12
帰り支度を済ませた礼と合流し、バス停に向かって三人で連れ立って歩いた。
「三人で帰るのなんてすっごく久しぶりだね」
澄は嬉しそうににこにこと笑いながら、礼と律の間を歩く。
三人で並んで歩く時は、決まって澄が真ん中だ。
「中学以来だからな、一応」
「高校でも一緒に帰れる日が来るなんて思ってなかったから、嬉しい」
「…澄が嬉しいと、俺も嬉しいよ」
さらりと言ってのける礼へと、澄は「えへへ」と照れ笑いして見せる。
律は興味なさそうに会話に参加することなく少し前を歩いているが、歩幅は澄に合わせるようにいつもよりゆっくりだ。
「礼の弓道着姿初めて見たけど、似合ってたね。かっこよかった」
「……それは、照れるな」
ご機嫌に微笑む澄から視線を外し、僅かに熱を持つ頬に気付かれないよう顔を逸らした。
利き手である左手の甲で口許を隠すのは、礼の癖だ。
「…それで、律はただ一緒に帰る為だけにわざわざ俺を待ってたんじゃないだろ」
「ふっ、それこそわざわざ言わなくたって分かってんじゃないのかよ?」
「……弟の考えてることが言わなくても分かるって言うのは、正直どうなんだよ…」
憂鬱そうにそう呟く礼の姿を不思議に思い、澄は訳も分からず首を傾げた。
兄弟だけで何か通じ合っているようだ。
少し面白くない。
「なぁに?どういうこと?」
「……当事者は何も分かってないみたいだけど」
「そいつはアホだから仕方ねぇよ」
しれっといきなり馬鹿にされて、澄は黙ったまま頬を膨らませた。
律の発言はいつだって腹立たしい。
「はは、怒るなよ澄。俺のところに来る前に、律とは何かあったんじゃないのか?」
「……え?」
一瞬澄の中で時間が止まった後、思い出したかのように顔を一気に赤く染めた。
律と“何か”があったことを、どうして礼は分かってしまうのだろう。
「あ、あの…」
「ああ、大丈夫だよ。分かってるから。というか、言っただろ?律のやつは、どうせそのうち我慢できなくなるって。こいつは昔から澄のことしか考えてないんだから」
「お前にだけは言われたくねーぞそれ!」
「……まぁ、確かに。兄弟揃って澄のことで頭がいっぱいってことだよ」
隣を歩く礼が口許に笑みを浮かべてそう告げると、澄は思わず唇を結んだ。
こんなことを言われて、嬉しくない人がいるのだろうか。
真っ直ぐに自分を想ってくれるその気持ちに、沸々と罪悪感が湧き上がる。
「…な、なんで、そんなに大事に想ってくれるの…?私…二人にそんな風に想ってもらう資格ないよ…。中途半端で…最低だって、分かってる…」
「二人のこと大好きだけど…、どっちの方が好きとか…そんなの、分からないし…決めたくないよ…」