ひみつ基地




何が起こったのか理解するより先に口内に律の舌が侵入し、澄の躰はびくりと震えた。

「んっ、っ…」

ねっとりと絡みつくように逃げる澄の舌を捕らえて口内を犯し、漏れ出る抵抗の声は口の中で消えていく。
律の胸板を押さえて力を込めようにも、まるで手ごたえがない。
それどころか角度を変えて深まるキスに、躰の力が抜けていく。

「り、つ…、…やっ、ぁ」

薄っすらと目を開けて懇願するように眼前の人物を見やると、鋭い瞳に射抜かれ堪らずぎゅっと目を瞑った。
唇を舌でなぞられ吸われると、今にも食べられてしまいそうな錯覚に陥りぞくぞくと全身に痺れが走る。

「っ…」

ちゅっと小さな音を立てて柔らかな唇が離れ、触れ合っていたお互いの舌から唾液が糸を引いていやらしく光る。
離れた唇からは熱い吐息が漏れ出し、二人は唇が触れるぎりぎりのところで乱れた呼吸を整えるように息をした。

澄は濡れた唇を結んで微かに震える手で律の胸板のシャツを掴み、潤んだ瞳を揺らした。

「ど…して…、こんなことするの…?律にとって、私はただの幼馴染だって言ったじゃない…。律のことが…分かんないよっ…」

既に緩んでいた涙腺から涙が一筋零れ落ちる。
キスが嫌だったからではない。
律が何を考えているのか分からないことが、どうしようもなく不安で、怖いのだ。


訴えかけるような澄の濡れた瞳を避けるように律は顔を背けると、諦めたように小さく息を吐き出した。

「……お前はなんも知らねーんだろうけど。お前に拒絶されたあとの礼は、見てられないくらい落ち込んで大変だった。一週間くらい飯もほとんど食わねーし、必要最低限以外は部屋から出て来ねーし」

「…アイツには、お前が必要なんだよ」

感情の無い声で淡々とそう言うと、律は自虐的に口角を上げた。

「お前が礼を選ぶんなら、俺は別にそれでよかったんだよ」

どこを見るでもなく伏せられた瞼から、長い睫毛が覗く。
考えるように一瞬の間を置き、律は真っ直ぐに澄を見つめた。
その迷いの無い黒々とした瞳に、澄の心臓は大きく跳ね上がる。

「……それでいいって思ってたんだけどな。結局最初から、んなこと無理な話だった。ムカつくことに、礼のやつは分かってたみたいだけどな」

「…ただの幼馴染なんて、思ってねーよ。ガキの頃からお前はずっと特別で、俺はずっとお前が欲しかった。今もその気持ちは変わってない。このまま何もしないでぽっと出の男に奪われでもしたら最悪だからな、…もう遠慮すんのやめるわ」

口許に笑みを浮かべてそう告げる律の表情はどこかすっきりとしたようで、自信に満ちた男の顔をしていた。


躰を重ねた日以上に、律が男の人に見えるのは何故だろう。
律と向き合って、初めてこんなにも心臓が壊れそうな程脈打っている。


「…覚悟しとけよ澄、今まで散々お前には振り回されてきたからな。今度は俺たちに、お前が振り回される番だ」





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