くしないと遅れちゃうよ」

制服の上からエプロンを身に付けた匠は、眩しそうに腕で目元を隠しているまだ覚醒途中の凌を困ったように見つめた。

なんでもそつなくこなせる凌も、朝には弱い。
一人暮らしをしていた頃は当然自力で起きていたらしいのだが、毎朝匠に起こしてもらえることで今ではすっかり甘え気味だ。

眠そうに眉間に皺を寄せたまま、薄っすらと開いた凌の瞳が匠を捉えて首を傾ける。

「匠……、今日は起こさないんじゃなかったの?」

「だってしのくん、起こさなきゃ起きないでしょ」

「昨日はあんなに怒ってたのに、それで結局起こしに来ちゃうんだ?」

凌の言葉に匠は頬を赤らめると、「もお!」と恥ずかしさを誤魔化すように声をあげた。

「そんなこと言うなら、明日から本当に起こしてあげないから!」

「ごめん、待って匠」

ベッドから躰を起こした凌に手首を掴まれて振り返れば、寝起きの柔らかな笑顔を向けられ匠の心臓は思わずどきりと跳ねあがった。
掴まれた手首が熱いのは、どっちの体温だろうか。

「怒んないで。あんまり可愛いから、意地悪言いたくなった。いつも感謝してるよ、ありがとう」

乱れた髪で穏やかな笑顔を見せるのだから、ひとたまりもない。
この天然人たらしの叔父は、今引き留めている相手に昨夜なにを訊ねられたか分かっているのだろうか。

凌の掠れた声に匠は先程よりも一層顔を赤く染めると、じんわりと手のひらに汗が滲むのを感じた。

「しのくん……っ、寝ぼけてるで
しょ……。も、ご飯の準備するから……、離して」

真っ赤な顔で匠が俯けば、凌は漸く自分のしていることに思い至ったようで、「わるい」とすかさず手を離した。
解放された手首を触りながらちらりと凌に視線を送り、すぐに目を伏せる。

昨日の今日でこの態度では、向けられる好意に疎そうな凌にでさえ、意識していることがばればれなのではないだろうか。

「あの、ご飯もうできてるよ。しのくんの分もよそっておくから、早く来てね」

「ああ……、うん。ありがとう。着替えてすぐ行くよ」

匠は小さく頷くと、ぱたぱたとスリッパを鳴らして凌の部屋を後にした。

触れられた手首に残る熱が、いつまで経っても消えなかった。



06

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