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朝のSHRが終わると、澄は膨れっ面で机の上に突っ伏した。
律が何を考えているのか分からない。
毎朝一緒に登校しているのだから、澄と行動を共にするのを嫌だと思ってはなさそうだ。
それでも時々、突き放すような態度を見せることがある。
澄を心配する言動や、所々で垣間見える優しさは昔と変わらないはずなのに、律がまるで知らない人のように映るのだ。
離れている間に、礼も律も大人になってしまったような。
一人だけぽつんと取り残されたような疎外感を澄は感じていた。
「すーみ!登校中に道で如月くんとキスしてたってほんと?」
ひょっこりと笑顔の華恋が目の前に現れると、澄は勢いよく顔を上げた。
「してないっ!なんでそうなるの…!」
「あ、やっぱり?澄と如月くんが顔近付けて見つめ合ってたって言われてるけど」
「〜っ、違うのにぃ〜!見つめ合ってないから!」
「あはは、分かった分かった。でもすっかり噂になっちゃったね、二人のこと」
同情するように笑う華恋を横目に、澄は不服そうに唇を尖らせた。
無愛想だが外見がいい分、律は一年男子の中でも目立つ存在だ。
入学してまだ三ヶ月程だと言うのに、何人か彼女もいたらしい。
来るもの拒まず去るもの追わずの精神で、どれも長続きしていない。
「…別に、ただの幼馴染なのに」
「うーん、如月くん女子にはかなり素っ気ないらしいからね。澄と一緒にいる時笑ってたことが結構驚きみたいだよ」
「馬鹿にされてるだけだよ」
「あらまぁ、完全に拗ねてる」
不機嫌な顔で頬杖をつく澄を見て、華恋は困ったように笑った。
律が関わると子供っぽくなることが新鮮でなんだかおかしい。
「逢坂さーん、呼ばれてるよ」
華恋と話している最中に、クラスの女子から声がかかった。
言われるがままに視線を教室の入り口に移すと、男子生徒が澄に向かって笑顔で手を上げた。
上履きの色が、学年の違いを表していた。
「二年じゃん。誰だろ?」
「うん…、知らない先輩。ちょっと行ってくるね」
澄は席から立ち上がると、ドアの方へと向かった。
二年生の知り合いなど幼馴染である礼と書道部にしかいない澄にとっては、要件がまるで思いつかない。
「あ、逢坂さんだよね?俺、二年の涌井です。陸上部の部長やってるんだけど、ちょっと話いいかな?」
涌井(ワクイ)と名乗った男子生徒は、緊張した面持ちの澄に柔らかな笑顔を向けた。