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「な、なんですか…ここ…」
有無を言わせず連れて来られた場所に、柚那は愕然とした。
『何って、ホテル』
平然とそう応え、上条はソファにドカッと腰を下ろした。
徐に煙草に火を付け、白い煙を吐き出し足を組む。
『…何突っ立ってんの。早くヤりなよ』
目の前に置かれたダブルベッドを見つめ、柚那と雄史は呆然と立ち尽くした。
連れて来られた高級ホテルの室内は、間接照明が広々とした空間をぼんやり照らす。
そこで彼の口から出た言葉は、二人の常識では考えられない発言だった。
『な、何言ってるんですか…上条さん』
『だからー、ヤれっつってんの。武藤と』
『お、おかしいですよ…。上条さん、武藤と付き合ってるんですよね?』
『だね、それって問題?彼氏がいたって他の男とヤる女ぐらいいるでしょ。
しかもこれは、その彼氏からの許しがあんの。問題ないだろ?』
予想も出来ない上条の言葉に、雄史は息を飲んだ。
自分の彼女を他の男に提供するなど、雄史には考えられない事実だった。
上条という男は、オンとオフに激しいギャップがあり、偏った性癖の持ち主である。女に執着が無ければ、セックスに愛を求めない。
今現在も雄史と柚那の動揺する様が彼の目には滑稽に映り、加虐心を煽るのだ。
『武藤…、この人おかしいって…。帰ろう』
「あ…、」
表情を険しくした雄史は柚那の手を掴むと、足早にドアの方へと向かう。
上条を気にして柚那が振り返ると、彼の不適な笑みと視線が絡み、ドキッと大きく心臓が跳ねた。
『―…柚那、』
低く穏やかな声色で名前を呼ばれ、柚那は思わず立ち止まる。
『ほんとに帰るの?』
「…っ」
鋭い瞳に射ぬかれ、柚那の不安気な瞳が揺れる。
上条は灰皿に煙草を押し付けソファから立ち上がると、柚那の方へと足を進めた。
『…お前が、俺から逃げられんの?』
「あっ…、やっ…!」
グッと腕を掴まれ強引に引き寄せられ、柚那の体は上条の腕の中にすっぽりと埋まった。
『…藤井、お前が思ってるよりずっと、コイツは淫乱だぜ』
上条はニヤリ口角を上げると柚那の体を反転させ、雄史と向き合う形で彼女の腰に腕を回した。
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