5
最初は好奇心とか興味本位。
お互いのことをもっとよく知りたかった。
もっと、深く。どこまでも。
三人で。
窓の外が暗くなるにつれて、小さい小屋の中は徐々に光を失っていくように闇が広がり始めていた。
こちらを見つめる鋭い瞳と視線を絡ませ、澄は自身の過ちに気が付いた。
どうしようもない程の誤解が、二人の間を隔てている。
「律は…あの日のこと、私が傷付いてると思っていたの…?ずっと…」
呟くように出た言葉に、律は更に表情を険しくした。
「違うのかよ」
「…違う、違うよ…。私はここで起こったこと、後悔なんてしていない。二人のこと嫌いになったり、嫌だと思ったことなんて一度もないよ」
身を乗り出すようにして律の方に躰を向けると、澄は訴えるように彼の瞳を見つめた。
近付いたその顔を困惑した表情で見返した律は、思わず乾いた笑いを漏らす。
「…意味分かんねぇ。…帰る」
「え、待って…、律…!」
ボストン型の学生鞄を肩に掛けて立ち上がる律の腕を、澄は咄嗟に掴んだ。
「…離せよ」
「お願い…、聞いて律…!」
「離せよっ!」
自身の腕を掴む澄の手を強引に振り払い、見向きもせずにそのままドアへと向かう。
外は相変わらずの雨が降り続き、日が沈む時刻を越えた周辺はすっかり暗くなっていた。
小屋に取り付けられた外灯の明かりだけが、辺りをやんわりと照らす。
律はビニール傘を広げると、濡れた地面に足を踏み出した。
その後を追うように、澄が裸足のまま小屋から飛び出して来る。
「律…!待って…!お願いっ…!」
靴下が汚れることも気にせずぬかるんだ地面を踏みしめて追いかけて来る澄に気が付くと、律は短く舌を鳴らした。
「お前っ…、ほんとふざけんなよ。今更後悔してないなんて言われて、納得できると思ってんのかよ!後悔してないって言うなら、何で俺たちから離れたんだよ!」
怒りをぶつけるように怒鳴る律の姿に、澄はその場に立ち尽くした。
降りしきる雨が冷たく全身を濡らしていく。
「……俺は、後悔したよ。俺たちのしたことがお前を苦しめてんのかと思ったら、…死にたくなるほど後悔した」
呻くように言葉を絞り出し、視線を落とす。
中学二年のあの夏、突然澄は離れていった。
昨日まで、あんなに一緒にいたのに。
あんなに、“すべて”をさらけ出していたのに。