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それは、細やかな良心。

これから乃愛の身に起こる残酷な行為への、ほんの一瞬の幸福。

この後彼女が抱く苦痛を想っての、小さな優しさだった。



はぁはぁと荒い呼吸を繰り返しながら、乃愛は頬を紅潮させて天井を見ていた。
何が起こったのか理解もできていない様子で、虚ろな瞳をさ迷わせながら力無く横たわる。

俺は汗で張り付いた彼女の前髪をそっと掻き分け、唇に優しく口づけた。

「さ、く…」

唇に触れた体温に意識をこちらに向けると、消え入るような声で俺の名前を呼んだ。
涙に濡れた瞳が切なげに俺を映し出し、その表情はどこか妖艶で美しい。

『…乃愛、まだ終わりじゃないよ』

言いながら乃愛を跨いで自身のワイシャツのボタンを片手で外していく。
煩わしい衣服をとっとと脱ぎ捨て上半身を剥き出しにすると、乃愛は驚いたように目を丸くした。

「咲…、私と違う…」

『…そりゃあ、ね。男と女だから』

「咲は…、男の人…」

興味あり気に震える指先を俺に伸ばす乃愛の手を取り、胸板に彼女の手を誘導する。

『…乃愛の手、温かいな』

「咲も…あったかいよ」

『じゃあ…、同じだね』

無垢な瞳で俺を見つめる乃愛へと微笑むと、彼女は数回瞬きを繰り返した後こくりと頷いた。

「…同じ、咲と。嬉しいね」

柔らかな笑みを向ける乃愛の姿に、俺は息を呑んだ。


これから行う非道な行為への躊躇いが、瞬時に躰の中を駆け抜ける。


―…こんなはずじゃなかった。


8年もの間、彼女を壊すこの日を思い描いて欲望を抑えてきたのに。
俺には“あの”両親の血が流れていて、その穢れからは逃れられないというのに。

彼女を穢せば、俺は落ちるところまで落ちて行く。

この屋敷で唯一綺麗で、穢れのないもの。
俺に穢された彼女の心は、美しいままでいられるだろうか。

どんなに躰を蝕まれても、綺麗なままでいてくれるだろうか。


『……乃愛、俺は…もう後には引けないんだよ』


『…ごめんな』


静かな声でそう呟いて、彼女の脚を開かせ躰を間に捻じ込む。
ベルトに手を掛け自身の欲望を取り出すと、俺は安堵に口許を歪めた。

罪悪感を抱いたところで、結局俺の本質は変わらない。
そそり立つ自身の肉欲が、それをすべて証明している。


…本当に彼女が大切ならば、こんな欲望が剥き出しになるはずがない。


「さ、く…なにするの…」


異様な俺の雰囲気を察したのか、乃愛は再び躰を強張らせた。

『…最初に乃愛の中に入るのは、俺自身がよかったんだよ。慣らさなかったから、辛いだろうけど我慢して』

そう囁いて、熱く脈打つ欲望を彼女の濡れた秘裂へと押し当てた。


『……ひとつになろうよ、乃愛』


ぐっと力を込めて彼女の入り口を強引に押し広げると、がらがらと俺の中で何かが崩れ落ちる音がした。





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