ひみつ基地


14



「走りたくなったら、また走ればいいよ」

穏やかな声音で礼はそう言うと、隣に座る澄の頭を優しく撫でた。

「部活に入らなくても、走ることはできるし。澄が走りたくなったら俺も付き合うよ」

いつも通りの礼の優しい笑顔と仕草に、澄は頬を赤く染めた。
意識してしまっている自分が、どうしようもなく恥ずかしい。
普段と変わらない様子の礼に対して、こんなにも不自然な自分がいる。

「…うん、ありがと。礼はやっぱり優しいね」

照れ隠しをするようにえへへと笑って首元を摩る。
もう意識するのはやめよう。
そんな風に心を静めた矢先に、礼の手が首元を触る澄の右手を掴んだ。

「……礼?」

不思議に思って顔を上げると、掴まれた手とは反対の肩を押されるようにしてそのままベッドに押し倒される。

柔らかなベッドの感触を背中に感じ、目の前にある礼の端正な顔を見つめた。
顔の横で掴まれたままの手に視線を送り、再び礼へと視線を戻す。

「あ、あの…礼…?」

呆気に取られたまま瞬きをする澄へと、礼は不適な笑みを向ける。
その表情にただならぬ色気を感じ、澄の胸は一気にどきどきと鼓動を速めた。

「…昔は平気で俺のベッドに寝転がってたくせに。ちゃんと俺のこと意識してくれてるの、嬉しいよ」

礼は静かな低い声でそう言いながら、熱く火照った澄の頬へと触れる。
そのまま指を滑らせそっと耳朶を撫でると、澄はぴくりと躰を震わせ目を瞑った。

「…せっかく離れて座ってたのに、呼ばれたからって簡単に来ちゃだめだろ」

笑みを含みながら責めるような口調でそう言われ、澄は今にも壊れそうな心臓の音を抑えることもできないままくらくらとした眩暈を感じた。

「だ、って…礼だから…」

やっとのことで口を開いて、目の前にいる礼へと視線を送る。
今にも消え入りそうな澄の小さな声に礼はふっと笑みを浮かべると、彼女の瞳を覗き込むように顔を近付けた。

「逆だろ澄」

お互いの息遣いが聞こえてくるほどの至近距離で、礼の鋭い視線に捕らわれる。

「……相手が俺だから、もっと警戒しないと」

その言葉が最後まで届く前に、澄はきゅっと瞳を閉じた。
礼の唇が、そっと澄の唇へと重なる。

「っ…、」

優しく触れた唇は、すぐに離れた。
耳に触れていた礼の手が澄の頬を包むと、親指がゆっくりと唇をなぞる。
唇を開くように指が割って入り、澄の舌先に触れた。

「…そのまま」

呟くようにそれだけ言うと、再び礼の唇が重なり、開かれた口内へと舌がするりと滑り込んだ。





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