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昼休みに入るまで、授業の間にある休み時間にも華恋は話の内容を聞いてくるようなことはしなかった。
おかげで澄は自分の気持ちの整理をする時間が充分にとれた。
「ねぇ澄、せっかくだから中庭でお昼食べよ!」
澄への気遣いか、そう言って話がしやすい外に連れ出してくれたことも有り難かった。
中庭には花や木が植えてあり、いくつかのベンチが設置された広場のようになっている。
すぐ横には渡り廊下があり、昼休み中のため人が数人行き交っていた。
澄と華恋は空いているベンチに腰掛けると、早速お弁当を広げ始めた。
昼食時に学校にやってくる購買でパンやお弁当を購入することもあるが、今日は二人揃って母のお手製弁当だ。
「澄の話ってさぁ、もしかしてC組の如月くんのこと?」
華恋は卵焼きを口に頬張りながら、思い出したようにそう質問した。
C組の如月くんとは、もちろん律のことだ。
唐突に律の名前が出てきたことに、澄は首を傾げた。
「違うけど…どうして?」
「あれ、違うの?ちょっと噂になってたよ。朝一緒に登校して来なかった?」
「あ〜、うん。今日はバスが一緒だったから」
「それでか〜!C組の女子が話してたよ。新しい彼女かなって」
澄は華恋の言葉に驚いて目を丸くすると、慌てて首を横に振った。
「ないない!彼女じゃないよ!付き合ってないから!」
「なんだ、やっぱりそうだよね。澄の口から如月くんの話なんて聞いたことないし。この間彼女と別れたらしいから、みんな次を狙ってるみたいね」
「へ、へぇ〜…そうなんだ」
律に彼女がいても、何ら不思議はないなと澄は思った。
中学の頃から何度か女子生徒と二人で歩いているところを見かけたことがある。
ただし、相手はころころ変わっていたようだったが。
「如月くんってかっこいいけど、来るもの拒まずって感じだったから澄のこと心配だったんだよね!違うならよかった〜」
安心したようにご飯を口に運ぶ華恋を見て、澄の胸はぎゅっと締め付けられた。
まだ殆ど手を付けていないお弁当を見つめながら、そっと箸を置く。
「あのね、華恋。私、ずっと言えなかったことがあるの」
ぽつりと切り出した言葉に、華恋は箸を止めて澄を見た。
「なぁに?言ってごらん」
笑顔で優しく促され、澄は小さく頷いて深呼吸をする。
「実はね、私…小さい頃から、如月先輩のこと知ってたの。如月先輩…というか、礼のこと」
「家が近所で、小さい頃からいつも一緒に遊んでた。幼馴染だったの。今まで黙っててごめんなさい」
そう言って頭を下げると、華恋は大きな目をぱちくりとさせて不思議そうに澄を見返す。
「ん〜と、礼って如月先輩のことだよね。澄と先輩は昔から知り合いで、幼馴染だったってこと?どうして言ってくれなかったの?」
責めるわけではなく、単なる疑問として発せられた言葉だった。
幼馴染であることなど、明かさなかった理由が分からないという感じだ。
「その…中学の時にいろいろあって、それきり話さなくなっちゃったの。喧嘩…とかじゃないんだけど、一度こじらせてから話せてなくて。ずっとそうだったから、今更幼馴染だなんて言えなかった」