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「咲っ…!」
開け放ったドアの先から、明るい声が俺を呼ぶ。
尻尾を振る犬のごとく近付いて来た少女は、満面の笑みで俺に抱き付いた。
『乃愛、いい子に留守番していた?』
「うん!咲が来るの待ってたの!」
そう言って嬉しそうにはしゃぐ彼女は、あの日から変わらず無垢な瞳で俺を見据える。
彼女を買ったあの日から、8年。
正確な生年月日など知らないし興味も無いが、彼女は明日で16歳になる。
俺の中では、この屋敷に来た日が彼女の誕生日だ。
奴隷として買われた少女は、今だに穢れを知らない。
広い部屋を与え、綺麗な服、温かい食事、学問までも自ら教え込んだ。
奴隷としては有り得ない生活を与え、普通の女として彼女を育てた。
それでも、彼女に自由だけは与えなかった。
用意された広い一室。
彼女はその部屋から、只の一度も出た事はない。
外に出れば、穢れを知る。
異質なこの屋敷で、唯一綺麗なもの。
それが乃愛だった。
俺の奴隷。
俺だけの、モノ。
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