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柚那と上条の間に流れる不穏な空気に、雄史の背中には一筋の汗が滲む。
「な、なんで…上条さんがそんなこと言うんですか…」
今にも泣き出しそうな柚那の表情は、先程雄史の告白を断る時より悲し気だ。
『…だってお前、俺しか知らねーじゃん。一回試してみたら、藤井の方が良くなるかもよ』
「っ…、」
さらりと告げた上条の問題発言に、雄史の表情は固まった。
柚那に付き合っている人がいると知ったのは、ついさっきだ。
その相手がまさか、上司である上条だったとは夢にも思わない。
『ちょ…、武藤と上条さんってどういう関係なんですか?』
『…どうって、世間一般には恋人って呼ぶんじゃないの』
『なぁ?』と上条が同意を求めるが、柚那の表情は険しいままだ。
『なんだよ、邪魔した事怒ってんの?』
「ち、違います…!そんなことじゃなくてっ…」
上司である上条とは、既に1年の恋人関係になる。
とは言え甘い言葉など一度も聞いた事がなければ、彼の都合の良い時に呼び出され、体を重ねるばかり。
これではまるで都合の良い女だが、柚那以外の女に手を出さない所が唯一の救いだ。
彼氏いない歴20年に終止符を打ち、全ての“初めて”は彼に捧げた。
他の男の善し悪しなど、柚那は知る筈もない。
『…せっかくだから、試してみろよ』
上条のその言葉の真意を尋ねる事も出来ないまま、三人の間には異様な雰囲気が漂っていた。
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