12
無表情のはずの礼の姿は、泣いているように見えた。
“…死にたくなるほど後悔した”
“後悔しながら生きてきた”
あの日から二人はずっと自分を責め続けてきた。
澄を傷付けて失った悲しみが、彼らをずっと苦しめ続けている。
「っ…」
目頭が熱い。視界が歪んで、とても我慢できそうにない。
澄の瞳から堪えきれない涙が零れ落ちると、礼は動揺して目を見開いた。
「澄…、」
「澄、ごめん…、嫌なこと思い出させて…。泣かせたかったわけじゃない」
俯いて涙を隠そうとする澄の顔を、困惑しながら窺う。
そっと手を伸ばして彼女の頬に触れようとするが、寸でのところで引っ込めた。
「どうして……?」
蚊の鳴くような声が聞こえたかと思うと、引っ込めた礼の左手は澄の手に掴まれ引き寄せられる。
礼の手を自身の顔まで持ってくると、澄は優しく頬を摺り寄せた。
「…嫌じゃないよ。礼にも、律にも、触られるの…嫌じゃないよ」
頬から伝わる澄の体温を左手に感じながら、礼はただ茫然と立ち尽くす。
彼女の温かい体温と流れる涙だけが、辛うじて現実に縛り付ける。
「私、あの日三人でしたこと、嫌なんかじゃなかったよ。そんなの、二人は分かってたでしょ…?私の嫌がるようなこと、二人は絶対にしないよ。私が受け入れてたこと、ちゃんと分かってたはずだよ」
そう、あの日の行為は、確かに同意のはずだった。
何度も何度も思い出しては、あの日の彼女を思い描いた。
苦しんでいなかったか、泣いて嫌がっていなかったか
考えても考えても、どこで間違えたのかが分からない。
どうして澄はいなくなった?
行動のすべてを後悔した。
「……じゃあ、どうして…」
苦痛を絞り出すように礼はそう呟くが、最後まで言葉は出て来なかった。
混乱して、頭が上手く回らない。
あれが原因でないのなら、何故彼女が離れて行ったのかが理解できない。
礼の言わんとする事を痛いほどに理解している澄は、躊躇いがちに瞳を揺らした。
律にも伝えきれなかったこと。
二人の傍にいられなかったもう一つの理由。