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律と澄は同級生で幼馴染だ。
家が隣同士で小さい頃から毎日のように一緒に遊んでいた。
(隣と言っても敷地が広いのでそこそこの距離はあるのだが)
澄の家の周りには近所と呼べる家は少なく、同じ年頃の子供がいるのは如月家だけだった。
必然的に、律とは一緒に過ごすことが多かった。
律と、あともう一人。
「雨の日は危ねぇから一人で来るなって、昔から言ってるだろ」
膝に手を置き頬杖を付くと、不機嫌そうに律はそう言った。
「律だって、来てるじゃない」
「俺はいいんだよ」
「なんで律はいいの、意味分かんない」
ムッとして眉間に皺を寄せたものの、律と普通に会話している自分に驚いた。
律とは中学二年の夏以来、今まで必要最低限以外は一切会話することなく過ごしてきたからだ。
中学二年の夏の、“あの日”以来。
「…つーか、久しぶりに話す気になったってことは、何か用があんだろ。取り合えず座れば」
律に促された澄は汚れた靴を脱ぐと、逡巡したのち彼の隣に腰を下ろした。
六帖程の小屋にはテーブルや座椅子、クッションなどが澄達によって持ち込まれ、居心地のいい空間が作られている。
この場所で三人、笑いあっていた日々が澄には遠い過去のようにすら感じられる。
膝を抱えるようにして座ったまま黙り込む澄の隣で、律は面倒くさそうに溜め息を溢した。
「…なんなんだよ、話せよ早く。今更お前に何言われたって、別に気にしねぇよ」
頬杖を付いたままそっぽを向く律に、チラリと視線を向ける。
二年近くもまともに話していないにも拘らず、彼にはきちんと澄の言葉を聞く気があるらしい。
ワックスで整えられた柔らかそうな律の黒い髪を見つめ、澄はそっと深呼吸をした。
「私…、謝りたくて…。あの日のこと…二人に」
「ごめんなさい…、私…二人に酷いことした」
突然の謝罪に律は思わず澄の方へと顔を向けると、眉間に深い皺を寄せた。
彼女の言葉の意味が分からない。
「なんだよそれ…、何でお前が謝んの」
心底驚いたように不快感を表す律の表情は、薄暗い部屋の中でも見て取れた。
「俺たちはあの日…、お前を傷付けたんだと思ってた。だからお前は俺たちを拒絶して、離れていったんじゃないのかよ」
そう。あの日。
二人から距離を置いて離れていったのは、私。