ひみつ基地




「…澄は先輩のこと好きなの?」

俯いた澄の表情を窺うように華恋は首を傾けた。
そんな思いがけない言葉に澄は迷うような素振りを見せた後、小さく首を横に振った。

「ごめん…、分からない。礼のことは好きだし大切だけど、兄弟みたいに育ってきたから…」

「え〜、そういうもの?あんなかっこいい人が近くにいたら私なら真っ先に好きになっちゃいそうだけど。澄の感覚麻痺してない?」

「ま、麻痺はしてないと思う……多分」

「本当に〜?」

疑うような眼差しで澄に詰め寄ったかと思うと、華恋は直ぐ様にっこりと微笑んだ。

「でもまぁ取り合えずよかった!澄が先輩のこと好きだったらどうしようかと思ってた!連絡先渡してほしいとか、すごく無神経なことしちゃったって心配だったから」

安心したように笑みを浮かべる華恋を見て、澄は無意識のうちに握り締めていた手にじわりと汗が滲むのを感じた。
礼に受け取ってもらえなかった彼女の連絡先が書かれた紙は、今もまだ澄のスカートのポケットに入ったままだ。

「…華恋、ごめんなさい。私…華恋の気持ちを利用したの。礼に連絡先を渡せずにいる華恋を見て、渡すのを引き受けたのは自分の為だった。礼に話しかけるきっかけが欲しくて…逃げ道を塞いだら話せる気がして」

ずっと、謝るきっかけが欲しかった

澄はスカートのポケットから小さな紙を取り出すと、そっと息を吐き出した。

「…これ、渡したけど受け取ってもらえなかった。華恋の気持ち…私が踏みにじったようなものなの…。本当にごめんなさい。…もう一緒にいられなくても仕方ないことしたって思ってる」

そう言って自分に向かって深く頭を下げる澄の姿を、華恋は黙ってじっと見つめていた。
澄の手に握られた紙をすっと抜き取り、開いてみる。
自身の連絡先が書き記されたその紙は、水分を含んだのか僅かに波打ってかさついていた。

「……それで澄は、先輩とはちゃんと話せたの?」

穏やかな声音で尋ねられ、澄はゆっくりと頭を上げた。
華恋の表情を見ても、その感情は読み取れない。

「…話せたよ。言わなきゃいけないことがあったんだけど、ちゃんと伝えて謝ることができた。私…ずっと礼たちのこと傷付けてきたんだけど、許してくれた…」

思い出すと、また胸が熱くなる。
自分が思う以上に礼と律は苦しんできた筈なのに、二人は許してくれた。
あの夜のことは、きっと一生忘れない。

「…ふーん、ならよかったじゃん!」

「え?」

意外にも華恋から明るい声が発せられ、澄は目を丸くした。
華恋はいつもの元気な笑顔でこちらを見つめていた。

「だって、先輩とまた話せるようになったんでしょ?これを受け取ってもらえなかったのはショックだけど、そもそも自分で渡さなかった私が悪いし。顔も名前も一致しない相手の連絡先を別の人から渡されたって、そりゃ受け取らないよね」

「澄が先輩と知り合いだったこと黙ってたのはちょっと酷いから、おあいこってことでいいんじゃないかな」

にっこり笑ってそう言うと、華恋は子供にするように澄の頭を撫でた。

「ほんと素直だよね、澄は。利用したとか黙ってればいいのに。きちんと話してくれてありがとう。私、澄の友達やめるつもりないからね」

優しく微笑む華恋の姿を見て、澄の目にはじんわりと涙が浮かんだ。






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