ひみつ基地




高校からバスで三十分程揺られ、バス停から徒歩十五分。
田んぼ道を抜けた先に何軒かの家が並び、そのうちのひとつが澄の家だった。

バスから降りた澄は家に向かう道を歩く途中で、脇道に入る。
木が立ち並び、車一台分が通れるくらいの土道を慣れた様子で歩いて行く。

途中舗装された広い分かれ道に出ると、迷う事なく正面にある雑草が生い茂る道とは言い難い傾斜道を選択した。

「…やっぱり、雨だと少し滑る」

生い茂る雑草を避けるように傘を少し持ち上げ、滑りやすくなっている濡れた地面を慎重に進む。
通り慣れた道とはいえ、殆ど人の通らない林道だ。
雨の日は特に油断してはいけない。

子供の頃は、よく滑って転んでたっけ。

懐かしい気持ちになりながらも、ぐんぐん奥へと進んでいく。
木に遮られて光のあまり入らない道は、天気の悪さも重なって薄暗い。

汗がじんわり滲んできた頃、やっとのことで開けた場所に辿り着いた。
どんよりと曇った空が見えるだけでも、通って来た道より充分明るい。

「着いた…、靴汚れちゃったよ」

澄の視線の先には、ポツンと古びた小屋が一軒。
切り妻屋根の小さなその小屋は、昔は物置として使われていたらしい。
外観は薄汚れているが、中はまだまだ悪くない。

何せ澄が中学の時に、せっせと新しい木材で補強したり、掃除したりと頑張ってメンテナンスしていたのだから。


ここが私の秘密基地。

“私たち”の、秘密の場所。



澄は小屋のドア前まで来ると、視線を落として取っ手に手をかけた。
後から新しく備え付け直した鍵は外れている。

…誰かいるのは間違いない。

この鍵を持っているのは、澄を含めて三人だけだ。

ドキドキと心臓が早鐘を鳴らす。
澄はそっとドアを開けて、中を覗き込んだ。


「誰か…いる?」


明かりの点いていない薄暗い小屋の中をぐるっと見渡すと、膝を立てて座りながら壁に持たれる人影がひとつ。
澄にはその人物がすぐに誰だか分かってしまう。

「律…来てたんだ」

「はぁ…、お前こそ雨降ってんのになんで来てんだよ。澄」

呆れたように溜め息をついた人物は、先程学校の昇降口で別れた相手。
如月 律(キサラギ リツ)だった。






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