ひみつ基地


16



「…おい、勝手なこと言ってんなよ礼」

澄と礼のやり取りを一部始終見聞きしていた律は、不満そうに声も漏らした。

その機嫌の悪そうな声色に礼は口許に苦い笑みを浮かべると、澄から距離を取るように顔を離した。
澄は詰めていた息をほっと吐き出し、今だに静まらない胸の鼓動を気にするように手で押さえる。

「澄、勘違いすんなよ。こいつはお前のことしつこく好きだったみたいだが、俺はお前のことなんかもうなんとも思ってない。それこそただの幼馴染ってだけの存在だ」

眉間に皺を寄せたまま反発するようにそう言う律を見て、澄は小さく首を傾げた。

「律…もう昔みたいに戻れないって言ってたけど…」

「だから、昔みたいにお前らとベタベタくっついて過ごしたりしねぇってことだよっ!いいか、間違っても彼女ずらとかすんなよ」

「なっ…!しないよ!律の彼女ずらなんて…!するわけないでしょ!」

「ふん、どうだか」

鼻で笑った律の発言に澄は苛立って頬を膨らませる。
子供じみた二人の言動に呆れたように礼は溜め息を漏らすと、怒って膨れる澄の頭に手を置いた。

「ああ言ってることだし、取り合えず律のことはほっといていいよ。どうせ、そのうち我慢できなくなる」

「今は、俺のことだけ考えてればいい。…これからは遠慮なく攻めさせてもらう予定だから、覚悟しておいた方がいいかもよ」

そう言って不適な笑みを見せる礼の姿に、澄は一瞬呼吸を忘れた。
自信に溢れたその表情は、端正な顔をより一層整えて見せるのだから恐ろしい。

「おっまえ…!実の弟の前でクソ恥ずかしいこと言ってんじゃねぇーよ!」

「…別に、今更だろ」

「あ“−!痒い痒い!!お前らもう勝手にやってろ!ババアが飯だって言ってたから早く帰って来いよ!」

苛立ったように怒鳴り散らすと、律は本来伝えるべきだったであろう要件をさっさと告げて家の中に消えて行った。
残された二人は呆気に取られたように嵐のような存在を見送る。

「…律はまだおばさんのことをあんな風に呼んでるの…?」

「…まぁ、いつまで経ってもガキみたいなとこあんだよ。澄の件に関しては、俺がいるから素直じゃないんだろうけど」

溜め息混じりにそう言って肩を竦めると、礼は隣にいる澄に穏やかな笑みを向けた。

「澄、話に来てくれてありがとう。お前がわざわざ俺と同じ高校を選んでくれた時点で、こうして来てくれる日をずっと待ってた。偏差値高いとこに変えたのに、追いかけて来てくれたんだろ」

「……気付いてたの…?」

「そりゃあ、気付くだろ。勉強大変だっただろ」

「うん…大変だった…すごく…。でも、三人で同じ高校行くって…決めてたから…」

「律が澄にくっついてくるのは予想通りだったな。アイツも澄がいきなり志望校変えてから、かなり焦って頑張ってたよ」

当時の律を思い出して笑う礼の姿に、澄の頬を涙が伝った。

分かってくれていた。

急に変えた志望校。無理だと言われても、礼の後を追いかけたかった。

礼との繋がりを失いたくなかった。


「…ほんと、泣き虫だな」


泣き出した澄を見て困ったような笑みを浮かべると、礼は彼女の目尻の涙をそっと指で拭う。


「またよろしくな、澄」


学生にとって長すぎた二年弱。
すれ違ってきた気持ちは、これから少しずつ近付いていけるだろうか。


穏やかな礼の笑顔に応えるように、澄ははにかんだ笑顔で頷いた。







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