ひみつ基地




遠山華恋は小動物のような愛くるしい顔立ちに、ふわふわの長い髪が印象的な女の子だ。
低めの身長とは裏腹に、存在感のある元気で明るい性格は男子からも女子からも好かれている。見た目は守ってあげたい女子代表のような子だが、本人は守ってもらう気など更々ないようなタイプである。


対して自分は…

「はぁ」と小さく溜め息を溢しながら、澄はショートカットの自身の黒髪を撫でた。

小さい頃から髪は短いまま、記憶にある限りでは一度も伸ばしたことはない。
身長は160センチあり、華恋と並ぶとよく目立つ。
きりりとした二重瞼に、すっと通った鼻。目鼻立ちのはっきりとした美人であるのだが、澄自身はそう思ったことは一度もない。

華恋のような元気で可愛らしい女の子になりたい気持ちもあるが、今の自分には到底無理なことだと半ば諦め気味だ。

恋だのなんだの、そういった気持ちがどんなものかも今だによく分からない。

「もう、雨はいつになったら止むの」

昇降口で立ち尽くし、しとしとと降る雨を眺めて肩を落とす。
授業も終わって帰り支度を済ませた澄は、憂鬱な気分で空を仰いだ。

「……傘、持ってねぇの?」

不意にすぐ横で低い声が頭上から響き、澄はビクッと肩を弾ませた。
振り向いた先にいたのは、長身の男子高校生。
彼の鋭い瞳とほんの一瞬目が合い、澄は僅かに躰を硬直させる。
話かけている相手が自分であると認識するのに、数秒の時間が必要だった。

「えっと…、大丈夫!折り畳み傘持ってるから」

「ほら」と言って肩に掛けていた鞄から水色の折り畳み傘を取り出すと、澄はぎこちない笑顔を見せた。

「ふーん…、ならいいけど。気を付けて帰れよ」

男子生徒はそう言うと手にしていたビニール傘を広げ、さっさと雨の中を歩いて行ってしまった。

その後ろ姿を見つめながら、澄はほっと息を吐き出す。


もうずっと考えていたこと。

悩んでも悩んでも、はっきりとした答えは出なかった。


澄はスカートのポケットから華恋の連絡先が書かれた紙を取り出し、祈るようにそっと握りしめた。


この小さな“きっかけ”に、懸けることにした。


「ごめんね…華恋」


罪悪感を胸に抱き、消え入るようなか細い声でそう呟いた。






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